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186:慣れる為にも(そしてお互いの為にも)。
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翌朝。
フォラクスが目を開けると、腕の中に居たはずのラファエラが姿を消していた。
寝台にも腕の中にも温もりは残っておらず、微かに残っている彼女の匂いが確かにラファエラが居たことを物語っていた。
焦りつつも、フォラクスは屋敷内の気配を探る。
「……」
どうやら、彼女は屋敷内に居るようだ。そのことに、フォラクスは心底安堵する。位置からすると、調理場に居る。恐らく、朝食を作っているのだろう。
ラファエラは、こちらから触れるとすぐに居なくなるらしいと、小さく溜息を吐いた。
「(……そうだ。彼女はそう言う方なのだ)」
と、どうにか自身を納得させ、フォラクスは身支度を整える。
×
ラファエラが朝食を作り終え、配膳している間にフォラクスが私室より出たようだ。
「あ、おはよー」
背後の気配に振り返り、ラファエラはフォラクスに声をかける。彼は彼女を見るなり近付こうして、
「……おはよう御座います、アザレア」
はっと僅かに目を見開いた後、足を止める。
「(あ、反省したんだな)」
と、ラファエラは感心した。
また、懲りもせずに彼から思い切り距離を詰められたらどうしようか、と思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。
だが、また幼名呼びに戻っていた。
「なんで?」
「いえ。貴女と私だけが知っている特別な名でしょう?」
問えばそう、返される。その上に安心したように柔らかく笑うものだから、ダメだなんて言えない。
それから、フォラクスは以前のように急に距離を詰めることは無かった。
時折、彼はラファエラに視線を向けていることは有ったが、見ているだけでそれ以外は何もしない。その視線も、何か言いたそうな目ではなく、ただ見ているだけの視線のようだ。
まるで、学生の頃に戻ったような距離感になってしまった。それも、初めて顔を合わせたばかりの時のような素っ気なさである。幼名で呼ばれるけれども。
最近は距離が近かっただけに、ラファエラはその温度差に不思議な気持ちだった。
「(ん……なんだろう、)」
彼から視線を逸らされる度に、胸の奥がちくりと痛む。そしてなんとなく、胸の奥が冷えるような心地になるのだ。
×
「ね、きみって極端なの?」
「……何が、でしょうか」
それから1週間もしないうちに、ソファに座ったフォラクスに問いかける。心底不思議そうな様子のラファエラの問いに、彼は読んでいた本から視線を上げた。
べったりと近付いたそれを拒むと、次は、彼はほとんど近付かなくなった。
婚約もしたし、さすがに少しくらいは歩み寄るべきかも、と思ったラファエラは本を閉じた彼に近付いてみる。
「少しくらいは、良いんだよ?」
少しくらい。たとえば、と、ラファエラは彼の、本に触れていない方の手をそっと両手で握った。
「これくらい、とか」
そう言いながらフォラクスを見ると、
「…………加減が出来るか自信が無く」
言葉を零し、彼は少し嫌そうに顔をしかめて視線を逸らす。それを見て、「(自分を信じられない人って面倒だなぁ)」と内心で思いつつ
「んー、じゃあ、一緒に練習しよ?」
提案する。
「練習……ですか」
言葉を呟き、そっと、フォラクスはラファエラを見下ろす。
「そう。きみは、そっと触る練習で、わたしは触られても逃げない練習」
ね、と首を傾げ
「わたしも頑張るから」
と押してみた結果、
「……分かりました。極力努力は致します」
そう、彼は了承した。
フォラクスが目を開けると、腕の中に居たはずのラファエラが姿を消していた。
寝台にも腕の中にも温もりは残っておらず、微かに残っている彼女の匂いが確かにラファエラが居たことを物語っていた。
焦りつつも、フォラクスは屋敷内の気配を探る。
「……」
どうやら、彼女は屋敷内に居るようだ。そのことに、フォラクスは心底安堵する。位置からすると、調理場に居る。恐らく、朝食を作っているのだろう。
ラファエラは、こちらから触れるとすぐに居なくなるらしいと、小さく溜息を吐いた。
「(……そうだ。彼女はそう言う方なのだ)」
と、どうにか自身を納得させ、フォラクスは身支度を整える。
×
ラファエラが朝食を作り終え、配膳している間にフォラクスが私室より出たようだ。
「あ、おはよー」
背後の気配に振り返り、ラファエラはフォラクスに声をかける。彼は彼女を見るなり近付こうして、
「……おはよう御座います、アザレア」
はっと僅かに目を見開いた後、足を止める。
「(あ、反省したんだな)」
と、ラファエラは感心した。
また、懲りもせずに彼から思い切り距離を詰められたらどうしようか、と思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。
だが、また幼名呼びに戻っていた。
「なんで?」
「いえ。貴女と私だけが知っている特別な名でしょう?」
問えばそう、返される。その上に安心したように柔らかく笑うものだから、ダメだなんて言えない。
それから、フォラクスは以前のように急に距離を詰めることは無かった。
時折、彼はラファエラに視線を向けていることは有ったが、見ているだけでそれ以外は何もしない。その視線も、何か言いたそうな目ではなく、ただ見ているだけの視線のようだ。
まるで、学生の頃に戻ったような距離感になってしまった。それも、初めて顔を合わせたばかりの時のような素っ気なさである。幼名で呼ばれるけれども。
最近は距離が近かっただけに、ラファエラはその温度差に不思議な気持ちだった。
「(ん……なんだろう、)」
彼から視線を逸らされる度に、胸の奥がちくりと痛む。そしてなんとなく、胸の奥が冷えるような心地になるのだ。
×
「ね、きみって極端なの?」
「……何が、でしょうか」
それから1週間もしないうちに、ソファに座ったフォラクスに問いかける。心底不思議そうな様子のラファエラの問いに、彼は読んでいた本から視線を上げた。
べったりと近付いたそれを拒むと、次は、彼はほとんど近付かなくなった。
婚約もしたし、さすがに少しくらいは歩み寄るべきかも、と思ったラファエラは本を閉じた彼に近付いてみる。
「少しくらいは、良いんだよ?」
少しくらい。たとえば、と、ラファエラは彼の、本に触れていない方の手をそっと両手で握った。
「これくらい、とか」
そう言いながらフォラクスを見ると、
「…………加減が出来るか自信が無く」
言葉を零し、彼は少し嫌そうに顔をしかめて視線を逸らす。それを見て、「(自分を信じられない人って面倒だなぁ)」と内心で思いつつ
「んー、じゃあ、一緒に練習しよ?」
提案する。
「練習……ですか」
言葉を呟き、そっと、フォラクスはラファエラを見下ろす。
「そう。きみは、そっと触る練習で、わたしは触られても逃げない練習」
ね、と首を傾げ
「わたしも頑張るから」
と押してみた結果、
「……分かりました。極力努力は致します」
そう、彼は了承した。
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