194 / 200
お試し期間
194:触れ合う胴体
しおりを挟む
次の夜。
「貴女が先に言ったのですからね」
「はめられた!」
にこにこと笑顔のフォラクスに両手を手袋越しに握られながら、ラファエラは悔しさで顔をくしゃくしゃにした。要は先に大きな課題を提示し本命を受け入れてもらう話術に嵌まってしまった、ということだ。多分。むしろ、大きな課題も無理矢理押し通された感じがするのだが。
「さ、こちらに来て下さいまし」
「……やだ」
ソファの上で両腕を軽く拡げてみせる彼に、彼女はぷるぷると首を振って拒否の意思を表す。
「そもそも、今日はきみから触ってくる日じゃん」
「私から行けば、貴女は逃げるではありませんか」
ラファエラが口を尖らせて不満を零すとフォラクスは少し憮然とした様子で返す。
「むーん」
それは急に近付いたからだもん、と言いたかったが、そう答えてしまうと『ゆっくりならば近付いても良い』と遠回しに言っている様な気がしてしまい、言い返せなかった。
「そういえば」
「ん?」
ふと彼は思い出した様子で
「『私の言う事を一つ、何でも聞く』……等と言う約束が、有った様な」
ちら、とフォラクスはラファエラを見る。
「!!」
それを受けて彼女は、びっ、と身体を強張らせた。確か、魔術アカデミー四年生の頃に結んだ約束だったはずだ。
それに『まだ覚えていたのか』と言う気持ちと、『確かにまだ使われてない』と言う気持ちが湧き起こった。
「……ふむ。覚えていらした様ですね」
ラファエラの様子を見、自身の顎に手を遣りフォラクスは呟く。
「な、なんだっけー。そんなやくそく、あったかなー」
咄嗟に、ぷひゅー、と鳴らない口笛を吹き彼女は必死に目を逸らした。
「おや、忘れてしまったのですか。残念です」
口元に手を遣り、少し寂しそうな様子で彼は言う。
「……」
どうにか誤魔化せたかな、と安堵した時
「成らば、貴女が自らの意思で、私の元まで来て下さるのですね」
フォラクスはにっこりと笑顔でラファエラに言い放った。最近見た中でもかなり上位に入る部類の笑顔である。
「えっ」
「そうではない、と?」
目を見開く彼女に、彼はにこにこと笑顔のまま見つめている。ラファエラには拒否権は無いらしい。
そろー、と、出入り口の方に下がってみるも、勝手に扉が閉まった音がした。恐らく他の扉や庭に面している掃き出し窓も鍵が閉まっている。
「……ねー、なんかわたしを閉じ込めないって感じの約束しなかったっけ」
口をきゅっと結んで眉間にしわを寄せてラファエラが訴えると、フォラクスは少々意外そうな顔をして
「然し。貴女は此の現状を嫌がってはいないでしょう」
と、首を傾げた。
「なんかそれ、わたしに変な趣味があるみたいに聞こえるんだけど!」
「嗚呼、失礼。今の処は逃げる気が無い、のですね」
「んー」
彼の修正に彼女は口をへの字にした。
「……もう、勝手にちゅーとかしない?」
ちら、とフォラクスを見上げてラファエラは問う。
「はい。約束しましょう」
にこ、と彼は微笑んだ。
それには嘘も含みも無いように思えた。
だから、彼女はそっと近付く。
×
そっと、フォラクスに近付き胴体に腕を回して抱きしめた。
ラファエラが腕に力を込めると、彼の硬い肉体の弾力と体温を直に感じる。それに、フォラクスが身に纏っている服の匂いや魔力の匂いが漂い、胸に耳を当てると心音が聞こえた。
なんだかとても居心地が良く、更にぎゅっとしたくなる。なので、そのまま抱きしめ、彼の背中と腰の辺りに手を回した。だが、
「……すみません、腰は止めて下さいませんか」
そっと、フォラクス自身に腕を外された。
「なんで?」
「いや……その」
問うと、彼は目を泳がせる。
「本当に、我慢が利かなくなります故。止めて下さいまし」
その顔を見ると、割と赤くなっていた。
「我慢?」
自分から来いと言った癖にそんな事言う? と彼女が首を傾げるも、
「猫……なので。……いえ、猫依りも少々質が悪いと言いますか」
少し言い難そうにフォラクスは言葉を零す。
「ふーん?」
「……端的に言えば、神経が割と前側に繋がって居ります故、その気が無いならば触れないで下さいまし」
「……その気?」
そういえば、とラファエラは思い出した。猫は尾の付け根に触れられると心地良いと感じるらしい、と。動物に関連する本で見た気がするが、猫の血が混ざった彼にも適応されるらしい。
実は縦に裂けている瞳孔や口内のことと言い、自身の婚約者が割と猫。そう、ラファエラは学んだ。
そんなことが有ったものの、ラファエラが慣れるまでしばらくは体を抱きしめることになった。
「貴女が先に言ったのですからね」
「はめられた!」
にこにこと笑顔のフォラクスに両手を手袋越しに握られながら、ラファエラは悔しさで顔をくしゃくしゃにした。要は先に大きな課題を提示し本命を受け入れてもらう話術に嵌まってしまった、ということだ。多分。むしろ、大きな課題も無理矢理押し通された感じがするのだが。
「さ、こちらに来て下さいまし」
「……やだ」
ソファの上で両腕を軽く拡げてみせる彼に、彼女はぷるぷると首を振って拒否の意思を表す。
「そもそも、今日はきみから触ってくる日じゃん」
「私から行けば、貴女は逃げるではありませんか」
ラファエラが口を尖らせて不満を零すとフォラクスは少し憮然とした様子で返す。
「むーん」
それは急に近付いたからだもん、と言いたかったが、そう答えてしまうと『ゆっくりならば近付いても良い』と遠回しに言っている様な気がしてしまい、言い返せなかった。
「そういえば」
「ん?」
ふと彼は思い出した様子で
「『私の言う事を一つ、何でも聞く』……等と言う約束が、有った様な」
ちら、とフォラクスはラファエラを見る。
「!!」
それを受けて彼女は、びっ、と身体を強張らせた。確か、魔術アカデミー四年生の頃に結んだ約束だったはずだ。
それに『まだ覚えていたのか』と言う気持ちと、『確かにまだ使われてない』と言う気持ちが湧き起こった。
「……ふむ。覚えていらした様ですね」
ラファエラの様子を見、自身の顎に手を遣りフォラクスは呟く。
「な、なんだっけー。そんなやくそく、あったかなー」
咄嗟に、ぷひゅー、と鳴らない口笛を吹き彼女は必死に目を逸らした。
「おや、忘れてしまったのですか。残念です」
口元に手を遣り、少し寂しそうな様子で彼は言う。
「……」
どうにか誤魔化せたかな、と安堵した時
「成らば、貴女が自らの意思で、私の元まで来て下さるのですね」
フォラクスはにっこりと笑顔でラファエラに言い放った。最近見た中でもかなり上位に入る部類の笑顔である。
「えっ」
「そうではない、と?」
目を見開く彼女に、彼はにこにこと笑顔のまま見つめている。ラファエラには拒否権は無いらしい。
そろー、と、出入り口の方に下がってみるも、勝手に扉が閉まった音がした。恐らく他の扉や庭に面している掃き出し窓も鍵が閉まっている。
「……ねー、なんかわたしを閉じ込めないって感じの約束しなかったっけ」
口をきゅっと結んで眉間にしわを寄せてラファエラが訴えると、フォラクスは少々意外そうな顔をして
「然し。貴女は此の現状を嫌がってはいないでしょう」
と、首を傾げた。
「なんかそれ、わたしに変な趣味があるみたいに聞こえるんだけど!」
「嗚呼、失礼。今の処は逃げる気が無い、のですね」
「んー」
彼の修正に彼女は口をへの字にした。
「……もう、勝手にちゅーとかしない?」
ちら、とフォラクスを見上げてラファエラは問う。
「はい。約束しましょう」
にこ、と彼は微笑んだ。
それには嘘も含みも無いように思えた。
だから、彼女はそっと近付く。
×
そっと、フォラクスに近付き胴体に腕を回して抱きしめた。
ラファエラが腕に力を込めると、彼の硬い肉体の弾力と体温を直に感じる。それに、フォラクスが身に纏っている服の匂いや魔力の匂いが漂い、胸に耳を当てると心音が聞こえた。
なんだかとても居心地が良く、更にぎゅっとしたくなる。なので、そのまま抱きしめ、彼の背中と腰の辺りに手を回した。だが、
「……すみません、腰は止めて下さいませんか」
そっと、フォラクス自身に腕を外された。
「なんで?」
「いや……その」
問うと、彼は目を泳がせる。
「本当に、我慢が利かなくなります故。止めて下さいまし」
その顔を見ると、割と赤くなっていた。
「我慢?」
自分から来いと言った癖にそんな事言う? と彼女が首を傾げるも、
「猫……なので。……いえ、猫依りも少々質が悪いと言いますか」
少し言い難そうにフォラクスは言葉を零す。
「ふーん?」
「……端的に言えば、神経が割と前側に繋がって居ります故、その気が無いならば触れないで下さいまし」
「……その気?」
そういえば、とラファエラは思い出した。猫は尾の付け根に触れられると心地良いと感じるらしい、と。動物に関連する本で見た気がするが、猫の血が混ざった彼にも適応されるらしい。
実は縦に裂けている瞳孔や口内のことと言い、自身の婚約者が割と猫。そう、ラファエラは学んだ。
そんなことが有ったものの、ラファエラが慣れるまでしばらくは体を抱きしめることになった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる