113 / 200
三年目
113:色々な意味で地獄。
しおりを挟む
「うっひゃあ……地獄絵図」
窪みから引き上げてもらうと、周囲には肉の山があった。見える部位の形状などから、その肉の正体はフォラクスが言っていたように蛇型の魔獣のようだ。そして、その魔獣全ての腹が綺麗に切り開かれていた。
「これ、全部きみがやったの?」
「ええ、はい。私一人で来ましたからね」
アザレアが振り返り見上げると、彼はさも当然のように肯定する。随分と大きな魔獣を、複数体も相手にしていたらしい。
「すっごーい。切り口が綺麗だねー」
そしてアザレアは綺麗に血抜きと内臓の除去が行われているそれに関心する。すぐにでも肉として回収できそうだ。
「……思いの外、平気なようですね。……若しや、慣れて居られる?」
少し驚いた様子でフォラクスは紐で吊ったままのアザレアを見る。
「まぁね。動物の解剖とか、狩りとかやってたし。鼠から熊まで捌けるよ。食べられるのは大体いける」
「…………貴女は、本当に特殊な方ですね」
むん! と得意そうなアザレアに、フォラクスは感心しているらしい。
「褒めてる?」
「えぇ。勿論で御座います」
×
地面に下ろしてもらい、アザレアの身体に巻き付いていた紐をフォラクスは回収する。
「こんなのがいっぱいいたのに、なんで無事だったのかな?」
肉の山を見ながら、アザレアは首をかしげる。
「扨。私にはとんと見当も付きませぬが」
そう言い、フォラクスは少し屈んでアザレアの頭に手を伸ばす。
「ん、なに?」
「此の『花』か貴女の荷物に何か要因が有るのでは?」
アザレアの髪に触れたその手には『夢見草』の花が摘まれていた。すっかり萎びていたが、ただ水分が抜けているだけのようだ。
「……なるほど?」
周囲を見回すと、夢見草の花が散れている箇所には魔獣の足跡や暴れた後らしきものが非常に少なかった。
それに肉の山の、花に触れている箇所が少し縮んでいるような。アザレアは急いで花に塗れていたはずの自身の体を見るが、どこにも異常は感じていない。
「少々お待ちを。肉を回収致しますので」
観察をしていると、フォラクスが声をかけた。
「回収? あ、腐ったり他の魔獣に食べられたりしたら色々大変だもんね」
言いつつ、アザレアは彼の側まで下がる。
「『宣告。“解体後収獲”』」
そう短く彼が告げた直後、一瞬で肉がブロックの塊になり、地面に落ちる前に消えた。
どこに消えたんだろう、と思うがどうせ教えてくれないだろう。そしてやっぱり宮廷魔術師なんだなぁと、術式の影響範囲に感心した。
「……では、帰りますよ」
フォラクスは手を差し出す。
「うん」
言われるままに何の疑いもせず、アザレアは手のひらを重ねた。それに一瞬、フォラクスは固まったが、何かを考えている様子の彼女は気付いていないようだ。
「……あ、荷物は」
ふと、アザレアは自身の荷物の安否確認に周囲を見回す。
「袋に詰まった草の類い成らば、私の屋敷に運んであります」
アザレアから目を逸らし、フォラクスは平坦な声で答えた。
「わ、ありがとう!」
「いいえ。お気になさるな」
そして、フォラクスの作った移動用の魔術陣で彼の屋敷に移動した。
×
「あっ……門限……」
屋敷に到着した直後、アザレアの視界にに入った時計はアカデミー寮の門限を過ぎていた。
「『婚約者の家に泊まる』と、予め連絡しておきましたので、御心配無く」
「えっ?」
慌てるアザレアに、フォラクスはさらりと答える。
「学園の方より貴女が居ないと連絡が入りまして。なので騒ぎを大きくしないよう、其の様に答えました」
「そんな勝手に……でも、助かったよ」
色々としてもらってばかりだ、と頭の下がる思いだった。
話を聞くと、連絡が入ってからすぐに探しに来てくれたらしい。
「……連絡の直後は非常に、肝が冷えました」
「ん……」
アザレアはきゅっと口を結ぶ。
「……まあ、先ずは身体を清めて下さいまし」
十分に反省しているからと、フォラクスはあまり追求するつもりはないらしい。
「あ、土まみれで汚いよね。ごめん」
「いいえ。何方かと言えば、其の花を早く身体から落とした方が良いのでは、と思うての提案でしたが」
言われて、アザレアは自身にまとわりついている夢見草の花に毒があることを思い出した。
「あっ、ごめん。わたしあんまり毒が効かないから忘れてた」
「…………然様ですか」
「というか、きみも魔獣の血まみれだよね?」
外は月明かりがあるとはいえよく見えなかったが、屋敷の魔石の灯りに照らされたその姿は随分と汚れていたのだ。
「私は外套しか汚れておりませんので、お気になさらず」
いうなり、フォラクスはその外套を脱ぐ。それを綺麗に折りたたみ、現れた恐らく式神であろう人形に手渡した。
「わぁ、本当に汚れてない」
外套の中身は見事に無事だった。
×
「湯浴みの場は此方です」
フォラクスに案内された先は、風呂場近くの脱衣所だ。
「下着類に関しては浄化装置を使い、寝巻きは其の服では寝難いでしょうから、私の服を。落とした砂や花は私が後で如何にか致しますので気にせず」
「……ん」
物の有る箇所を手で示し、フォラクスは端的に説明をした。
「手の届く範囲に石鹸等は置いて有る筈ですが……もし、何か困り事が有れば遠慮無く」
そう告げてフォラクスはアザレアを置いて居なくなった。
