薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

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三年目

123:学習“は”した。

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「はい、お菓子」

 学芸祭三日目の終わる昼頃。
 フォラクスが現れるなり、アザレアは菓子を差し出した。

「おや、お早いですね」

 目を見開きつつも、フォラクスはそれを受け取る。昨日と同様に血濡れの猫人間の出立ちで、服装は宮廷魔術師のものだ。きっと、お菓子を渡した後はすぐに職場へ帰るのだろう。そう考えると、忙しい合間を縫ってわざわざ来てくれたんだ、とアザレアは嬉しくなった。

「だって、いたずらされたくないんだもん」

早い菓子の手渡しについてフォラクスが言及すると、アザレアは少し頬を赤く染めて答える。昨日のような、おとがいを捉えられて顔を上げさせられる行為など、なんだか恥ずかしく二回目は食らいたくはないと思ったのだ。

「……ふむ。まあ、此度こちらは未だ何も商品すら手に取って居りませぬが」

 店に訪れて早々に菓子を差し出されたのだから、彼の主張は当然の話だった。

「良いの。あとこれは普通にわたしからきみにあげるためのお菓子だから」

だが、アザレアは思いもしない言葉を告げる。

「おや、然様ですか」

それを聞き、フォラクスは軽く目を見開いた。そして、面白いものを見たかのように、口元に手をり目を細めて笑う。

「どうしたの?」

「奇異な事だと思うたのですよ。成人してから菓子を頂くとは」

 ゆっくりと笑うのを止め、フォラクスは不思議そうに首を傾げるアザレアを見下ろした。

「どういうこと?」

「実はわたくし、斯様な虚霊の日に菓子を頂く等初めてで」

 他日らば土産物や決まり事のもので有るのですが、と、フォラクスは答える。

「……それって、」

つまり、虚霊祭では一度も菓子を貰っていないのだから、お守りを貰ったことがない、ということではないのか。けげんな表情でアザレアは彼を見上げるが、フォラクスはなんてこともないような顔で薄く微笑んだだけだ。

「……まあ。れは如何どうでも良いのです」

どうでも良くなさそうな事を言っておきながら、フォラクスは話を切り上げた。

「折角ですので、頂いておきましょうか」

 と、フォラクスはアザレアから菓子を受け取る。そして、

れが今年の菓子と札で御座います」

そうやって、どこからともなく菓子の詰まった袋を取り出した。

、大事になさって下さいまし」

「うん。わかった」

 去年は、つい漏らした魔力で札を台無しにしてしまった。おまけに、その後に色々と大変な目に遭ったのだ。御守りの大切さを身をもって思い知ったとでもいうのか。

「『お菓子くださいな』」
「『どうぞ、お菓子をお持ち帰りください』」

 きちんとやり取りを行い、アザレアはフォラクスから菓子と札を受け取る。
 アザレアは今度こそ、魔力で台無しにしないよう、鞄に入れた。

「……今回は、直ぐに開けないのですね」

 おや、と軽く目を見開き、フォラクスは問いかける。去年も一昨年も、アザレアは貰った直後にフォラクスの前で菓子の袋を開封していた。今年もそうするだろうと思っていたのだろう。

「うん。だって去年みたいにお札を台無しにしたらって思ったら……ちょっと怖くなったんだもん」

む、と顔をしかめ、アザレアは答えた。

「…………成程なるほど

フォラクスは、にこ、と微笑む。

「……なんか、すっごく失礼なこと思ってない?」

「いいえ。貴女も成長するのだなと思うた次第で御座いますとも」

「ちょっと!」

くすくすと笑うフォラクスに、アザレアは頬を膨らませた。

「……ところで、本日は手伝いの者はいらっしゃらないのですね」

 周囲に視線を向け、フォラクスが問いかけると

「あ。あの子はね、割引券を『飴』と交換しに行ってるところだよ」

そう、アザレアは答える。

「なにか用事があったの?」

「いえ。ただ、姿を見ないと思っただけで」

と、フォラクスが呟いたところで、

「邪魔者で、悪かったね」

 『飴』のたっぷり入ったバケツを持ったその3が現れた。

「あ、戻ってきたんだ」

 ぱっとアザレアはその3のほうを見る。同じくその3のほうを見、フォラクスは丁寧に会釈をした。

「うん。昨日の人がたくさんの割引券を、、こんなに『飴』が」

 と、意味あり気にその3はフォラクスに視線を向ける。

「へぇー、割引券ってこんな使い方があったんだ。ありがとう」

アザレアはフォラクスを見上げ、お礼を述べた。

「……用事は済みましたので戻ります。れでは」

 アザレアに微笑み、フォラクスは姿を消す。

×

 そしてその夕方に、アザレアからフォラクスの元へ連絡が入ったのだ。

「おねがい! その3……じゃなくて、転入生の、くすんだ金髪の子、わたしのお店のお手伝いをしてた子が、いなくなっちゃったの! 探すの手伝って!」

と、かなり焦った声で。
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