薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの

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一年目

45:意外とアウトドアもイケるクチ。

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「どこにいくの? ___って場所が次に良いやつ採れるけど」

 わくわくしつつ、アザレアは手帳を眺めていたフォラクスに問いかけると

「……では、其処そこへ行きましょうか」

そう、フォラクスは返した。

「え、良いの? というか行けるの?」

 アザレアが提案した場所はやや険しい山だ。

「えぇ。わたくしも、じゅ……儀式で必要な材料を集めに入った事が有ります故」

「へぇ」

『じゅ』ってなに? とは思ったものの、良い薬草が採れる場所に行けるという喜びに、アザレアはその疑問をすぐに忘れた。

×

 フォラクスが歩き出したので、やや遅れてそのあとをアザレアはついて歩く。少しだけ歩調を合わせてくれているのか、アザレアはフォラクスから離れずに付いて行ける。

「どうやっていくの?」

「今回はやや遠方ですので、魔術式を利用致しましょうかね」

そう言ってフォラクスが立ち止まった場所は、人目のつかない奥まった路地だ。

「きみってば暗くて狭い場所好きだよね」

 周囲を見回しアザレアが呟くと、

「……そう見えますか」

柳眉をひそめ、口元に手をったフォラクスは目を細めた。

「外面のきみなら、そうは見えないかも。ただ、きみは魔術アカデミーでは人に囲まれてるくせに、わたしと一緒の時は大体、人がいない場所や狭い場所にいる」

「然様か」

 聞き流すような返事をしながらしゃがみ込み、フォラクスは懐から筆を出す。そして、筆をインクを飛ばすように素早く振るい、地面にを描く。
 大きさはアザレアが両手を広げて立てるくらいの大きさだ。

「うわ、すごい!」

 とても綺麗な円に、アザレアは思わず歓声をあげる。

「……普段から描いておりますからね」

 そこへ取り出した札を5枚、等間隔に並べてフォラクスは中央に文字を書く。

「……さて。これで術式は完成致しました」

 立ち上がり、フォラクスはその術式を見下ろす。つられてアザレアも術式を見下ろした。

れを踏めば即座に飛べるのですが……」

「うん」

「一度しか使えないのですよ」

 困りましたね、と全く困っていないような声でフォラクスは呟く。

「なんで?」

「悪用防止の為です」

「へー」

「二人同時ならば、一度で運べますが……。如何どうします?」

 フォラクスはアザレアに視線を向ける。

「じゃあせっかくだし、一緒に行こうよ」

「宜しいので?」

「うん。あと、帰りも送ってもらいたいし」

成程なるほど。……では、お手を。私の手首に御捕まり下され」

「う、うん」

 フォラクスは腕を差し出し、アザレアは恐る恐る手首を掴む。
 手を少し重ね合わせた時もそうだったが、自身と全く別の腕に、なんだか頬が熱くなる。

「……如何されました」

「な、なんでもない。掴んだあとはどうしたらいいの?」

「円の内側を踏みますが……く、同時に踏んで頂きたいのです」

「わかった」

 ゆっくりと、そして同時に円の内側を踏んだ二人は魔術式の示した場所へ飛ばされた。

×

 着いた山は、アザレアの記憶通りに鬱蒼うっそうとしていた。薄暗く、土や苔類のにおいが強い。

「ついでに他の薬草採って良い?」

 きょろきょろと楽しそうに周囲を見回しながらアザレアが訊くと

「お好きになさって下さいまし。其れは私の管轄外の事で御座いますので」

そう、フォラクスは短く答えた。

「じゃ、遠慮なく!」

 そうして、アザレアは薬草採りを開始する。

×

「よいしょー」

 アザレアは自然の摂理を壊さないように、バランス良く草達を引き抜いていく。

「これは大丈夫、これはダメ、」

時折小さく呟きながら、アザレアは薬草をいくつかの収穫袋に詰めた。
 そして、

「あ、袋がいっぱいになっちゃった」

と、アザレアが呟くや否や

「どうぞ、新しい袋です」

どこからともなくフォラクスが袋を差し出し

「うん、ありがと」

それを受け取って滑らかに薬草採りを再開する。

「って、すごく滑らかに作業できてたけど、きみ一体どこから袋出してるの。それと引き抜いた草入りの袋どこよ?」

 はっと我に返ったアザレアはフォラクスに問うた。

「袋は此処から、薬草は貴女の寮の部屋で御座いますよ」

 静かに、フォラクスは大量の未使用の袋の入った薄い箱を懐から少し引き出し、ちら、と見せてくれた。

「それならいいや」

理由が分かればどうでも良いらしい。

×

「お、もしかしてこれは……」

 小さく声を上げたアザレアは、そっと見つめながら草をつかみ、根があまり千切れないよう優しくそれを引き抜く。

「うわぁ、やっぱり。すっごい珍しー」

 と、目を輝かせながらその薬草を眺めたり光に透かしたりし、

「おーーー」

上に持ち上げ見上げた姿勢をそのままに、ころん、と薬草を見たままアザレアはひっくり返る。

「ふー、疲れた」

そして、そのまま四肢を投げ出した。見上げる空がすごく青い。

「……何をなさっているのですか」

 空が高いな、とぼんやりしていると視界にフォラクスが入った。

「や、だって珍しい薬草見つけたんだもん」

 顔の距離が遠いな、と思いながらフォラクスを見ると、彼はそっと片膝を突いてしゃがみ、アザレアの頬についた土を拭った。

「きれいでしょー」

 ほら、とアザレアは土が付いたままの、抜きたての薬草をフォラクスに見せる。

「然様で。……其れでも、外で寝転ぶ等、感心は致しませぬ」

「んー」

 フォラクスは呆れながらそう返し、アザレアの方へ手を差し出した。起こすのを手伝ってくれるらしい。

×

 随分と日が高くなり、また疲労度が随分と溜まったので、薬草採りを終えることにした。

「沢山の薬草を集められたようですね」

「うん! ありがと!」

 アザレアが手渡した最後の袋を、フォラクスは寮の部屋に送る。

「……まあ。貴女の御部屋が如何なっているかは知りませぬが」

「え、なんでそんな不穏なこというの……」

「貴女が私が予想していた以上に大量の草を刈ったからで御座いますよ」

 すん、といつも通りの澄ました顔でフォラクスは答える。

「貴女が様々な薬草だけで無く、山菜も採り始めたので自業自得でしょう」

「きみが好きにしていいって言ったじゃん」

アザレアは拗ねた様子で口を少し尖らせるが、フォラクスは気にする様子もない。

「管轄外なのでお好きにどうぞ、とは云いましたが」

「ぐぬぬ……」

「袋には貴女の部屋に送る前に密閉と状態保存のまじないを掛けておきましたので、日持ちしますし、中身が散乱している事はないでしょう」

「わぁ、便利ー」
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