176 / 200
お試し期間
176:距離感。
しおりを挟む
「(……本当に、婚約したんだ)」
右腕に着けた腕輪を眺めてラファエラは、ほぅ、と溜息を吐く。
宮廷で婚約腕輪を付けてから、何かが変わった、と感じることはない。だが、婚姻の約束を結んだのだから、その縛りがきっと生まれたはず。そう彼女は考えた。
そして、どこかでその縛りを自覚することになるのだろう。
やがてそれが結婚腕輪になった時には、さらに儀式を重ねるので、より縛りが強くなるはずだ。
「(……あ、緑色の石だ)」
眺めていると、腕輪の装飾品の石が彼の目の色をしていた。近い色ではなく、ほとんどそのものの色だ。
それに気付いて、なんだか嬉しくなる。彼の存在を何となくで感じられるような気がしたから。
「腕輪等眺めて何をしていらっしゃるのです、アザレア」
ぼんやりしていると、ラファエラの真後ろに、フォラクスが現れた。
「……いや、近くない?」
振り返ると、すぐそこに彼が居る。フォラクスが身に付けていたらしい、香の薄い匂いが感じられる程の距離だ。
「奇怪しいですか」
微笑み、彼はゆったりと首を傾げた。さら、と溢れた髪から使っている石鹸や彼の魔力の匂いがして、鼓動が速くなる。
「近い近い、急過ぎじゃない?」
頬を染めつつも身体を捻り、ラファエラはフォラクスの肩を押して距離を開けさせる。その際に一瞬、彼の表情が変わったものの、何の感情だったのか分からなかった。
「嗚呼、失礼。今迄に親しい者が居らず、距離感が掴めぬもので」
「わたしも、きみの距離感が分かんないよ」
不思議そうな様子の彼に、彼女は困って眉尻を下げる。今まで通りの距離感で良いのに、とラファエラは思った。
「貴女と御友人方との距離感を参考にしてみましたが」
「んー、そっか。たしかに、ともだちとの距離感はそんな感じかも?」
ラファエラは戸惑いながらも頷く。だがそれは同性の友達だからだ。
「で、でも……ちょっと急じゃない?」
こんなに、しかも異性から距離を詰められるなどそう体験したことが無いので、心の準備ができていなかった。
「共寝もした仲ですのに」
口元に手を遣り、フォラクスは軽く目を伏せた。少し悲しそう、というか寂しそうな様子に見えて少しだけ心がちくりと痛んだ。
「そ、それは例外……」
痛んだが、なんだかわざとらしいなぁ、と少し思う。思いつつも、ラファエラは軽く目を逸らした。
それに、一緒に寝たのは遭難から帰った時と、呪猫に居た時だけで、あの時は1人が怖かったので仕方なかった、はずだ。
「然様で。然しながら、相性を確かめる為にも多少の触れ合いや対話等必要だと思いますが」
す、と顔を元の澄ました表情に戻して、フォラクスは問いかける。それを見て、やはりさっきの表情はわざとだったのだと確信した。
「……そうだね。今、対話の必要性を感じてるとこだよ」
戸惑いながらラファエラは答える。なんとなく、彼の様子が今までと違う気がしていた。それは婚姻したからなのか、彼女自身がようやく自覚したからかはまだ分からない。
「もしかして、今まで色々我慢してた感じ?」
「……如何でしょうねぇ」
急な距離の詰め方とか、何やらわざとらしい様子とか。聞いてみるも、ゆっくり目を細めてフォラクスは薄く微笑むだけだ。
「と、取りあえず。距離感はゆっくり詰めよ?」
そう提案してみるものの、何となくその提案は通らないような気がした。
「前向きに検討は致します」
「んー」
薄く笑う彼に、ラファエラは眉を寄せる。
不便というかとてつもなく嫌な予感がしていた。
右腕に着けた腕輪を眺めてラファエラは、ほぅ、と溜息を吐く。
宮廷で婚約腕輪を付けてから、何かが変わった、と感じることはない。だが、婚姻の約束を結んだのだから、その縛りがきっと生まれたはず。そう彼女は考えた。
そして、どこかでその縛りを自覚することになるのだろう。
やがてそれが結婚腕輪になった時には、さらに儀式を重ねるので、より縛りが強くなるはずだ。
「(……あ、緑色の石だ)」
眺めていると、腕輪の装飾品の石が彼の目の色をしていた。近い色ではなく、ほとんどそのものの色だ。
それに気付いて、なんだか嬉しくなる。彼の存在を何となくで感じられるような気がしたから。
「腕輪等眺めて何をしていらっしゃるのです、アザレア」
ぼんやりしていると、ラファエラの真後ろに、フォラクスが現れた。
「……いや、近くない?」
振り返ると、すぐそこに彼が居る。フォラクスが身に付けていたらしい、香の薄い匂いが感じられる程の距離だ。
「奇怪しいですか」
微笑み、彼はゆったりと首を傾げた。さら、と溢れた髪から使っている石鹸や彼の魔力の匂いがして、鼓動が速くなる。
「近い近い、急過ぎじゃない?」
頬を染めつつも身体を捻り、ラファエラはフォラクスの肩を押して距離を開けさせる。その際に一瞬、彼の表情が変わったものの、何の感情だったのか分からなかった。
「嗚呼、失礼。今迄に親しい者が居らず、距離感が掴めぬもので」
「わたしも、きみの距離感が分かんないよ」
不思議そうな様子の彼に、彼女は困って眉尻を下げる。今まで通りの距離感で良いのに、とラファエラは思った。
「貴女と御友人方との距離感を参考にしてみましたが」
「んー、そっか。たしかに、ともだちとの距離感はそんな感じかも?」
ラファエラは戸惑いながらも頷く。だがそれは同性の友達だからだ。
「で、でも……ちょっと急じゃない?」
こんなに、しかも異性から距離を詰められるなどそう体験したことが無いので、心の準備ができていなかった。
「共寝もした仲ですのに」
口元に手を遣り、フォラクスは軽く目を伏せた。少し悲しそう、というか寂しそうな様子に見えて少しだけ心がちくりと痛んだ。
「そ、それは例外……」
痛んだが、なんだかわざとらしいなぁ、と少し思う。思いつつも、ラファエラは軽く目を逸らした。
それに、一緒に寝たのは遭難から帰った時と、呪猫に居た時だけで、あの時は1人が怖かったので仕方なかった、はずだ。
「然様で。然しながら、相性を確かめる為にも多少の触れ合いや対話等必要だと思いますが」
す、と顔を元の澄ました表情に戻して、フォラクスは問いかける。それを見て、やはりさっきの表情はわざとだったのだと確信した。
「……そうだね。今、対話の必要性を感じてるとこだよ」
戸惑いながらラファエラは答える。なんとなく、彼の様子が今までと違う気がしていた。それは婚姻したからなのか、彼女自身がようやく自覚したからかはまだ分からない。
「もしかして、今まで色々我慢してた感じ?」
「……如何でしょうねぇ」
急な距離の詰め方とか、何やらわざとらしい様子とか。聞いてみるも、ゆっくり目を細めてフォラクスは薄く微笑むだけだ。
「と、取りあえず。距離感はゆっくり詰めよ?」
そう提案してみるものの、何となくその提案は通らないような気がした。
「前向きに検討は致します」
「んー」
薄く笑う彼に、ラファエラは眉を寄せる。
不便というかとてつもなく嫌な予感がしていた。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる