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一年目
12:視察
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魔術師の服が分厚いのも、常に手袋の装着を義務付けられているのも、全ては魔力を周囲に撒き散らさないためのものだ。
非常に魔力の保有量が多い者は必然的に体内の魔力が濃くなり、そういう者は更に体液にまで魔力が滲み出る。そのため、ものに触れれば一般人と違い魔力の跡が残る。
また、高等な魔術師は感染魔術などを利用して魔力を介し持ち主に干渉出来るので、魔術師の厚い衣装はそれを防ぐ役割も果たす。
現在、フォラクスが視察のために来訪している魔術アカデミーの制服も、それなりに魔力を吸着し、あるいは防除し、外界へ魔力を溢れさせず、外部からも干渉させないための構造をしている。
そして、一般的には魔術や魔力の放出を行う器官を掌に有するために、魔術師でなくとも魔力を多く保有する者は手袋の着用を義務付けられている。
だから、魔力を持つ者の通う魔術アカデミーの制服ではどのコースでも手袋は付属しており、アカデミー生は必ずと言って良いほどに、手袋を着用する。
基本的に初等部の辺りから手袋を着用させる学校が多いからか、着用に難色を示す者はほとんど存在しない。
むしろ、この世の中では着用しない事に難色を示す者の方が圧倒的に多い。
だが、焦茶色の頭髪の転入生男児と胡桃色の頭髪の転入生女児は、手袋を長期間着用する習慣が無かったのか、手袋を着用していない時間がある。
外しているのを他者から指摘され、仕方なく付け直す姿をフォラクスは幾度か目撃していた。
曰く、『細かい作業が出来ない』、『不自由な感じがする』とのこと。
転入生が皆そうかといえばそうでないらしく、燻んだ金の頭髪の転入生男児は難色を示す事無く手袋を着用している。
「(……此の違いとは)」
頭が痛くなった。目元に手を遣り、フォラクスは深く息を吐く。
特に、焦茶の頭髪の学生は『転生者』のはずだが、この世界に馴染めていないように見えた。
観察の結果から、恐らく前世の記憶に囚われているのだとフォラクスは判断した。
『転移者』の胡桃色の頭髪の学生の場合は、転移前の世界と文化の違いだろうと判断する。追々、この世界に馴染めば良いだけの話だ。
『転生者』は何か思い上がり、いや、勘違いのようなものをしているらしく、身分の低い者や自身の友人を優遇し身分の高い者を敵視しがちな傾向にある。
「(……彼の事は、もう少し強く見ておくべきでしたか)」
上からの資料によると、転生者の視察は随分昔からしていたらしい。フォラクスはそれを今回の在学期間だけ引き継いだだけだ。
「……(いや、如何見ていても、あの思考ならば悪化するばかりか)」
現状では扱いは比較的易く、危険性は低く、攻撃性は高いだけの視るだけの対象である。
「(……自ら『転生者』『勇者』『心眼持ち』等と洩らしておりますが)」
基本的には誰も信じやしないだろうし、あの実直な性格ならば自ら最悪に傾くこともそうないだろう。
実の所、魔力が体液に滲み出る程に保有している者は皆、心眼や魔眼を持っている。
あの時、自称勇者に『心眼である事を証明して見せろ』とは言ったものの、実のところ会話を途切れさせる事と知識の確認のために問いかけただけである。証明したところで、あの程度の心眼は、フォラクスにとって何の脅威もない。
「其れに、あの曇りある眼では本来の真実等見えますまい)」
彼には精霊が見えていない。
「(……本来ならば、あまり有り得ない事なのですが)」
心眼、魔眼、邪眼を持つ者は間違いなく精霊の類いと、魔力を観測することが出来る。なぜならば、特殊な目達は他者よりも非常に多く目に魔力が流れるためだ。
心眼は特殊な目の中で最も力の弱い目で、心の有り様が見えるものに影響する。だから、『心眼』と呼ぶ。見えるものは魔力と精霊や妖精の有無くらいだ。
魔眼は最も振れ幅が大きく、心眼に近いものから邪眼に近いものまで。だが心に左右されず魔力の色と精霊や妖精を観測することが出来る。場合によっては魔力の流れと使用予定の術の種類も見える。
邪眼は最も数が少なく、その目を持つ者は短命であることが多いと聞く。例が少な過ぎて詳細は不明だが、魔力、魔術、魔法等を打ち消し、遥か遠くのものや未来までもが視える、『邪道の目』。
「(まあ。邪眼のような目を持つ者が現れたのならば、直ぐに処分されるか、保護されるのでしょうね)」
その目の持ち主の人権など、無いに等しい扱いを受けるのかもしれない。
×
「……(扨)、」
一番の問題は実の処、焦茶の転入生男児ではない。つい先程届いたばかりの通達の手紙に目を向ける。
魔術師になる程に魔力の扱いに長けた者、あるいは魔力の多い者は、体内の魔力量が多い。城勤や軍部の、魔術が使える者達も例外では無い。
アザレアも、体液に魔力が含まれる程に多量の魔力を保持しているらしいことは分かった。
つまり、婚約者であるアザレアも、無自覚ながら魔眼を持っているようだった。
そして、珍しくも放出器官を全身に所持しているらしいことも。
だから、
「(彼女も監視対象……ですか)」
通知書を畳み、証拠隠滅のために燃やす。
今までも『魔女』を監視する命令は出たことはあるらしいが、今回はただ監視するだけでなく更に干渉する形で『危険な挙動を阻止しろ』という命令も入っている。
今まで『薬術の魔女』の監視はただ遠巻きに視るだけだったというのに、なぜ、今頃になってその命令が下ったのだろうか。それとも、今だから命令が下ったのだろうか。
