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一年目
20:よくある伝説の木の下で〜ってやつ。
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そして。アザレアは切実に思ったのだった。
『できれば人除けの御守りを、一旦帰る前に渡してほしかった』と。
×
フォラクスが昼食の頃に
「では、準備をして参りますので」
と、言って姿を消した。
そのあと店の片付けを終えたアザレアは、学校を出る前に薬品作りに使えそうな木の落葉を集めようと中庭に出たところで、
「おい、……今、少しいいか?」
と、その1と遭遇したのだ。
そして。その場で告白をされた。
×
「え、無理」
アザレアは即答する。約束があるから無理、というような軽さで、しかし一切の希望を持たせる隙もない厳しさで。
「……それは、俺が決闘で負けたからか」
顔を苦しそうに歪め、その1は口を開いた。弱いから、恰好が悪かったから断ったのだと思われているようだ。
「いや。例え、あの決闘で勝ったとしても、わたしは同じ答えを出したよ」
アザレアはゆっくりと首を振る。
「何故だ?」
一瞬、意外そうな表情をしたその1は、アザレアが告白を断った本当の理由について問い掛けた。
「心あたりないの、もしかして」
首を傾げ、アザレアは訊き返す。
「……心あたり?」
その1は険しい顔でかなり真剣に考えているようだが、思い浮かんでいないようだ。
「…………(自覚ないのか、この人)」
溜息を小さく吐き、アザレアは思う。
「いやいや。わたしを勝手に商品扱いした人とか無理だよ」
こんなことに時間をかけてもしょうがないと、アザレアは素直に答えた。
「商品?」
ぼかさずにしっかりとアザレアは言うが、それでもその1はあまりピンときていない様子だった。
「決闘の商品。『負けたら近づくな』のところとか」
具体的な例を挙げると、
「……俺は、別にそんなつもりじゃ」
酷く傷付いた様子で、その1は一歩、後退る。
「……そうだろうね。でも、わたしはそれが嫌だった」
固まるその1に、畳みかけるようにアザレアは言葉を続ける。
「わたしを勝手に『可哀想』だと判断して、勝手に守ったつもりになっているのも嫌だよ」
助けを求めていないのに勝手に助けられるなんて特に、自己満足の代表のような行為だ。
「一緒になるんなら、一方的に決めつけるんじゃなくって、わたしの意見を尊重してくれる人がいいな」
そう答えたときに、ふと婚約者である彼のことが浮かんだ。
「例えば、わたしが魔物だらけで危険な場所に『行きたい』って言ったら、きみはなんていう?」
彼は、あまり行くことには肯定的ではなかったが、止めずに守りのまじないをかけてくれた。
「……それは、」
考える様子のその1に、
「『その場所は危険だ』『危ないから行くな』『行くんなら自分も連れて行け』っていうでしょ」
そう聞くと、
「……普通は、そうだろう? 怪我などして欲しくない」
その1は当然だろうと頷く。
「そういう、『自分が心配してる』って体でわたしを縛ろうとするのがいや」
アザレアはその1の方を見る。その1は酷く驚いた様子で目を見開き、固まっていた。
「あと、わたしには婚約者もいるし」
視線を横にずらし、アザレアは言葉を続けた。
「え……」
その1は目を見開き、
「……そういうのは、貴族だけなんじゃ……ないのか?」
と、呟く。
「『相性結婚』ってしってる?」
その1は、アザレアの言葉に少し考えた後、
「少し、だけなら」
と答えた。
「……『少し』?」
この世界、そしてこの国の出身者ならば、普通は知っているはずの話なのに、とアザレアは眉をひそめる。
「政府が作った制度なんだけどさ。それで、わたしには、すでに相手がいるの」
通知は出ていたし、思い切り廊下にも張り出されていたんだけれど、と内心で思いながらアザレアはその1に言う。
「……それで断ったのか?」
何かに気付いたかのようにはっとした顔でその1が言うが、
「そうでもない。結局、わたしはきみの人間性が無理だってこと」
と、アザレアは答える。
「それにね。きみのこと、全く興味持てそうにないんだ」
言いながら、アザレアはその1の顔を見る。……やっぱり、全く興味の持てない顔だった。少ししたら髪型と髪色以外は全て忘れているだろう。
「……興味? お、俺は……運命、だと」
呆然としていたその1の顔が、段々と血の気が引いたように青白くなって行く。まるで、『自分は、とんでもない勘違いをしてしまったのではないか』と言いた気だ。
「『運命』? 聞きたくはないけど、根拠は?」
腕を組み、アザレアは目を細めた。
「触れた瞬間に、……触れたところから熱くなって、鼓動が速くなった」
腕を掴まれたあのときのやつか、と、アザレアは思い至る。
「わたしは何も感じなかったけど」
きょとんとした顔にその1は更に衝撃を食らったようで胸を押さえ、膝を突いた。
「そもそも、きみの名前も知らないし」
そして止めを刺す。彼ら転入生たちが転入してから大分経つが、アザレアは誰一人の名前も覚えていないのだ。どちらかと言えば、顔に興味を持つのすら珍しい方である。
「……っ、俺の、名「はなから自己紹介を聞くつもりもないよ。聞いたところで忘れるし。用が済んだのならさっさと行って」
名乗ろうとしたその1に、アザレアはひらひらと手を振る。
「……。お前、の……『婚約者』って、どんなやつなんだ」
蒼白な顔のまま、その1が問うと
「きみと違って、結構すてきなひと」
アザレアはにっと笑って、そう答えた。
『できれば人除けの御守りを、一旦帰る前に渡してほしかった』と。
×
フォラクスが昼食の頃に
「では、準備をして参りますので」
と、言って姿を消した。
そのあと店の片付けを終えたアザレアは、学校を出る前に薬品作りに使えそうな木の落葉を集めようと中庭に出たところで、
「おい、……今、少しいいか?」
と、その1と遭遇したのだ。
そして。その場で告白をされた。
×
「え、無理」
アザレアは即答する。約束があるから無理、というような軽さで、しかし一切の希望を持たせる隙もない厳しさで。
「……それは、俺が決闘で負けたからか」
顔を苦しそうに歪め、その1は口を開いた。弱いから、恰好が悪かったから断ったのだと思われているようだ。
「いや。例え、あの決闘で勝ったとしても、わたしは同じ答えを出したよ」
アザレアはゆっくりと首を振る。
「何故だ?」
一瞬、意外そうな表情をしたその1は、アザレアが告白を断った本当の理由について問い掛けた。
「心あたりないの、もしかして」
首を傾げ、アザレアは訊き返す。
「……心あたり?」
その1は険しい顔でかなり真剣に考えているようだが、思い浮かんでいないようだ。
「…………(自覚ないのか、この人)」
溜息を小さく吐き、アザレアは思う。
「いやいや。わたしを勝手に商品扱いした人とか無理だよ」
こんなことに時間をかけてもしょうがないと、アザレアは素直に答えた。
「商品?」
ぼかさずにしっかりとアザレアは言うが、それでもその1はあまりピンときていない様子だった。
「決闘の商品。『負けたら近づくな』のところとか」
具体的な例を挙げると、
「……俺は、別にそんなつもりじゃ」
酷く傷付いた様子で、その1は一歩、後退る。
「……そうだろうね。でも、わたしはそれが嫌だった」
固まるその1に、畳みかけるようにアザレアは言葉を続ける。
「わたしを勝手に『可哀想』だと判断して、勝手に守ったつもりになっているのも嫌だよ」
助けを求めていないのに勝手に助けられるなんて特に、自己満足の代表のような行為だ。
「一緒になるんなら、一方的に決めつけるんじゃなくって、わたしの意見を尊重してくれる人がいいな」
そう答えたときに、ふと婚約者である彼のことが浮かんだ。
「例えば、わたしが魔物だらけで危険な場所に『行きたい』って言ったら、きみはなんていう?」
彼は、あまり行くことには肯定的ではなかったが、止めずに守りのまじないをかけてくれた。
「……それは、」
考える様子のその1に、
「『その場所は危険だ』『危ないから行くな』『行くんなら自分も連れて行け』っていうでしょ」
そう聞くと、
「……普通は、そうだろう? 怪我などして欲しくない」
その1は当然だろうと頷く。
「そういう、『自分が心配してる』って体でわたしを縛ろうとするのがいや」
アザレアはその1の方を見る。その1は酷く驚いた様子で目を見開き、固まっていた。
「あと、わたしには婚約者もいるし」
視線を横にずらし、アザレアは言葉を続けた。
「え……」
その1は目を見開き、
「……そういうのは、貴族だけなんじゃ……ないのか?」
と、呟く。
「『相性結婚』ってしってる?」
その1は、アザレアの言葉に少し考えた後、
「少し、だけなら」
と答えた。
「……『少し』?」
この世界、そしてこの国の出身者ならば、普通は知っているはずの話なのに、とアザレアは眉をひそめる。
「政府が作った制度なんだけどさ。それで、わたしには、すでに相手がいるの」
通知は出ていたし、思い切り廊下にも張り出されていたんだけれど、と内心で思いながらアザレアはその1に言う。
「……それで断ったのか?」
何かに気付いたかのようにはっとした顔でその1が言うが、
「そうでもない。結局、わたしはきみの人間性が無理だってこと」
と、アザレアは答える。
「それにね。きみのこと、全く興味持てそうにないんだ」
言いながら、アザレアはその1の顔を見る。……やっぱり、全く興味の持てない顔だった。少ししたら髪型と髪色以外は全て忘れているだろう。
「……興味? お、俺は……運命、だと」
呆然としていたその1の顔が、段々と血の気が引いたように青白くなって行く。まるで、『自分は、とんでもない勘違いをしてしまったのではないか』と言いた気だ。
「『運命』? 聞きたくはないけど、根拠は?」
腕を組み、アザレアは目を細めた。
「触れた瞬間に、……触れたところから熱くなって、鼓動が速くなった」
腕を掴まれたあのときのやつか、と、アザレアは思い至る。
「わたしは何も感じなかったけど」
きょとんとした顔にその1は更に衝撃を食らったようで胸を押さえ、膝を突いた。
「そもそも、きみの名前も知らないし」
そして止めを刺す。彼ら転入生たちが転入してから大分経つが、アザレアは誰一人の名前も覚えていないのだ。どちらかと言えば、顔に興味を持つのすら珍しい方である。
「……っ、俺の、名「はなから自己紹介を聞くつもりもないよ。聞いたところで忘れるし。用が済んだのならさっさと行って」
名乗ろうとしたその1に、アザレアはひらひらと手を振る。
「……。お前、の……『婚約者』って、どんなやつなんだ」
蒼白な顔のまま、その1が問うと
「きみと違って、結構すてきなひと」
アザレアはにっと笑って、そう答えた。
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