薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

文字の大きさ
上 下
114 / 200
三年目

114:色々な意味で地獄(意味深)。

しおりを挟む
「……」

 浄化装置でお風呂に入ったことにならないかな、とアザレアは考える。しかし、清められるのは汚れだけであって、アザレアについた土や花は落ちないのですぐに諦めた。

「ん、」

服を脱ぐと土や夢見草の花が床に落ちた。

「うわ、結構付いてた……」

 これをフォラクスが後処理をするのか、と考えて

「……」

なんとなく恥ずかしくなり、考えるのをやめた。まだ髪の中にもたくさん土や花が入っているだろうし。

×

「ん、広い」

 当たり前だが、屋敷の風呂はアザレアが普段利用している魔術アカデミーの風呂場よりも広い。

「……」

 きょろきょろと、彼女は落ち着かない様子で周囲を見る。

「(なんだか、わたしが知ってるお風呂と様子が違う……?)」

 アザレアが知っている風呂は、湯船の中で身体を洗うものだった。だが、今いるこの場所では湯船が思った以上に広く、既に湯が張られていた。これでは湯船の中で体を洗うのは難しいだろう。
 風呂に入るよう勧めたフォラクスがわざわざ嫌がらせをするとも考えられないので、この状態でどうにか風呂に入る方法をアザレアは思考した。

「(……見た感じ、湯船の外で身体を洗う、のかな)」

 湯船の外は濡れたり泡がついたりしても平気そうだ。風呂の中のお湯や水を掻き出せそうな小さな桶があるので、それで湯船の中のお湯でも使うのだろうと予想した。
 恐る恐る、彼女は石鹸を手に取り湯船の外で身体を洗う。

「(『困り事』って、こういうことか……)」

 そう悟った。
 古き貴族には独特な文化を持つ場所が多いと、アザレアは本で読んだ記憶があるので、もしかすると、その文化の一部なのかもしれない。
 思わぬところで異文化交流をした、と彼女は感心する。不思議で、面白い感覚だ。

 身体や髪を洗うと、流した湯の中に土と花が混ざっている。その土や花が出なくなるまで湯を被り、何も出なくなったのを確認して、アザレアは湯船に浸かった。

×

 回収したアザレアに風呂を勧めてからしばらくして、髪を乾かす魔道具の音がし始める。どうやら風呂から上がったらしい。

「(……特に困った事は無かった様子ですね)」

意外に思いながら、アザレアが来るのをフォラクスは待つ。

「湯加減は如何いかがでしたか」

「ん、よかった」

「そうですか」

 アザレアは、用意されたフォラクスの上衣をきちんと着て現れた。上衣の中からは普段から着ている、腕から体、首までをぴったりと覆う不用意な魔力の放出を防ぐインナーが覗いている。

「大きいね、きみの服」

袖をまくりながら、アザレアは感心した様子だ。

「……まあ、体格差がありますからね」

 言いつつ、フォラクスは席を立つ。

「食事を作っておきました。冷めないうちに食べておきなさい」
「はーい」

×

 どうやら、フォラクスは風呂場に向かったらしい。用意された食事を目の前に、アザレアは自身の状況を再確認する。

「……いつのまにかお泊り&彼シャツコースに入ってた」

違う。はっとして頭を振る。

「…………おちつかない」

普段と違う場所で普段と違う格好で、普段と違う食卓。
 アザレアは自身のまとう服を見る。

「うん、すっごいおっきい」

まるでワンピースドレスのようだ。
 婚約者のフォラクスは背が高い。なので、手や色々が大きい。相性結婚でそのまま結婚するとなれば、子供も作る事となるのだが。

「(……………………大丈夫かな)」

何がとは言わない。

 それはともかく。
 目の前に用意された食事は焼かれたパンとポトフと鶏肉のソテーと野菜たっぷりのサラダだ。

「どれもおいしそう」

 冷めないうちに、と言われたので遠慮なく、アザレアは簡易的に祈ってから食事に手を伸ばした。

 途中でフォラクスが現れ、アザレアはの向かい側の席に座る。普段の魔術師のローブ姿でない、彼のくつろいだ格好に少しどぎまぎしながらも無関心を装ってアザレアは食事を続けた。(魔術師のローブは中に首まで覆う上衣を着ているので、彼の首元や鎖骨辺りが見えるのも、その緊張の要因だと思われる。)

 フォラクスも向かい側で少し祈った後、食事を始めた。弁当の件で見慣れているものの、彼はよく食べる。その様子を見ていると、昼以降何も口にしていなかった筈なのにお腹いっぱいな気持ちになった。

×

 二人は丁度同じくらいに食べ終わった。そしていつものように、アザレアは使用済みの食器を率先して片付ける。

「では、特にする事がなければ、歯を磨いて寝なさい。木の札があるので寮の自室へ戻るのも良いでしょう」

 片付けが終わり、フォラクスがそう告げると、

「……ん」

アザレアはきゅっと口を結んで頷く。

如何どうなさいました?」

 普段とは違う様子に問いかけると、

「…………ちょっと、ぎゅってしていい?」

アザレアは申し訳無さそうに、フォラクスを伺い見る。

「……御自由に」

 なんともない風を装っていたものの、やはり遭難中は心細かったのだろう。許可を得るや否やフォラクスを抱きしめ、アザレアはその胴体に顔をうずめた。

「…………」

 なんとなく、フォラクスはその背中そっと撫でる。

 しばらくして、アザレアが静かになった。心なしか、体重を預けられているような。
 そっと、フォラクスはアザレアの顔を覗き込む。

「……本当に変わった方だ」

 立ったまま眠るとはと、呆れと関心の感情が湧く。
 不用意に起こさぬよう眠りが深くなるまじないをかけ、抱き上げてアザレアを部屋に運び、その寝台に寝かそうとした。だが、なぜか服を掴んで全く離れなかったので、仕方なくそのままフォラクスは共に寝ることにする。
 アザレアに用意した寝台だと自身の身体の大きさが合わないので、仕方無しに自室に運んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...