103 / 200
三年目
103:第六学年。
しおりを挟む
「あ、おはよー」
学年初めのオリエンテーションの場に向かおうとしたアザレアを呼び止める声があった。それはよく知っている声だったので振り返ると
「やっほー、夏休みぶりだね」
友人Bと、もう一人、背の高い見知らぬ女学生がいた。
「あれ、今日は一人?」
周囲を見回し、友人Bはアザレアに問いかける。友人Aとその2の姿が近くに見えない事に首を傾げたようだ。
「うん、なんだか2人とも用事があるって」
と、話し始めたところで、
「あの、まだ話の途中なんですけど」
見知らぬ女学生が声を挟む。その声に、改めてアザレアは女学生の姿を見留めた。
「(すっごく、綺麗な子だ!)」
滑らかな肌に涼やかな目元、すっと通った鼻筋に花弁のような小さくも鮮やかに色付いた唇と、精巧につくられた陶器人形のようだ。
「あ、そうだった」
あまりにも綺麗でアザレアが言葉を失っていると、友人Bはやや気まずそうに笑った。
「……えっと、だれ?」
「紹介するね。修学旅行でおんなじ班になった子。宮廷魔術師を目指してるんだってさ」
アザレアが首を傾げると、友人Bは隣にいた美しく輝く金髪の少女を紹介した。
「へぇー」
魔術コースの子かぁ、とアザレアは頷く。道理であまり見ない顔だと思った。
「あなたが『薬術の魔女』ですか。よろしくお願いします。噂とお話はかねがね」
綺麗な背筋のまま、巻き毛の女学生は丁寧にお辞儀をする。動作も綺麗で作り物みたいだ、と感心した。
「うん。……うわさ?」
とアザレアは首を傾げたが、すぐに女学生の髪に興味が向いた。すごく、綺麗な巻き毛だ。
「ああ、この髪ですか。気になりますか」
アザレアの視線を受け、女学生は自らの髪に触れる。つやつやと光を反射して輝いているように見えた。一体どの様な手入れをしているのだろう。
「地毛の癖なんだってさ」
「地毛? すっごーい、きれい!」
友人Bの解説に、アザレアは歓声をあげた。まるで、整髪料や整髪鏝で整えたかのように綺麗な巻き毛だったのだ。
「ありがとうございます。ですがそれよりも、そろそろオリエンテーションが始まりますよ。ああ、さっきの話はそのあとでも大丈夫なんで」
賛辞の声を謙遜することなく受け取りつつも、女学生はアザレアと友人Bに注意を促した。
「あっ、そうだった」
「そうだっけ?」
慌てる友人Bと首を傾げるアザレア。その二人の様子を見ながら、女学生は呆れたように溜息を吐いた。
「ともかく。よろしくお願いしますよ」
そしてアザレアと友人Bの2人にオリエンテーションの会場の方へ促す。
何かの取引中だったらしいが、きっとアザレアには関係ない話なので、聞かなかった。
×
学年初めのオリエンテーションでは、毎年のように学生会会長が挨拶をする。その時に、アザレアは、その2が学生会会長になっていたらしいことを知った。
「いつの間に学生会の会長になってたの?」
オリエンテーションが終わったのち、アザレアはその2に問いかける。
「半年くらい前ですよぉ」
その2は驚いた様子も無く、にこにこと笑顔で答えてくれた。(寧ろ、アザレアが知らなかった事に気付いていたのだろう。)
「……そっか」
半年以上も気付かなかったんだ、と、アザレアは我がことながら微妙な心境になった。
「実力で、もぎ取りました♡」
可愛らしい笑顔で、その2は頑張ったポーズをとったのだが、その笑顔がなんだか怖い。
「これで、学生間の不平等を正すことができそうです」
内心でぷるぷるしていると、その2は慈愛の滲んだ安堵の表情でそう呟く。
恐らくそれは、テスト勉強や扱いの差についてなのだろうと、鈍いアザレアでも理解できた。その2は、その差に苦しめられていた一人だったからだ。
「できるの?」
「はい。そのために色々と準備してましたから」
その2は力強く頷く。
「まあ、今年はあんまり大きな改革はできないかもですけれど、私達以降のアカデミー生達が不平等にならないようにするつもりです」
「ふーん?」
×
魔術アカデミー第六学年たちは、将来のため、または卒業するために何かを作り上げ発表しなければならなかった。
「今月末までに主題を決めるって話だったわよね。もう何か決めた?」
授業が始まる前にようやく合流できた友人Aは、アザレアとその2、ついでに偶然居合わせたその3に問う。
「まだ」
アザレアは口を尖らせた。
「私は『聖女候補』なので、宗教にかかわる内容で研究しようと思ってますよ」
その2はにこやかに答える。他にも、『聖女になるために必要な事』も色々するのだとか。
「僕は同室の子と共同で研究をする予定なんだ。同室の彼は魔術コースで科は違うんだけど、別の視点で色々と見られそうだから」
その3は、土着信仰に関連する内容を研究するらしい。
「へぇ」
ちなみに、友人Aは人の生命力や魂について、友人Bは魔術と力の流れについて研究するつもりらしい。
「(もう研究内容きまってるんだなぁ)」
何の研究をしようかな、とアザレアは首を傾げる。
