薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

文字の大きさ
上 下
58 / 200
二年目

58:学芸祭1日目。

しおりを挟む
「今回はー、猫(燕尾服ver.)だよー」

 にゃん、とポーズを決め、アザレアはアピールをする。その拍子に髪と同色の尻尾がふわりと揺れた。

「うわでた」
「また猫なのね」

それを見るなり、友人Bと友人Aは口々に感想を述べる。
 その2は学生会の仕事が忙しいという理由で、今年は学芸祭にあまり参加できないらしい。
 そのむねを事前にアザレアと友人達に伝えていたので、その2は今、この場所には居ない。話によると、『少しは参加できそうだから、虚霊祭の後半頃には合流できそう』とのことだった。

「うん。だって猫可愛いし」

 友人Aに撫でられながら、アザレアは答える。
 頭を撫でられ、それに嬉しそうに目を細める様子はなんとなく猫のような雰囲気がする、と友人Aと友人Bは内心で思っただろう。

「ところでなんで燕尾服?」

友人Bが不思議そうに魔女に問いかけた。ちなみに友人Aと友人Bは、今年は聖職者と魔術師のような格好のツノの生えたモンスターだった。今年もなんとなくお揃いのようだ。

「んー、去年が給仕服だったから」

 友人Bの質問に、アザレアは口を尖らせながら答えた。他にも何か理由がありそうだったが、答える予定はないようだ。

「そうなんだ?」
「で、婚約者の人はどうだったの?」

やっぱりよくわからないな、と友人Bが首をすくめ、友人Aはアザレアに去年と同様に彼女の婚約者が学芸祭に来訪するのかを問いかける。

「なんだか、今年は忙しいからあんまり来れないんだって言ってた」

 学芸祭が始まる少し前に、アザレアは学芸祭に来るのかとフォラクスへ連絡を入れたがあまり良い返事は返ってこなかった。

「多分、今日と明日は来ないんじゃないかな。『最終日くらいはどうにか来れるようにする』って言ってたし」

「へぇ?」
「去年はよくまあ三日間も来てくれたのね」

「……たしかに、そうなんだよね?」

 なんで来てくれたのかな、とアザレアは不思議そうに首を傾げた。

×

 今年は、去年のような火急的用事などは無かったので、アザレアは自身の制作した薬品や洗剤などを展示し、それらを販売する。

「去年は……何があったっけ?」

 と、思い出してみる。何故だか今年は去年のことを思い出してばかりだな、と少し思いながら。

 去年は何か、フォラクスが誰かと決闘をしていたような……と、アザレアは首を傾げる。

「(……なんで、決闘をしたんだっけ)」

内容は忘れたが、彼が実にあっさりと誰かに勝ったことだけは覚えている。

「(まあ、なんでもいっか)」

 なんだか思い出さなくてもいい気がしてきた。

「はーい。ご購入、ありがとうございまーす!」

 と、購入してもらった薬品を袋に詰めて、アザレアは購入者へと手渡す。
 去年よりも、わずかながらに増えたらしいリピーターに、少し嬉しく思いつつ、アザレアは店に現れた人になるべく時間をかけて対応した。
 それは、自身の制作した薬を買ってもらいたい、という考えも入っているが、一番の理由は、自身が作ったもの達に使われる薬草の成分や効能などを知って欲しかった、というものだった。

「(去年は、……宣伝も手伝ってくれたんだっけ……)」

 去年はせっかく来てくれた彼の背中に勝手に宣伝のポスターを貼った。
 それは悪かったとは思ったものの、彼はわざわざそれを外さずにそのままで一緒に学芸祭を回ってくれ、その次の日や最終日には広告で集まった客の対応を手伝ってくれた。
 なので、今日訪れた客の中には

「去年の大きな猫さんいないの?」

とアザレアへ問いかける者も居た。その者に対しては「今年は忙しいみたいで……」と申し訳なく告げたが、たった2、3日手伝っただけなのに(彼の存在の)リピーターを獲得するとはさすがだなと、アザレアはフォラクスの対応力の高さに感心した。子供や若い女の人が多かったが、そもそもアザレアの狙う客層が子供や若い女性なので問題はない。

 例年のように、校舎内を警備しながら学芸祭を回る友人B(と、友人A)、その3が購入してくれたらしい菓子や食品、飲料の差し入れを時折受け取り、アザレアは無事に一日目の分を完売する事ができたのだった。

×

 無事に一日目が終わり、アザレアは明日補充するための薬品や洗剤などの準備を進めながら、自室でぽつりと呟いた。

「……あの人が居たら、もうちょっと楽しかったのかな」

なんとなく、去年よりもつまらなかったような、そんな気がしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...