薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

文字の大きさ
上 下
174 / 200
同棲生活

174:あるものを買いに。

しおりを挟む
 とある休日の朝。

「本日、外出しようと思うのですが」

 ラファエラは、フォラクスから声をかけられる。

「え、お出かけ!?」

「えぇ、買い物です。……予定は有りますか」

彼女が作った朝食を口に運びながら、彼は問いかける様に少し首を傾けた。

「んー、材料は足りてるから問題ないよ」

 フォラクスへ、ラファエラは上機嫌に答える。

「ごーちゃんたちは必要?」

と訊くと

「……二人きりが好ましいのですが」

そう、やや声を低くして言われた。

「ん! わかった」

 嬉しそうに返事をする。二人っきりが良いという答えを貰えて、彼女は嬉しくなったのだ。

 それから、2人は朝食を終えた後に身支度を整えて街に出かける。

×

「なんで魔術師のローブその格好?」

 屋敷を施錠するフォラクスに、ラファエラは問う。

「此方の方が、何かと都合が良いのですよ」

「ふーん」

なんとなく、自分だけ張り切っている様な気持ちになっていたが、彼の格好も(デートに向いているかはさておき)それなりにきちんとした格好だったので、ラファエラは気にしないことにした。

「どこに行くの?」

 秋の祭りに向け飾り付けがされ始めた街を眺めて、彼女はフォラクスを見上げた。彼は逸れないように軽く手を繋ぎ、さり気無く歩幅を合わせ少し前を歩いてくれている。

「腕輪を、購入しに行くのですよ」

 少し振り返り、フォラクスはラファエラに視線を向けた。

「なんで?」

 腕輪は魔力放出器官、要は魔術社会にいて重要な箇所に関わる装飾品である。なので、一例を除いては、魔術を使わせない罪人か魔力の出力を調整する必要がある魔術師ぐらいしか身に付けない。
 ちなみに魔術師が身に付ける物は動物皮や植物性の腕輪で、罪人は腕輪ではなく金属性の魔錠である。これは、この国が冬が厳しいゆえに、ただの金属の腕輪だと肌を傷める可能性があるからだ。罪人は肌を傷めさせる刑罰のために、あえて金属の腕輪をあてがわれていた。

「……」

理由が分からずに首を傾げると、彼は少し不愉快そうに眉をひそめて足を止める。そして、

「貴女は、、もうお忘れですか」

と、確認する様子でゆっくりと言葉を投げかけた。

「えっと……お試し、期間……?」

 急いで思考を巡らせ、思い至ったものを恐る恐る答えれば、彼は、にこ、と薄く微笑み

「ええ。つまり、私達は本当に婚約するのですよ」

そう教えてくれた。どうやら正解らしく、ラファエラはほっと内心で息を吐く。
 腕輪を身に付ける魔術師や罪人以外の一部の例外、それが『婚約か結婚をしている者』だ。

「あ、そっか。契約……じゃなくて、婚約用の腕輪を買いに行くってこと?」

 言われて、ようやく実感を持ったのか、ラファエラは少し頬を染める。

「はい。別に金には困っていませんが……制度で購入の保証もされておりますし、折角なので専用の店で買いますよ」

「う、うん」

 婚約にはその『証』の腕輪が必要だということをすっかりと忘れていた。

「因みに、貴女は金属のたぐいで拒絶反応は出ますか」

次いで、フォラクスは体質について問いかける。
 金属性の腕輪は、一般的には婚約か結婚をしている者しか身に付けないので、つまりは婚約腕輪を身に付けられるか訊いたのだ。一般人向けは、罪人の魔錠と違い、肌が傷まないように魔術式が施される。

「ううん。出ないよ」

「そうですか。其れは良かった」

彼は心底安心した様子だった。

 少し歩いて、ラファエラは貴金属を取り扱う店へ連れられた。
 周囲が段々と高級な物を取り扱う店に変わり始めて少し場違い感を感じ始めていた時だったので、なんとなくで安堵する。

「……きらきらしてる」

 しかし、やはり内装が煌びやかでいかにもな高級感を醸し出していた。ラファエラはフォラクスに隠れる様に服を握って身を寄せる。

「腕輪は、の様な物が良いですか」

「…………んとね、あんまり邪魔にならないやつ」

 飾ってある物を自由に見て良いと言われたものの、ラファエラは店の雰囲気に萎縮していたし、何が良いかも分からなかった。

「……材質は」

「硬くて丈夫なやつ。壊れたら困るよね、たぶん」

ただ、土や薬品で汚れたり、加熱で曲がらないものが良いとも答えた。

「然様で」

軽く相槌を打つと、

「……そう仰るのでしたら、此れでも宜しいか」

そう、フォラクスは鉱物の塊を二つ、ローブの奥から取り出した。白っぽい金属のようだ。だが、その金属の種類が分からなかった。

「ん? いいよー」

 よく分からないのでそう答えるしかない。それに、彼が選んでくれた物ならば大丈夫な気がしたのだ。

「装飾は最も無駄の無いものを。そして、此の材料で。大きさは……」

 その後、フォラクスは店長と思われる人物と何やら話し込んでいた。聞こえる端々の単語から、婚約用の腕輪についての話なのは理解できた。

「(……結構前から、色々な材料とか用意してたんだなぁ)」

 彼は、腕輪に使う専用の金属と石等を自前で用意し、持ってきていたようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...