薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

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193:触れ合う舌

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「じゃ、今日はわたしの番だもんね」

 手袋越しで手に触れ合った後、むん! と何やら胸を張り、ラファエラはフォラクスに言い放つ。

「そうですねぇ。好きにると良いでしょう」

彼は余裕そうに答える。その様子は『小娘如きに何か出来る訳も無いだろう』とでも言いたそうな、やや舐めた態度である。(と、ラファエラは判断した。実際の所、彼は『此の娘は何をしてくれるのだろうか』とやや楽しみにしていた模様。)

 そろそろと手袋を外し、彼女は身構える。フォラクスの方は、今回は触れないので手袋は付けたままだ。

「むむ……」

眉をひそめて彼にゆっくりと近付く。その様子がまるで、獲物を追い詰める狩りのようだとラファエラを眺めながらフォラクスは思った。

「……私は逃げませんよ」

 にじり寄る彼女に言うも、彼女はゆっくりと近付くだけだ。
 そして。そっと腕を伸ばし、フォラクスの顔に触れる。

「ふー」

よく頑張った、と言いた気に彼女は深く息を吐いた。

「…………終わりですか?」

 ラファエラの柔らかい手のひらの感覚を味わいながら、フォラクスは問う。

「えっと、」

少し視線を逸らし、

「……目、閉じてもらって良い?」

気恥ずかしそうに彼女は問う。

「分かりました」

 言われるままに彼は目を閉じた。

「ちょっとお口開けてー」

何か薬でも投与されるのだろうかと思いつつ、他にやりようが無いので指示通りに身体を動かす。

 ラファエラは、フォラクスの舌に触れた。
 その触れ方は彼が行ったような魔力を塗り付けるようなものではなく、舌を引き出す(というよりか、『引き摺り出す』)ような触れ方、いやだ。

「んっ、」

一瞬、さすがに彼もぴく、と身を強張らせたがそれだけだった。むしろ、

「ながっ!?」

と、ラファエラが驚く事態に陥る。引き摺り出した彼のそれは人間のものよりも、明らかに長かった。そして、ややザラザラしているようにも見える。
 そういえばと思い出してみれば、彼は歯も尖っていたような。思い出し、視線を向ける。舌の奥や僅かに開いた口の隙間に見える彼の歯は、間違いなく尖っていた。

「すっごーい!」

新しいものを発見した、とばかりにラファエラは目を輝かせる。そして、

「あ、ごめん」

 やや呆れたたような、苦しそうな彼の視線に気が付き、手を離す。気がつけば、彼の唾液で手がややぬるぬるになっていた。

「きみってば舌長いね!?」

 口を閉じ、口元に手を遣ってやや苦悶の表情を浮かべるフォラクスに、ラファエラはやや興奮気味に問いかける。

「……そうですね。私、猫ですので」

柳眉をひそめたまま、彼は答える。

「ねこちゃん?」

「はい」

「ねこちゃん」

「そうで御座います」

「ねこちゃーん?」

「っ、顎を撫でるのはお止めなさい」

「喉鳴らないの?」
「…………」

 問われ、そっとフォラクスは目を逸らす。
 その様子を見て、『喉も鳴るんだー!』とラファエラは思ったのだった。

×

「ち、ちゃんとしてあげるから、機嫌直してよ……」

 口元に手を遣ったままのフォラクスに、おずおずとラファエラは声をかける。

「……、とは」

「えっとー……」

彼が問うと、ラファエラは視線をものすごく泳がせ

「昨日のきみ……みたいにして、あげるから、さ」

唇を尖らせつつも答えた。

「ふむ」

目を細め、フォラクスは彼女を見る。

「まあ。『好きにしろ』と言ったのは私で御座いますからね」

目を閉じ、彼はソファにそのままもたれかかった。『こちらからは何もしない』という意思表示のようだ。

「うぅー」

 唸りながらラファエラはフォラクスに近付き、

「ん」

 一瞬、唇を重ねた。

「……おや」

 どうだ、と言わんばかりにラファエラは頬を染めつつも得意そうな顔をする。

「今、?」

ゆっくり目を開いたフォラクスは、心底不思議そうな様子で問う。

「えっ?」

「私、見ておりませんで。何をされたのかさっぱりで御座います」

「え……」

 つまり、『もう一度してくれ』ということだろうか。彼女は少し視線を彷徨さまよわせた後、

「んっ!」

 彼の頬に手を添え、唇を重ねた――のを待ち構えていた様子で

「んむ?!」

フォラクスはラファエラの後頭部を押さえて舌を入れた。
 ざらついた舌が彼女の舌を撫で、彼の魔力の味が口に拡がる。
口内を撫で上げられ、ぞわ、と不思議な感覚を得る。

「ぷは、」

すぐに彼の手が後頭部から離され、ラファエラは咄嗟に彼から離れた。

「な、な……」

 驚きと羞恥に身を振わせる彼女に、

「……嗚呼。貴女が大変に可愛らしい事をしますのでつい加減が」

と、舌舐めずりしながらフォラクスは半笑いで答える。

「な、何?」

「何とは。唯の口吸いですが」

「ちゅーって、なんかこう、ちゅってするやつじゃないの?」

「はぁ、成程?」

「なるほどじゃないよ」

「妙な味はしなかったでしょう」

「そーゆーのじゃないよ!」

とラファエラは顔を赤くして憤慨した。

「どうせ最終的にはしますよ」
「ん゛ー」

涼しい顔のフォラクスに、顔をくしゃくしゃにして彼女は唸る。

「もうちょっと段階踏んで」

「結構踏みませんでしたか」

「ほら、例えばぎゅってする所とかさ!」

「はい。では、貴女が望んだ事ですし、次回は抱擁をしましょうね」

「……へっ?」
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