183 / 200
お試し期間
183:星祭り。
しおりを挟む
その2もとい聖女ユリの所に匿って貰った夜、ラファエラは懐かしい夢を見た。故郷の森の山で行われていた、星の祭りの夢だった。
満天の星の下、キラキラと輝く月見草や星の花に囲まれて光る生き物達の舞う姿を眺める不思議なお祭りだ。
「(……最近、行ってなかったな)」
今まで、魔術アカデミーの門限のお陰で行くのを控えていた。
「(なんだか、呼ばれてる気がする)」
薄く目を開くと、朝になったばかりのようだ。まだユリは眠っているようで、小さな寝息が聞こえている。
「(今夜、あるのかも)」
いつもは夏だけど、と思いながら再び目を閉じた。
「本当に、いいんですか?」
夕方に、ユリはラファエラに問いかける。ラファエラが、ユリの元から離れると告げたからだ。
「うん。ちょっと行きたいところもあるし」
ユリは首を傾げるも、止める理由が無いので引き留めることはできなかった。
×
「んー、自由っていいね」
伸びをして、ラファエラは夕闇に沈み始めた街を歩く。本来ならば、少なくとも巡回の軍人に声をかけられるはずなのに、一切足を止めることなく街を出られた。
必ず居るはずの門番にすら、ラファエラは出会わなかったのだ。
「(やっぱり、呼ばれてるんだ)」
そう、確信した。
あっさりと入れた山の中は非常に足取りが軽く、空でも飛べそうなくらいに心地が良かった。
やがて、真っ暗な山の道が、キラキラと輝くものが混ざり始める。
「ん、いつ見ても綺麗だ」
嬉しくなって、更に奥へと足を進めた。
地面の輝きは薄青く、ラファエラが踏む度に、ぱきり、ぱきりと、細かく砕ける音がする。
星の花が燐光を放って、静かに揺れる。
楽しそうな笑い声が聴こえる。
「もうすぐ、」
星祭りの会場にたどり着く。
×
「まさか、」
フォラクスは、呟いた。
こんな時間に山の中に入るとは思いもしなかったのだ。軍の警邏の者や門番はどうしたと、詰め寄りたくなる。
「(恐らく、彼女の魂が妖精だからか)」
本物の妖精に手助けされて、運良く見つからずに山まで辿り付けたのだろうと、示された場所に向かいながら推察する。
昔、兄から聞いた話があった。
「お前は、夜空の星が美しい日は、山には入るなよ」
そう、山に向かう魑魅魍魎の類いの行列を見た夜に言われた話だ。
何故、と問いかければ、
「あれに混ざると、向こうへ連れて行かれてしまうからな」
そう、山の方を見ながら兄は答えた。
「名の有る山には其々、『祭り』というものが存在する。分かりやすく言えば、山や森に棲む妖精達が騒ぐ日だ」
どうして自分が山へ入ってはいけないのかと訊くと
「魂が人間でない者を、仲間に戻す儀式の場でもあるからだ」
と、頭を撫でられた。
随分と昔で、いつの記憶だったかもう覚えていないが『妖精と、魂が人間でない者のための特別な日』で、呑み込まれると二度と戻って来られないことだけは分かっている。
今向かっている山にも、名が付いていた。
恐らく彼女は、その山の祭りに行ったのだ。
仕事部屋から直接、示された場所に魔術式で飛んだ。
はずだった。
「なっ?!」
術式は発動した直後、外部から術の干渉を受けて座標がずれる。そして着いたのは、山の麓だった。
「(……『祭りの邪魔をするな』という事でしょうかね)」
ぎり、と奥歯を噛み締め、フォラクスは躊躇なく山に踏み入れる。
外部から入った干渉は二つ。
まともに感知出来ないような不可思議な力と呪猫当主だった。
不可思議な力が魔術式を歪ませ掻き消そうとし、呪猫当主の術が式の形状を元に戻し不可思議な力の影響が及び難い麓まで座標をずらしたのだ。
「(……またもや、助けられた)」
口惜しさにやや顔を歪ませながら、懐に入れられた物体に触れる。硬い紙の感触がしたので、どうやら御守りらしい。
×
怖気がするほどに、山は静かだった。
生き物どころか、夜行性の魔獣の気配すら一切しない。
示された方向に向かって歩くと、段々と明るく、音が聞こえ始めた。
足元が軋む様な感覚に陥ったので、即座に特殊な足の運びに切り替えて足音を殺す。気配と息も殺した。
得体の知れない力を感じて、間違いなく昔に兄が告げた妖精が連れて行く祭りだと確信する。
急いで連れ戻したい気持ちになるが、ラファエラがくれた夢見草の匂いが香り、早る気を落ち着かせた。
少しして、一層輝きが強く騒がしい場所が近付く。
「……」
一日振りに、ラファエラの姿を見た。彼女は不気味に光る地面や植物達に囲まれて、楽しそうに微笑んでいた。そして小さな光る何かに手を引かれ、
「――」
彼女自身が、薄く燐光を放っている。
その姿はまるで、天使かと見紛うほどに美しく愛らしくて、息が止まりそうだった。
だが、直後に連れて行かれると直感で感じる。