何方にせよ、フォラクス自身の行うべき行動に変わりはない。
非常に魔力の保有量が多い者は必然的に体内の魔力が濃くなり、そういう者は更に体液にまで魔力が滲み出る。そのため、ものに触れれば一般人と違い魔力の跡が残る。
また、高等な魔術師は感染魔術などを利用して魔力を介し持ち主に干渉出来るので、魔術師の厚い衣装はそれを防ぐ役割も果たす。
現在、フォラクスが視察のために来訪している魔術アカデミーの制服も、それなりに魔力を吸着し、あるいは防除し、外界へ魔力を溢れさせず、外部からも干渉させないための構造をしている。
そして、一般的には魔術や魔力の放出を行う器官を掌に有するために、魔術師でなくとも魔力を多く保有する者は手袋の着用を義務付けられている。
だから、魔力を持つ者の通う魔術アカデミーの制服ではどのコースでも手袋は付属しており、アカデミー生は必ずと言って良いほどに、手袋を着用する。
基本的に初等部の辺りから手袋を着用させる学校が多いからか、着用に難色を示す者はほとんど存在しない。
むしろ、この世の中では着用しない事に難色を示す者の方が圧倒的に多い。
だが、焦茶色の頭髪の転入生男児と胡桃色の頭髪の転入生女児は、手袋を長期間着用する習慣が無かったのか、手袋を着用していない時間がある。
外しているのを他者から指摘され、仕方なく付け直す姿をフォラクスは幾度か目撃していた。
曰く、『細かい作業が出来ない』、『不自由な感じがする』とのこと。
転入生が皆そうかといえばそうでないらしく、燻んだ金の頭髪の転入生男児は難色を示す事無く手袋を着用している。
「(……此の違いとは)」
頭が痛くなった。目元に手を遣り、フォラクスは深く息を吐く。
特に、焦茶の頭髪の学生は『転生者』のはずだが、この世界に馴染めていないように見えた。
観察の結果から、恐らく前世の記憶に囚われているのだとフォラクスは判断した。
『転移者』の胡桃色の頭髪の学生の場合は、転移前の世界と文化の違いだろうと判断する。追々、この世界に馴染めば良いだけの話だ。
『転生者』は何か思い上がり、いや、勘違いのようなものをしているらしく、身分の低い者や自身の友人を優遇し身分の高い者を敵視しがちな傾向にある。
「(……彼の事は、もう少し強く見ておくべきでしたか)」
上からの資料によると、転生者の視察は随分昔からしていたらしい。フォラクスはそれを今回の在学期間だけ引き継いだだけだ。
「……(いや、如何見ていても、あの思考ならば悪化するばかりか)」
現状では扱いは比較的易く、危険性は低く、攻撃性は高いだけの視るだけの対象である。
「(……自ら『転生者』『勇者』『心眼持ち』等と洩らしておりますが)」
基本的には誰も信じやしないだろうし、あの実直な性格ならば自ら最悪に傾くこともそうないだろう。
実の所、魔力が体液に滲み出る程に保有している者は皆、心眼や魔眼を持っている。
あの時、自称勇者に『心眼である事を証明して見せろ』とは言ったものの、実のところ会話を途切れさせる事と知識の確認のために問いかけただけである。証明したところで、あの程度の心眼は、フォラクスにとって何の脅威もない。
「其れに、あの曇りある眼では本来の真実等見えますまい)」
彼には精霊が見えていない。
「(……本来ならば、あまり有り得ない事なのですが)」
心眼、魔眼、邪眼を持つ者は間違いなく精霊の類いと、魔力を観測することが出来る。なぜならば、特殊な目達は他者よりも非常に多く目に魔力が流れるためだ。
心眼は特殊な目の中で最も力の弱い目で、心の有り様が見えるものに影響する。だから、『心眼』と呼ぶ。見えるものは魔力と精霊や妖精の有無くらいだ。
魔眼は最も振れ幅が大きく、心眼に近いものから邪眼に近いものまで。だが心に左右されず魔力の色と精霊や妖精を観測することが出来る。場合によっては魔力の流れと使用予定の術の種類も見える。
邪眼は最も数が少なく、その目を持つ者は短命であることが多いと聞く。例が少な過ぎて詳細は不明だが、魔力、魔術、魔法等を打ち消し、遥か遠くのものや未来までもが視える、『邪道の目』。
「(まあ。邪眼のような目を持つ者が現れたのならば、直ぐに処分されるか、保護されるのでしょうね)」
その目の持ち主の人権など、無いに等しい扱いを受けるのかもしれない。
×
「……(扨)、」
一番の問題は実の処、焦茶の転入生男児ではない。つい先程届いたばかりの通達の手紙に目を向ける。
魔術師になる程に魔力の扱いに長けた者、あるいは魔力の多い者は、体内の魔力量が多い。城勤や軍部の、魔術が使える者達も例外では無い。
アザレアも、体液に魔力が含まれる程に多量の魔力を保持しているらしいことは分かった。
つまり、婚約者であるアザレアも、無自覚ながら魔眼を持っているようだった。
そして、珍しくも放出器官を全身に所持しているらしいことも。
だから、
「(彼女も監視対象……ですか)」
通知書を畳み、証拠隠滅のために燃やす。
今までも『魔女』を監視する命令は出たことはあるらしいが、今回はただ監視するだけでなく更に干渉する形で『危険な挙動を阻止しろ』という命令も入っている。
今まで『薬術の魔女』の監視はただ遠巻きに視るだけだったというのに、なぜ、今頃になってその命令が下ったのだろうか。それとも、今だから命令が下ったのだろうか。
何方にせよ、フォラクス自身の行うべき行動に変わりはない。
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