仮の面はどう足掻いても。

しの

文字の大きさ
上 下
6 / 60

敵幹部全員揃う時って大体円卓。※ここから本編

しおりを挟む

――ここはとある妖精の世界


とは別の場所。(何処だ)


 その場所には、……まあ、俗的に言うと『魔法少女の敵』の組織の拠点がある。 拠点では、マンガやアニメで見るような少々人外な容姿のナニモノか達が暮らしていて、給料を貰うだとか、欲しいものを手に入れたいだとか理由は様々ではあるが、全体的に明日以降の衣食住を維持するために働いている。

 一応、色々『ワケアリ』な人間も複数名所在しているが。


×



――ざわざわ騒がしい。

 この建物のロビーは、沢山の音で溢れている。 普段よりも声の騒めきが多いのはきっと、昨日出された組織上層部からの発表が原因だろう。

『最上位幹部が新しく就任する』。

 少し前に、この組織の12名居た最上位幹部が一人欠けた。 そして、それを埋め合わせる人物が現れたのだ。 一体誰が、どんな奴が、新たに幹部になったのだろうと、好奇心旺盛な野次馬達が騒いでいるのだった。

 兎の面の女は、仮面の下で紅い目を閉じる。 本当に聞こえ難くするには、直接耳を塞いだ方が良いだろうが、女はそれが出来なかった。

「(周囲に隙を見せるわけにはいかない)」

女はぐっと気合いを入れて歩き出す。 羽織る黒と桃のケープの裾が、生成色の長い柔らかな髪と共に、ふわりと翻った。


×


「お前、また勝ち逃げしたのか?」

 可笑しそうにニヤニヤと歯を見せ笑う男は、猿の頭蓋骨のような面を付けていた。 面は目元を完全に隠していて、目の穴からは琥珀の虹彩が月のようにぽっかりと闇のうろに浮かぶ。

「なんだい? オレが勝ち逃げするのそんなに面白いかな?」

近寄る猿面の男に答えた長身の男の顔には、鳥を模した面ペストマスクが着けられている。 着けている面は顔全体を覆っていたが、嘴の辺りをスッと撫でると目元だけを隠す形状ドミノマスクに変化した。 ただし目の穴は開いておらず、目の色を確認することはできそうになかった。

「いや。 ただ単に、向こうはすっげーもやもやしてんだろうなってのが面白くて笑ってんだ」

けらけらと猿面の男は笑う。

「趣味悪いねぇ」
「お互い様だろ」

 通り過ぎて行く2人の男に見向きもせず、再び歩き出そうとしたその時

「ねぇ、君」
「っ?!」

いつの間にか背後に居た鳥面の男が、兎面の女に呼びかけた。

 驚いて振り返ると、

「もしかして、『会議室に行きたい』と思っていたりする?」

声色は少し遠慮がちであったが、態度は全くそうでなく何故か口元に薄く笑みを浮かべていた (態度は『絶対そうでしょ?』と言いたげであった) 。

「どうした?」

異変に気付いた猿面の男が鳥男に並ぶ。

「ん? 何でもないよ。 君は先に行っといて」

「俺が方向音痴なの知ってて言ってるよな」

ひらひらと振るその手首を思い切り掴んで、猿男は鳥男に詰め寄る。

「ごめんごめん、冗談だよ」

本気にしないでよ、とやんわりと猿男の手を外しながら、鳥男は兎女に話し続ける。

「オレ達は今から『会議室』に向かうんだけど……もし、君が会議室に用事があるんだったら付いておいでよ」

兎女に向き直り、鳥男は駄目押しのように言った。

「余計なお世話かもしれないけどさ」


×


「……」

 兎女は自分の前を歩く鳥男と猿男の様子を伺い見る。 彼らは共に背が高く、割と目立つ雰囲気をしていた。

 鳥面の男は『雪のような』、というよりは『白く濁った』と表現した方が良さそうな白い髪色をしている。 肩に付くぐらいの長さで、羽毛のようにふわふわした髪質だ。 外が黒くて内側が暗い紫色の、鳥の翼のような外套クロークで身体の殆どが覆われているが、細身に見えた。

 一方で、猿面の男はよく見かける、一般的な目立たない硬そうな明るい髪色をしていて、少し長めの前髪を雑に後ろへ流しているように見える。 首元にファーのついた、左右非対称な長さの内側が暗い青の外套マントを羽織っており、割と体格が良さそうだったが、猫背気味で些かそれを台無しにしていた。

 しかし、兎女は今までにそんな目立つようなその存在を、組織の中で見かけたことが一度も無かった。

「…………」

 何処の誰だろうか。 そして、誰か分からないのにほいほいと付いてしまった自分の迂闊さを少し恨んだ。

 少し歩いた所で、目の前の鳥男がピタリと立ち止まる。 そこには扉も、ドアになりそうな装飾品も、何も無かった。 只の、真っさらな壁があるだけだ。 少し面倒な事態になるのだろうか、と兎女が未構えた時

「今回は此処なのか?」

少し怪訝な顔で猿男が問うた。

「疑うのなら自分で地図を見れば良いのに」

 猿男へ溜息混じりに返答しつつ、鳥男は黒い革の手袋で覆われた手を壁に翳す。 と、壁にくらあなが開いた。

「ここが『会議室』だよ」

そう、坑をてのひらで示し、驚きに目を見開く兎女に鳥男は胡散臭く笑った。


×


 ここ『会議室』にて、組織内で最上の位にその身を置く12名の幹部達が、広い部屋の中央に置かれた大きな円卓を囲んで座っていた。

 この会議室は少々特殊で、窓どころか扉もなく、最上位の幹部でなければ入れない仕組みが施されている。 最上位幹部達の会議内容を他に知られない為の仕組みだ。


「空いた『卯』の席を埋めてくれる人員だよん」

 兎面の女よりも小柄な女は、座ったままで周囲に紹介をする。 鼠色の短めな猫っ毛の頭には同色の鼠のような耳、少し大きめに見える白衣の裾からは細くて長い鼠の尻尾のようなものが生えていた。 卯も座ったまま、周囲に会釈をする。

「アタシは『子』。 あとはあっちから」

子は隣に座る無口な大男を指差し

「『丑』」

鏡を見っぱなしの派手な男に

「『寅』」

かなり背の高い、白銀の髪を束ねた男に

「『辰』」

艶のある黒い短髪の女に

「『巳』」

にこにこと爽やかな笑顔を浮かべる男に

「『午』」

眠そうにあくびをする女に

「『未』」

それを少し心配そうに見る男に

「『申』」

胡散臭い雰囲気の男に

「『酉』」

ビシッと姿勢を正して座っている女に

「『戌』」

真っ直ぐ此方を見る女に

「『亥』」

そう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...