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敵幹部全員揃う時って大体円卓。※ここから本編
しおりを挟む――ここはとある妖精の国
とは別の場所。(何処だ)
その場所には、……まあ、俗的に言うと『魔法少女の敵』の組織の拠点がある。 拠点では、マンガやアニメで見るような少々人外な容姿のナニモノか達が暮らしていて、給料を貰うだとか、欲しいものを手に入れたいだとか理由は様々ではあるが、全体的に明日以降の衣食住を維持するために働いている。
一応、色々『ワケアリ』な人間も複数名所在しているが。
×
――ざわざわ騒がしい。
この建物のロビーは、沢山の音で溢れている。 普段よりも声の騒めきが多いのはきっと、昨日出された組織上層部からの発表が原因だろう。
『最上位幹部が新しく就任する』。
少し前に、この組織の12名居た最上位幹部が一人欠けた。 そして、それを埋め合わせる人物が現れたのだ。 一体誰が、どんな奴が、新たに幹部になったのだろうと、好奇心旺盛な野次馬達が騒いでいるのだった。
兎の面の女は、仮面の下で紅い目を閉じる。 本当に聞こえ難くするには、直接耳を塞いだ方が良いだろうが、女はそれが出来なかった。
「(周囲に隙を見せるわけにはいかない)」
女はぐっと気合いを入れて歩き出す。 羽織る黒と桃のケープの裾が、生成色の長い柔らかな髪と共に、ふわりと翻った。
×
「お前、また勝ち逃げしたのか?」
可笑しそうにニヤニヤと歯を見せ笑う男は、猿の頭蓋骨のような面を付けていた。 面は目元を完全に隠していて、目の穴からは琥珀の虹彩が月のようにぽっかりと闇の空に浮かぶ。
「なんだい? オレが勝ち逃げするのそんなに面白いかな?」
近寄る猿面の男に答えた長身の男の顔には、鳥を模した面が着けられている。 着けている面は顔全体を覆っていたが、嘴の辺りをスッと撫でると目元だけを隠す形状に変化した。 ただし目の穴は開いておらず、目の色を確認することはできそうになかった。
「いや。 ただ単に、向こうはすっげーもやもやしてんだろうなってのが面白くて笑ってんだ」
けらけらと猿面の男は笑う。
「趣味悪いねぇ」
「お互い様だろ」
通り過ぎて行く2人の男に見向きもせず、再び歩き出そうとしたその時
「ねぇ、君」
「っ?!」
いつの間にか背後に居た鳥面の男が、兎面の女に呼びかけた。
驚いて振り返ると、
「もしかして、『会議室に行きたい』と思っていたりする?」
声色は少し遠慮がちであったが、態度は全くそうでなく何故か口元に薄く笑みを浮かべていた (態度は『絶対そうでしょ?』と言いたげであった) 。
「どうした?」
異変に気付いた猿面の男が鳥男に並ぶ。
「ん? 何でもないよ。 君は先に行っといて」
「俺が方向音痴なの知ってて言ってるよな」
ひらひらと振るその手首を思い切り掴んで、猿男は鳥男に詰め寄る。
「ごめんごめん、冗談だよ」
本気にしないでよ、とやんわりと猿男の手を外しながら、鳥男は兎女に話し続ける。
「オレ達は今から『会議室』に向かうんだけど……もし、君が会議室に用事があるんだったら付いておいでよ」
兎女に向き直り、鳥男は駄目押しのように言った。
「余計なお世話かもしれないけどさ」
×
「……」
兎女は自分の前を歩く鳥男と猿男の様子を伺い見る。 彼らは共に背が高く、割と目立つ雰囲気をしていた。
鳥面の男は『雪のような』、というよりは『白く濁った』と表現した方が良さそうな白い髪色をしている。 肩に付くぐらいの長さで、羽毛のようにふわふわした髪質だ。 外が黒くて内側が暗い紫色の、鳥の翼のような外套で身体の殆どが覆われているが、細身に見えた。
一方で、猿面の男はよく見かける、一般的な目立たない硬そうな明るい髪色をしていて、少し長めの前髪を雑に後ろへ流しているように見える。 首元にファーのついた、左右非対称な長さの内側が暗い青の外套を羽織っており、割と体格が良さそうだったが、猫背気味で些かそれを台無しにしていた。
しかし、兎女は今までにそんな目立つようなその存在を、組織の中で見かけたことが一度も無かった。
「…………」
何処の誰だろうか。 そして、誰か分からないのにほいほいと付いてしまった自分の迂闊さを少し恨んだ。
少し歩いた所で、目の前の鳥男がピタリと立ち止まる。 そこには扉も、ドアになりそうな装飾品も、何も無かった。 只の、真っさらな壁があるだけだ。 少し面倒な事態になるのだろうか、と兎女が未構えた時
「今回は此処なのか?」
少し怪訝な顔で猿男が問うた。
「疑うのなら自分で地図を見れば良いのに」
猿男へ溜息混じりに返答しつつ、鳥男は黒い革の手袋で覆われた手を壁に翳す。 と、壁に闇い坑が開いた。
「ここが『会議室』だよ」
そう、坑を掌で示し、驚きに目を見開く兎女に鳥男は胡散臭く笑った。
×
ここ『会議室』にて、組織内で最上の位にその身を置く12名の幹部達が、広い部屋の中央に置かれた大きな円卓を囲んで座っていた。
この会議室は少々特殊で、窓どころか扉もなく、最上位の幹部でなければ入れない仕組みが施されている。 最上位幹部達の会議内容を他に知られない為の仕組みだ。
「空いた『卯』の席を埋めてくれる人員だよん」
兎面の女よりも小柄な女は、座ったままで周囲に紹介をする。 鼠色の短めな猫っ毛の頭には同色の鼠のような耳、少し大きめに見える白衣の裾からは細くて長い鼠の尻尾のようなものが生えていた。 卯も座ったまま、周囲に会釈をする。
「アタシは『子』。 あとはあっちから」
子は隣に座る無口な大男を指差し
「『丑』」
鏡を見っぱなしの派手な男に
「『寅』」
かなり背の高い、白銀の髪を束ねた男に
「『辰』」
艶のある黒い短髪の女に
「『巳』」
にこにこと爽やかな笑顔を浮かべる男に
「『午』」
眠そうにあくびをする女に
「『未』」
それを少し心配そうに見る男に
「『申』」
胡散臭い雰囲気の男に
「『酉』」
ビシッと姿勢を正して座っている女に
「『戌』」
真っ直ぐ此方を見る女に
「『亥』」
そう言った。
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