18 / 200
一年目
18:補助
しおりを挟む
〈学芸祭1日目の終了の時刻です。忘れ物に気を付けましょう〉
音楽と共にそのような校内放送が流れ、一般公開の終了時刻となった。
「今日は色々あったねー」
言いながらアザレアは伸びをする。手元には沢山の景品や購入した商品などの入った袋を提げていた。
「……そうですね」
抑揚の少ない声でフォラクスは相槌を打つ。とは言っても外で決闘を行い、飾られた校舎内を巡っただけだ。
しかし、こんなにも長時間、二人が共に居たのは初めてだった。
「明日もおいでよ! あ、暇だったらでいいんだけど」
と、アザレアは提案すると、
「……ふむ。貴女の店の様子を見られなかったので、折角なので行きましょう」
そう、フォラクスは返した。
どうせ監視の仕事の関係上、明日も明後日も学芸祭へ行く羽目になるのならば誘われた方が怪しまれる事も無いだろうと判断したからだ。
「(『興味が有る』等と、其の様な理由では決して、)」
×
卒業以来、久し振りに戻った魔術アカデミーはあまり校舎自体には変化がなく、そして授業形態や指導内容は随分と変化していた。
たったの6年で意外と変わるものだと、フォラクスは内心で関心する。
アカデミーを去った者や残留したままの者、新しく入った者。教師の姿を見るだけでも、時の流れを感じた。
それが、フォラクスが視察に訪問したばかりの時の印象だった。
「……(……随分と、庶民的に成ったものだ)」
学芸祭の様子で抱いた感想は、先ずはそれだった。フォラクスが魔術アカデミーに在学していた頃は、学芸祭はもう少し儀式の意味合いが強いものだった、と思う。
「……(然し。此の変わり様に、『昔はこうだった』『正しくはこうだった』だのと口を出すのは野暮と言うもの)」
言う気も更々ない。
そして、この学芸祭では身分の差を感じる事があまりなかった。
貴族の学生達が庶民の学生との作った物を食べ、場合によっては貴族の学生が庶民に食事を提供する。
貴族と庶民が、同じ目線になり、同じものを食べている。
「(……実に珍しいと、思ったものだが)」
それだけ、庶民と貴族の距離が近くなったのだろうか。……だが、
「(……果たして、其れは『良き事』と、言えるのでしょうか)」
自身が貴族だから庶民と距離を近付くのが嫌だ、と言う訳では無い。貴族であることに誇りを持つ者が、貴族を毛嫌いしている者が、どう思うか。
「(……まあ。私にどうこう出来る話でも有るまい)」
小さく、息を吐いた。
「……」
婚約者のアザレア。彼女はあまり、身分に引け目を感じていなさそうだ。
その事に、フォラクス自身が安堵している。
×
そして、学芸祭の2日目を迎えた。
目が醒めるとフォラクスは身支度を素早く整え、日課の卜占を行う。
1日の主な運命を予め知っておくことで、最悪の事態を回避するためだ。また、毎日決まった時刻に同様の方法で同様に行い続けることで、術の効果を高める役割をも果たす。
「……ふむ」
ついでにアザレアについても占うと、悪い事は起こらないようだが『商売繁盛』と出た。
「……猫の手を貸す必要が有りましょうか」
音楽と共にそのような校内放送が流れ、一般公開の終了時刻となった。
「今日は色々あったねー」
言いながらアザレアは伸びをする。手元には沢山の景品や購入した商品などの入った袋を提げていた。
「……そうですね」
抑揚の少ない声でフォラクスは相槌を打つ。とは言っても外で決闘を行い、飾られた校舎内を巡っただけだ。
しかし、こんなにも長時間、二人が共に居たのは初めてだった。
「明日もおいでよ! あ、暇だったらでいいんだけど」
と、アザレアは提案すると、
「……ふむ。貴女の店の様子を見られなかったので、折角なので行きましょう」
そう、フォラクスは返した。
どうせ監視の仕事の関係上、明日も明後日も学芸祭へ行く羽目になるのならば誘われた方が怪しまれる事も無いだろうと判断したからだ。
「(『興味が有る』等と、其の様な理由では決して、)」
×
卒業以来、久し振りに戻った魔術アカデミーはあまり校舎自体には変化がなく、そして授業形態や指導内容は随分と変化していた。
たったの6年で意外と変わるものだと、フォラクスは内心で関心する。
アカデミーを去った者や残留したままの者、新しく入った者。教師の姿を見るだけでも、時の流れを感じた。
それが、フォラクスが視察に訪問したばかりの時の印象だった。
「……(……随分と、庶民的に成ったものだ)」
学芸祭の様子で抱いた感想は、先ずはそれだった。フォラクスが魔術アカデミーに在学していた頃は、学芸祭はもう少し儀式の意味合いが強いものだった、と思う。
「……(然し。此の変わり様に、『昔はこうだった』『正しくはこうだった』だのと口を出すのは野暮と言うもの)」
言う気も更々ない。
そして、この学芸祭では身分の差を感じる事があまりなかった。
貴族の学生達が庶民の学生との作った物を食べ、場合によっては貴族の学生が庶民に食事を提供する。
貴族と庶民が、同じ目線になり、同じものを食べている。
「(……実に珍しいと、思ったものだが)」
それだけ、庶民と貴族の距離が近くなったのだろうか。……だが、
「(……果たして、其れは『良き事』と、言えるのでしょうか)」
自身が貴族だから庶民と距離を近付くのが嫌だ、と言う訳では無い。貴族であることに誇りを持つ者が、貴族を毛嫌いしている者が、どう思うか。
「(……まあ。私にどうこう出来る話でも有るまい)」
小さく、息を吐いた。
「……」
婚約者のアザレア。彼女はあまり、身分に引け目を感じていなさそうだ。
その事に、フォラクス自身が安堵している。
×
そして、学芸祭の2日目を迎えた。
目が醒めるとフォラクスは身支度を素早く整え、日課の卜占を行う。
1日の主な運命を予め知っておくことで、最悪の事態を回避するためだ。また、毎日決まった時刻に同様の方法で同様に行い続けることで、術の効果を高める役割をも果たす。
「……ふむ」
ついでにアザレアについても占うと、悪い事は起こらないようだが『商売繁盛』と出た。
「……猫の手を貸す必要が有りましょうか」
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる