薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

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二年目

75:愛の日。

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「……むん……」

 口をへの字にしたアザレアは、ぱたり、とベッドの上に寝転がった。

「…………まさか、」

 断られるとは思いもしなかった。

 フォラクスに

「勉強を見てもらいたいんだけど、きみのお家に遊びに行ってもいいかな?」

と聞いた途端に

『…………駄目、です』

と、返された。
 なんだか疲れているような声をしていたので、宮廷魔術師の仕事で疲れたのだろうか、と首を傾げるものの、『年越の儀』直後のフォラクスはそういった様子は見せていなかった。
 だから、理由がとても気になる。だが、聞いたところで答えてくれないであろう事は分かりきっていた。

「………………」

 なぜだか、すごくしょんぼりする。友人達から『駄目』だと言われた時以上に、衝撃を受けた。

「……んー……」

潤んだ視界をくしくしと、こする。

「そーだよね。あの人にだって、予定はある……もんね……?」

×

「……元気がないわね?」

 次の日の薬草学の授業中に、友人Aは机に突っ伏すアザレアの頬をつつきながら問いかける。

「……んー」

 うめきながら、アザレアは昨日の出来事を語った。

「ふぅん?」

 友人Aはアザレアの頬をつつくまま、興味深そうに目を細める。

「なんで、こんなにしょんぼりしちゃうんだろ」

気付かず、突っ伏したままアザレアは口を尖らせる。

「……あなた、婚約者の人の事好きなんじゃない?」

「…………ふぇ?」

 友人Aの言葉に、アザレアは顔を上げた。それを見ながら、友人Aは確認するように言う。

「だって、断られてすっごく悲しいんでしょ?」

「……そうなのかな」

 アザレアは友人Aの言葉の衝撃に、しばらくの間その悲しみを忘れた。

×

 色々な事があったものの、テストはいつも通りに一位を取った。
 今回は友人A、友人Bと共に勉強会を行い、

「教えるの、上手くなったね?」

と、勉強会の最中に友人Bに言われたのだ。

「まあ、全くの他人にはまだ理解されない説明だけどさ」

 そう言われて、アザレアはほんの少しだけむっとした。

「(……あの人のおかげなのかな)」

教えるのが上手い人と共にいたおかげで、その説明の仕方が移ったのかもしれないと訳もなく思う。

 テスト終了後、友人Aと友人Bと共に『愛の日』の菓子を手作りする事になった。
 友人A曰く、

「折角だから、気晴らしついでに作ってみない? 毒か薬でも入れて仕返ししちゃえばいいのよ」

という事で。

「……作ってみる」

 アザレアは頷く。
 そして、アザレアは原材料の木の実を友人Aと友人Bに見せたところ

「「普通はそこから作らないから!」」

と、怒られた。

「(……作ってもさー、受けとってもらえなかったらどうしようもなくない?)」

 と、呟きながら、AB、炒った木の実をすり潰す。

「…………」

やや頬を膨らませ、口を尖らせながら、無心で硬い木の実をすり鉢ですり潰す。
 そして甘味と油脂を入れ、滑らかになるまで無心でかき混ぜ、温度を調整しながら形成し。

「……できた!」

 しかめっ面で、ラッピングされた箱を掲げる。

×

「薬作りで余ったからあげる」

 と、『愛の日』当日にフォラクスの家までやって来たアザレアは、ラッピングされた袋を差し出す。

「……然様ですか」

 戸惑いつつ、フォラクスは玄関先でそれを受け取った。
 早朝、仕事へ行こうとしたフォラクスの家の前に、しかめっ面のアザレアが現れたのだ。
 鼻先を赤くし、やや鼻をすすっていた。

「帰る!」

フォラクスが何かを言う前に、きびすを返し、アザレアは帰ろうとする。

「……待ちなさい」「ぐえっ」

 刹那、アザレアの身体に常盤色の紐のようなものが巻き付き、彼女の動きを阻んだ。

「なにさ」

「…………寒かったでしょう。……温まって行きなさい」

 目を逸らしながら、フォラクスは提案をした。

「……午前休の連絡を入れておきます。その間に貴女は食堂でしばしお待ちを」

 それから程なくして、待たされた食堂に彼は現れた。

「休みを取りました。……何故、態々わざわざ此方こちらまでいらしたのか伺っても?」

「……なんとなく」

 ずび、と鼻をすすり、アザレアは答える。

「…………」

 それならば仕方が無いか、と思いかけたそれをフォラクスは思い止まる。

「……大分、ほだされましたか……」

「なにかいった?」

「いいえ。何も」

 フォラクスは溜息を吐いた。

「それで。食べないの?」

 フォラクスが差し出した温かい紅茶をちびちびと飲みながら、アザレアは首を傾げる。

「……では、折角なので頂きましょうか」

 丁寧に包装を開けた。

「…………れは、」

外の店頭では見た事のない包装に同じく見た事のない入れ物、そして丸い形状の、菓子だった。

「(そう言えば、『薬作りで余った』と……)」

 確かに『愛の日』の菓子に使われる木の実は、身体を温める薬や気付薬などにも使用される。

「……(……しかし、)」

 口の中でほろりと崩れるその食感は本当に薬作りで使うのだろうか。

「(まあ、世の中は意外と広いですからね)」

思いながら、フォラクスは口の中で甘く溶けたそれを嚥下えんげした。

「……」

 何やら難しい顔をしているフォラクスの様子を見て、アザレアは口を尖らせる。

「硬い木の実とかが絡まったら美味しいんだよ」

「まあ、そうでしょうが」

「美味しい?」

「えぇ。大変美味です。特に、口溶けと甘さが」

「えへへー。そっか!」

 そこでようやく、アザレアは笑顔になった。
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