薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

文字の大きさ
上 下
164 / 200
同棲生活

164:人形作り。

しおりを挟む
「さすがにアースガイル。
 使節船も立派なものだ。」

 砂漠の国“デザリア”で宰相を務める男は星空の下、近づいてくる大型の船を見つめていた。

 到着は翌日と思われていたが、返信をした日の内に着くとは、相手も随分と無理をしたらしい。

「急かしたわけではないのだがな。」

 問題が起こっている。
 どこにも寄らずに王宮に来いと言っておいて急かしてないはない。

 使節団の代表がアースガイル国王の愛する第2王子と知った上で、どう動くか試したのだ。

「流石、勤勉と謳われる王子だけある。
 愚鈍でないと分かって安心した。」

 アースガイルの使節船はデザリアで好まれる派手な装飾でないにしろ、シンプルにも洗礼された美しい船だった。

 見事に横付けにされた使節船から帽子の大きな男が降りてきた。

「これはこれは、豪勢なお出迎え痛み入ります。」

 男は目の前に立つ老功に軽く頭を下げた。

「無事の到着なによりです。
 貴方は・・・。」

 宰相がといかけると、男は帽子を脱ぎ胸に当てた。

「ハッ。
 私はアースガイル貴族、フィルディナンド・クロス。
 伯爵位を賜っております。
 この度は使節船の船長という大役を任されておりました。
 ディビット・ドゥ・アースガイル第2王子は間も無く参ります。
 今暫くお待ちください。」

 クロス伯爵と名乗った男に宰相は1つ頷くと静かに浮かぶ船を見上げた。

 そこに、1人の若者が現れるとアースガイルの騎士や船員が背筋を伸ばす。

 宰相はこの若者こそが第2王子かと、見極めるように見つめた。

 若者は軽やかに階段を降りてくるとクロス伯爵の肩にポンと手を置いて微笑んだ。

「楽しい船旅でした。
 世話になりました。
 帰りも頼みます。」

「ハッ!
 光栄であります。
 ディビット様をアースガイルにお送りするまでが私の仕事です。
 どうぞ、“デザリア”の滞在が実りあるものである事を願います。」

 クロス伯爵の通る声にディビットは笑いを堪えながら頷いた。
 
 そして出迎えの先頭にたっていた老功に目をやると、かけていた眼鏡をクィッと上げて微笑んだ。

「待たせてしまいましたか?」

「とんでもない事でございます。
 ようこそ“デザリア”までお越しくださいました。
 私、宰相を務めますナロ・シウバと申します。
 責任をもって王宮までご案内致します。」

 老功の挨拶にディビットは優しく頷いた。

「ありがとう。
 あの有名なナロ・シウバ殿に会えて嬉しいかぎりです。
 『砂漠における革新的防衛の考察』の論文を拝見しました。
 興味深い記述が多く、呼んでいて勉強になりました。」

「なんと!
 アレは私が20代の折に書いた、およそ傑作とはほど遠いと論ぜられた物ですぞ?
 読まれたのですか?」

「えぇ。
 我が国は砂漠ではありませんが、通じる物がないとも言い切れないでしょう。
 論文とは研究者達の本気の証。
 国の統治に関わる者は、どんな考えでも拒まずに知識として頭に入れるべきです。
 ・・・まぁ、偉そうな事を言いましたが、本当は私が読み物が好きというだけの話ですがね。」

“デザリア”の宰相ナロ・シウバはアースガイルの若き王子との出会いで、国を揺るがす問題が解消されるのではないかと願わずにいられなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...