窪みから引き上げてもらうと、周囲には肉の山があった。見える部位の形状などから、その肉の正体はフォラクスが言っていたように蛇型の魔獣のようだ。そして、その魔獣全ての腹が綺麗に切り開かれていた。
「これ、全部きみがやったの?」
「ええ、はい。私一人で来ましたからね」
アザレアが振り返り見上げると、彼はさも当然のように肯定する。随分と大きな魔獣を、複数体も相手にしていたらしい。
「すっごーい。切り口が綺麗だねー」
そしてアザレアは綺麗に血抜きと内臓の除去が行われているそれに関心する。すぐにでも肉として回収できそうだ。
「……思いの外、平気なようですね。……若しや、慣れて居られる?」
少し驚いた様子でフォラクスは紐で吊ったままのアザレアを見る。
「まぁね。動物の解剖とか、狩りとかやってたし。鼠から熊まで捌けるよ。食べられるのは大体いける」
「…………貴女は、本当に特殊な方ですね」
むん! と得意そうなアザレアに、フォラクスは感心しているらしい。
「褒めてる?」
「えぇ。勿論で御座います」
×
地面に下ろしてもらい、アザレアの身体に巻き付いていた紐をフォラクスは回収する。
「こんなのがいっぱいいたのに、なんで無事だったのかな?」
肉の山を見ながら、アザレアは首をかしげる。
「扨。私にはとんと見当も付きませぬが」
そう言い、フォラクスは少し屈んでアザレアの頭に手を伸ばす。
「ん、なに?」
「此の『花』か貴女の荷物に何か要因が有るのでは?」
アザレアの髪に触れたその手には『夢見草』の花が摘まれていた。すっかり萎びていたが、ただ水分が抜けているだけのようだ。
「……なるほど?」
周囲を見回すと、夢見草の花が散れている箇所には魔獣の足跡や暴れた後らしきものが非常に少なかった。
それに肉の山の、花に触れている箇所が少し縮んでいるような。アザレアは急いで花に塗れていたはずの自身の体を見るが、どこにも異常は感じていない。
「少々お待ちを。肉を回収致しますので」
観察をしていると、フォラクスが声をかけた。
「回収? あ、腐ったり他の魔獣に食べられたりしたら色々大変だもんね」
言いつつ、アザレアは彼の側まで下がる。
「『宣告。“解体後収獲”』」
そう短く彼が告げた直後、一瞬で肉がブロックの塊になり、地面に落ちる前に消えた。
どこに消えたんだろう、と思うがどうせ教えてくれないだろう。そしてやっぱり宮廷魔術師なんだなぁと、術式の影響範囲に感心した。
「……では、帰りますよ」
フォラクスは手を差し出す。
「うん」
言われるままに何の疑いもせず、アザレアは手のひらを重ねた。それに一瞬、フォラクスは固まったが、何かを考えている様子の彼女は気付いていないようだ。
「……あ、荷物は」
ふと、アザレアは自身の荷物の安否確認に周囲を見回す。
「袋に詰まった草の類い成らば、私の屋敷に運んであります」
アザレアから目を逸らし、フォラクスは平坦な声で答えた。
「わ、ありがとう!」
「いいえ。お気になさるな」
そして、フォラクスの作った移動用の魔術陣で彼の屋敷に移動した。
×
「あっ……門限……」
屋敷に到着した直後、アザレアの視界にに入った時計はアカデミー寮の門限を過ぎていた。
「『婚約者の家に泊まる』と、予め連絡しておきましたので、御心配無く」
「えっ?」
慌てるアザレアに、フォラクスはさらりと答える。
「学園の方より貴女が居ないと連絡が入りまして。なので騒ぎを大きくしないよう、其の様に答えました」
「そんな勝手に……でも、助かったよ」
色々としてもらってばかりだ、と頭の下がる思いだった。
話を聞くと、連絡が入ってからすぐに探しに来てくれたらしい。
「……連絡の直後は非常に、肝が冷えました」
「ん……」
アザレアはきゅっと口を結ぶ。
「……まあ、先ずは身体を清めて下さいまし」
十分に反省しているからと、フォラクスはあまり追求するつもりはないらしい。
「あ、土まみれで汚いよね。ごめん」
「いいえ。何方かと言えば、其の花を早く身体から落とした方が良いのでは、と思うての提案でしたが」
言われて、アザレアは自身にまとわりついている夢見草の花に毒があることを思い出した。
「あっ、ごめん。わたしあんまり毒が効かないから忘れてた」
「…………然様ですか」
「というか、きみも魔獣の血まみれだよね?」
外は月明かりがあるとはいえよく見えなかったが、屋敷の魔石の灯りに照らされたその姿は随分と汚れていたのだ。
「私は外套しか汚れておりませんので、お気になさらず」
いうなり、フォラクスはその外套を脱ぐ。それを綺麗に折りたたみ、現れた恐らく式神であろう人形に手渡した。
「わぁ、本当に汚れてない」
外套の中身は見事に無事だった。
×
「湯浴みの場は此方です」
フォラクスに案内された先は、風呂場近くの脱衣所だ。
「下着類に関しては浄化装置を使い、寝巻きは其の服では寝難いでしょうから、私の服を。落とした砂や花は私が後で如何にか致しますので気にせず」
「……ん」
物の有る箇所を手で示し、フォラクスは端的に説明をした。
「手の届く範囲に石鹸等は置いて有る筈ですが……もし、何か困り事が有れば遠慮無く」
そう告げてフォラクスはアザレアを置いて居なくなった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる