薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

文字の大きさ
上 下
74 / 200
二年目

74:休み明け2。

しおりを挟む
「……ふふー、」

 一番に挨拶しちゃった、と実家の自室に戻ったアザレアは熱くなる頬を押さえた。理由はわからないけれど、なんとなく嬉しく感じている。

 木の札を使ってそっとフォラクスの屋敷へ入った際、誰も居なかった。それの事はそれなりに予想できていが、冷え切った屋敷に酷く寂しさを感じたのだ。
 だから、例えアザレア自身に会いに来た訳でなくとも、彼が戻ってくれた事が嬉しかった。

 急に彼が帰って来た時、思わず隠れて変な誤魔化し方をしてしまった。だが彼は怒らずにアザレアとの会話を『良い気分転換』だと言った。

「(それは『いい事』……なのかな?)」

 首を傾げ、考えてみる。彼の価値観がいまいち分からないので断言は難しい。

「(でも)」

 儀式後の宴会よりずっと良いと言ってくれたのなら、きっと『いい事』なのだろう。そう思えば、嬉しくなる気持ちが湧き上がった。

×

 今回の冬季休暇でもらった『聖人の祝福』は、様々な薬草の活用法の書かれた分厚い本と

「……古い腕輪?」

やや黒ずんだ、金属製の腕輪だった。
 やや太く、何やら文字のような紋様のようなものが彫られている。
 それはアザレアにとって少し大きく、家族に聞いても「知らない」と言われたので、よく分からないものだった。
 よく分からないのは気になるものの、何故か腕輪の存在自体は気にならない。なので、とりあえず魔術アカデミーに持ち帰る事にした。魔術アカデミーの教員や婚約者のフォラクスに聞けば、何かしらの答えが見つかるだろうと考えたからだ。

 そして休み明けが近付き、アザレアは列車で魔術アカデミーまで戻る事になる。

「いつか、心配性な旦那さんもこちらに連れてきてくださいね」とか「待ってる」とか言われ

「まだ旦那さんじゃないよ」

と、きょとんとした顔で返した。今は書類上での婚約者なだけであるし、お試し期間を行なっても結婚するかなんて分からないからだ。
 だが「別れちゃうの?」と訊かれれば「え?」と首を傾げてしまう。

「(……そうだった。結婚しないなら別れるのか)」

それは何故だか思い至らなかった事で、実際にそうなるなら惜しい気持ちになる。

「そこは分からないかな」

 だから、無難に答えた。
 自分が望んでも、彼が断ってしまえば身分の関係上その意見は通らないからだ。
 でも、できるのならば……。

 列車で魔術アカデミーに戻る旅の途中で、ふと札で列車を使わなくともフォラクスの家経由で早く魔術アカデミーに帰れることに気付く。だが、

「お金はかかるけど、列車で帰るのが楽しいんだよねー」

と、列車で帰ることを決めていた。
 それに、年明けに一度フォラクスの元に行った後から、なぜか木の札が発動しなくなっていたのだ。

 いつか木の札について聞いてみようと思っていたが、なんとなく連絡を入れることができなかった。

×

「おかえりー!」
「あら。あなた、なんだか凄く嬉しそうね」

 魔術アカデミーの最寄り駅に着き、例年通りに友人Bと友人Aが出迎えてくれる。

「ただいまー。お迎えに来てくれてありがと! 今年もよろしくねー!」

「こちらこそよろしく!」
「今年も、よろしくお願いするわ」

 お互いに挨拶を交わし、みんなで街を巡りながら魔術アカデミーへと戻った。

 そして、アザレアが魔術アカデミーの寮の自室に戻った時。

「……おん?」

 いつのまにか、枕元にラッピングされた袋とフォラクスからもらったものと瓜二つな、木の札が綺麗に置かれていた。

「(……ま、まさか。……わたしが居ない時に不法侵入したの……)」

 と、戸惑いはしたものの

「わぁ、綺麗な手袋だー!」

と、ラッピングされた袋に入っていた、光沢を持つ柔らかい生地製の手袋に、その戸惑いを忘れた。
 表面が細かく毛羽立ち、手首までを覆う程度の長さのものだ。

「……(なんでプレゼントくれたんだろ?)」

 思いながらも、アザレアはそっと手袋をはめてみる。

「おー、ぴったりだ」

 手を開いたり閉じたり、ひねってみたり物を持ってみたり。色々と動かしてみるが、無駄に生地が余らない。

「逆にすごい。……でも、どうやってわたしの手の大きさを知ったのかな」

 首を傾げるアザレアだった。

 枕元にあった木の札と、アザレアが今まで持っていた木の札を横に並べてみる。

「ちょっと、デザイン変わった?」

 少し文字が増えたか変形しているかの違いしかない。

 そして、

「うわ?!」

しばらく見ているうちに古い札がじわりと燃え始めた。それに慌てて燃える木の札を手に取るが、熱さを感じなかった。札しか燃えていないようだ。

「おんなじ物は二つもいらない、みたいなやつかな」

 燃えて行く古い札を見て、アザレアは唇をやや尖らせた。

×

 休み明けのテストはどうにか自力で頑張ったものの、やはりフォラクスに見てもらった時ほどの安心感を得られない。

「やっぱり、みてもらった方が安心できるなぁ……」

と、返却された答案を眺め呟いた。

「……むん」

 アザレアは連絡機に視線を向ける。

 今回は、連絡を入れても大丈夫なような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...