その恐怖に、思わず彼女の名前を呼んだ。
満天の星の下、キラキラと輝く月見草や星の花に囲まれて光る生き物達の舞う姿を眺める不思議なお祭りだ。
「(……最近、行ってなかったな)」
今まで、魔術アカデミーの門限のお陰で行くのを控えていた。
「(なんだか、呼ばれてる気がする)」
薄く目を開くと、朝になったばかりのようだ。まだユリは眠っているようで、小さな寝息が聞こえている。
「(今夜、あるのかも)」
いつもは夏だけど、と思いながら再び目を閉じた。
「本当に、いいんですか?」
夕方に、ユリはラファエラに問いかける。ラファエラが、ユリの元から離れると告げたからだ。
「うん。ちょっと行きたいところもあるし」
ユリは首を傾げるも、止める理由が無いので引き留めることはできなかった。
×
「んー、自由っていいね」
伸びをして、ラファエラは夕闇に沈み始めた街を歩く。本来ならば、少なくとも巡回の軍人に声をかけられるはずなのに、一切足を止めることなく街を出られた。
必ず居るはずの門番にすら、ラファエラは出会わなかったのだ。
「(やっぱり、呼ばれてるんだ)」
そう、確信した。
あっさりと入れた山の中は非常に足取りが軽く、空でも飛べそうなくらいに心地が良かった。
やがて、真っ暗な山の道が、キラキラと輝くものが混ざり始める。
「ん、いつ見ても綺麗だ」
嬉しくなって、更に奥へと足を進めた。
地面の輝きは薄青く、ラファエラが踏む度に、ぱきり、ぱきりと、細かく砕ける音がする。
星の花が燐光を放って、静かに揺れる。
楽しそうな笑い声が聴こえる。
「もうすぐ、」
星祭りの会場にたどり着く。
×
「まさか、」
フォラクスは、呟いた。
こんな時間に山の中に入るとは思いもしなかったのだ。軍の警邏の者や門番はどうしたと、詰め寄りたくなる。
「(恐らく、彼女の魂が妖精だからか)」
本物の妖精に手助けされて、運良く見つからずに山まで辿り付けたのだろうと、示された場所に向かいながら推察する。
昔、兄から聞いた話があった。
「お前は、夜空の星が美しい日は、山には入るなよ」
そう、山に向かう魑魅魍魎の類いの行列を見た夜に言われた話だ。
何故、と問いかければ、
「あれに混ざると、向こうへ連れて行かれてしまうからな」
そう、山の方を見ながら兄は答えた。
「名の有る山には其々、『祭り』というものが存在する。分かりやすく言えば、山や森に棲む妖精達が騒ぐ日だ」
どうして自分が山へ入ってはいけないのかと訊くと
「魂が人間でない者を、仲間に戻す儀式の場でもあるからだ」
と、頭を撫でられた。
随分と昔で、いつの記憶だったかもう覚えていないが『妖精と、魂が人間でない者のための特別な日』で、呑み込まれると二度と戻って来られないことだけは分かっている。
今向かっている山にも、名が付いていた。
恐らく彼女は、その山の祭りに行ったのだ。
仕事部屋から直接、示された場所に魔術式で飛んだ。
はずだった。
「なっ?!」
術式は発動した直後、外部から術の干渉を受けて座標がずれる。そして着いたのは、山の麓だった。
「(……『祭りの邪魔をするな』という事でしょうかね)」
ぎり、と奥歯を噛み締め、フォラクスは躊躇なく山に踏み入れる。
外部から入った干渉は二つ。
まともに感知出来ないような不可思議な力と呪猫当主だった。
不可思議な力が魔術式を歪ませ掻き消そうとし、呪猫当主の術が式の形状を元に戻し不可思議な力の影響が及び難い麓まで座標をずらしたのだ。
「(……またもや、助けられた)」
口惜しさにやや顔を歪ませながら、懐に入れられた物体に触れる。硬い紙の感触がしたので、どうやら御守りらしい。
×
怖気がするほどに、山は静かだった。
生き物どころか、夜行性の魔獣の気配すら一切しない。
示された方向に向かって歩くと、段々と明るく、音が聞こえ始めた。
足元が軋む様な感覚に陥ったので、即座に特殊な足の運びに切り替えて足音を殺す。気配と息も殺した。
得体の知れない力を感じて、間違いなく昔に兄が告げた妖精が連れて行く祭りだと確信する。
急いで連れ戻したい気持ちになるが、ラファエラがくれた夢見草の匂いが香り、早る気を落ち着かせた。
少しして、一層輝きが強く騒がしい場所が近付く。
「……」
一日振りに、ラファエラの姿を見た。彼女は不気味に光る地面や植物達に囲まれて、楽しそうに微笑んでいた。そして小さな光る何かに手を引かれ、
「――」
彼女自身が、薄く燐光を放っている。
その姿はまるで、天使かと見紛うほどに美しく愛らしくて、息が止まりそうだった。
だが、直後に連れて行かれると直感で感じる。
その恐怖に、思わず彼女の名前を呼んだ。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる