薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

文字の大きさ
上 下
77 / 200
二年目

77:予兆

しおりを挟む
「――……」

 仕事用の部屋で、フォラクスはゆっくりと目を開く。今し方、監視用に放った式神達の聴覚と視覚を同化させていた。
 、転生者、転移者共に、異常行動は見られなかった。
 実は命令から外されていたが、フォラクスは独自の判断でアザレア以外の三人の監視も続けていたのだ。放置していても問題無いと判断されたは言え、やはり、思考の傾向や動きに癖など手の内を知っておくためにも監視を続けていた。

 今まで転生者以外の監視対象に、監視員の規定に引っ掛かるような大きな異常行動は見られなかった。
 だが今回は、やや気になる事象が起こっている。

「(……要監視対象薬術の魔女が、覚醒者に、何かを渡していましたね)」

 もう要監視対象と覚醒者の方に、普段とは少し変わった行動が見られた。
 薬術の魔女が、他者の個人に向けて物品を譲渡した事だ。今まで他人には薬や菓子類と言ったしか渡さなかったというのに。

 アザレアが覚醒者に手渡した物は何か、金属製の装飾品らしきものだったような。

「……」

 小さく息を吐く。

「…………(ただ、物を手渡しただけでしょう)」

 それが一体何だと言うのか。思いの外、なぜか動揺している自身にフォラクスは驚く。

 会話の内容によれば、それは『突然現れた腕輪』らしい。その上、アザレアの家族も心当たりが無いらしいのだと彼女自身が相手に向けて話していた。

「……(充分に怪しい物ですね……)」

 それを欲しがる者もだが、丁度良かったからと言って差し出すアザレアもどうなのだろうか。思いはしたものの、当人達は気にしていない様子なので(且つ盗聴なので)口出しはしない。

「(……とは言いつつ、他者ひとの手に渡ってしまったらば、如何にも出来ませぬ」

薬術の魔女ならともかく、既に監視対象から外された覚醒者には干渉ができなかった。
 フォラクスは思考を切り替える様に、近くに置いていた水差しの水を口に含む。外気に触れ冷たくなった水を口内で温め、ゆっくりと飲みこむ。

「(……しかし。まだ、『薬術の魔女』の手元に有った時ならば回収も可能でしたのに)」

 そう思ったところで、フォラクスは僅かに顔をしかめる。思考が、切り替わらなかった。

「…………」

 考えても仕様が無い、とフォラクスは自身に言い聞かせる。
 だが。少し何かが引っかかるのか、気になってしまう。

「(いいえ。……何故、『動揺したのか』『引っ掛かったのか』。の理由は理解して居りますとも……)」

 今度はやや、わざとらしく大きめに息を吐いた。周囲には誰も居ない、個人の仕事部屋で良かったとフォラクスは思う。

「(態々わざわざ此方こちらに来て頂いたのだから、其れで良いでしょう)」

 薬作りの余り物だろうとは言え、恐らく手作りらしい菓子も貰ったのだから。

「(……、ですか)」

 その言葉は声が出ていたならばきっと、小さくも低く唸るような音だった。自覚できるほどに強い感情が有った。
 ああそうだ。きっと、よろしくなかったのだろう。
 腕輪は、魔力の放出器官のある手に影響を与える装飾品だ。ゆえに、腕輪には強い意味合いが生じる。
 例えば、犯罪者を無力化するだとか、相手を拘束するだとか。
 他にもも。

「…………」

 目元に手を充て、フォラクスは奥歯を噛み締める。と、必要以上に関心を持たずに、何も感じずに居ようとしていたが。

「(まさか、斯様な感情を抱くとは)」

 先程、式神の目を通してアザレアが物を手渡す『その瞬間』を見た。
 直後、時が止まったかと錯覚するほどの衝撃を受ける。
 驚愕を自覚したその刹那、苛立ちによく似た強い感情の湧き上がりを感じ、すぐさま式神との共有を切った。
 式神は使用主の魔力や感情の変化に敏感だからだ。……もう一つ、その瞬間をこれ以上見ていられなかった事も、理由だ。

「(如何どうやら、そねみ、ねたんでしまった様です……)」

 彼女が、自分以外の誰かに物を渡したというその事実に。
 ……あまり、認めたくはなかったのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...