学年初めのオリエンテーションの場に向かおうとしたアザレアを呼び止める声があった。それはよく知っている声だったので振り返ると
「やっほー、夏休みぶりだね」
友人Bと、もう一人、背の高い見知らぬ女学生がいた。
「あれ、今日は一人?」
周囲を見回し、友人Bはアザレアに問いかける。友人Aとその2の姿が近くに見えない事に首を傾げたようだ。
「うん、なんだか2人とも用事があるって」
と、話し始めたところで、
「あの、まだ話の途中なんですけど」
見知らぬ女学生が声を挟む。その声に、改めてアザレアは女学生の姿を見留めた。
「(すっごく、綺麗な子だ!)」
滑らかな肌に涼やかな目元、すっと通った鼻筋に花弁のような小さくも鮮やかに色付いた唇と、精巧につくられた陶器人形のようだ。
「あ、そうだった」
あまりにも綺麗でアザレアが言葉を失っていると、友人Bはやや気まずそうに笑った。
「……えっと、だれ?」
「紹介するね。修学旅行でおんなじ班になった子。宮廷魔術師を目指してるんだってさ」
アザレアが首を傾げると、友人Bは隣にいた美しく輝く金髪の少女を紹介した。
「へぇー」
魔術コースの子かぁ、とアザレアは頷く。道理であまり見ない顔だと思った。
「あなたが『薬術の魔女』ですか。よろしくお願いします。噂とお話はかねがね」
綺麗な背筋のまま、巻き毛の女学生は丁寧にお辞儀をする。動作も綺麗で作り物みたいだ、と感心した。
「うん。……うわさ?」
とアザレアは首を傾げたが、すぐに女学生の髪に興味が向いた。すごく、綺麗な巻き毛だ。
「ああ、この髪ですか。気になりますか」
アザレアの視線を受け、女学生は自らの髪に触れる。つやつやと光を反射して輝いているように見えた。一体どの様な手入れをしているのだろう。
「地毛の癖なんだってさ」
「地毛? すっごーい、きれい!」
友人Bの解説に、アザレアは歓声をあげた。まるで、整髪料や整髪鏝で整えたかのように綺麗な巻き毛だったのだ。
「ありがとうございます。ですがそれよりも、そろそろオリエンテーションが始まりますよ。ああ、さっきの話はそのあとでも大丈夫なんで」
賛辞の声を謙遜することなく受け取りつつも、女学生はアザレアと友人Bに注意を促した。
「あっ、そうだった」
「そうだっけ?」
慌てる友人Bと首を傾げるアザレア。その二人の様子を見ながら、女学生は呆れたように溜息を吐いた。
「ともかく。よろしくお願いしますよ」
そしてアザレアと友人Bの2人にオリエンテーションの会場の方へ促す。
何かの取引中だったらしいが、きっとアザレアには関係ない話なので、聞かなかった。
×
学年初めのオリエンテーションでは、毎年のように学生会会長が挨拶をする。その時に、アザレアは、その2が学生会会長になっていたらしいことを知った。
「いつの間に学生会の会長になってたの?」
オリエンテーションが終わったのち、アザレアはその2に問いかける。
「半年くらい前ですよぉ」
その2は驚いた様子も無く、にこにこと笑顔で答えてくれた。(寧ろ、アザレアが知らなかった事に気付いていたのだろう。)
「……そっか」
半年以上も気付かなかったんだ、と、アザレアは我がことながら微妙な心境になった。
「実力で、もぎ取りました♡」
可愛らしい笑顔で、その2は頑張ったポーズをとったのだが、その笑顔がなんだか怖い。
「これで、学生間の不平等を正すことができそうです」
内心でぷるぷるしていると、その2は慈愛の滲んだ安堵の表情でそう呟く。
恐らくそれは、テスト勉強や扱いの差についてなのだろうと、鈍いアザレアでも理解できた。その2は、その差に苦しめられていた一人だったからだ。
「できるの?」
「はい。そのために色々と準備してましたから」
その2は力強く頷く。
「まあ、今年はあんまり大きな改革はできないかもですけれど、私達以降のアカデミー生達が不平等にならないようにするつもりです」
「ふーん?」
×
魔術アカデミー第六学年たちは、将来のため、または卒業するために何かを作り上げ発表しなければならなかった。
「今月末までに主題を決めるって話だったわよね。もう何か決めた?」
授業が始まる前にようやく合流できた友人Aは、アザレアとその2、ついでに偶然居合わせたその3に問う。
「まだ」
アザレアは口を尖らせた。
「私は『聖女候補』なので、宗教にかかわる内容で研究しようと思ってますよ」
その2はにこやかに答える。他にも、『聖女になるために必要な事』も色々するのだとか。
「僕は同室の子と共同で研究をする予定なんだ。同室の彼は魔術コースで科は違うんだけど、別の視点で色々と見られそうだから」
その3は、土着信仰に関連する内容を研究するらしい。
「へぇ」
ちなみに、友人Aは人の生命力や魂について、友人Bは魔術と力の流れについて研究するつもりらしい。
「(もう研究内容きまってるんだなぁ)」
何の研究をしようかな、とアザレアは首を傾げる。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる