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一年目
5:思案
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焦茶で、先を尖らせた頭髪の男子。つまり転入生の内一人は、どうやら転生者らしい。フォラクスは資料に視線を落とす。
上から届いた資料によると、神の声を聞き、聖剣を抜いたのだとか。
どこから転生したのかは不明だが、保有魔力の質はかなり良い。
お陰で強い魔法を発することができている。だが、それを周囲に誇示するかように派手に魅せるのはどうなのだろうか。
そして転生者であるせいか、態度がやや斜に構えたような、周囲を小馬鹿にした様子だった。『転生者』と呼ばれる者は、斜に構えたような態度か逆に酷く世界に怯えた様子を見せる、と資料に書かれていた。
「(……まあ、高圧的な態度は貴族も似た様なものなので、其の態度に関しては放置致しましょう。私は)」
小さく息を吐き、フォラクスは資料を仕舞う。
しかし、フォラクス自身は気にしなくとも周囲の者達はどう思うだろうか。
×
魔術アカデミーの魔術コースと薬学コースの学生には義務がある。
魔術コースでは『魔獣の退治と間引きを行うこと』。
薬学コースでは『一定以上の品質を持つ薬品を一定量以上生成すること』。
この義務は魔獣が発生するこの国で魔術師や軍人、薬師などを育成する学校で必ず課せられているものだ。
今日は魔術コース学生達による魔獣の退治や間引きの作業が行われていた。明日、薬学コースの学生達が薬草を採取するので、その下見と安全確保も兼ねる。
「なんで薬学コースの草むしりのために駆り出されなきゃいけないんだ」と不満を零す学生が多かったものの、魔術コースの使用する薬は薬学コースの学生が生成したものだと知れば、すぐに静かになった。
……そこまでは良かった。
×
魔術アカデミーの魔術コース第四学年生に課せられた義務は『魔獣の間引き』であり、決して『魔獣退治』ではない。
なので、アカデミー生は防具と小型の杖、逃亡用の閃光弾や臭気弾、笛などを携帯し、なるべく規定以外の魔獣は倒さないように指示を受けていた。
「そんなに、片っ端から魔獣を退治するな」と、監督者として付いた上級生の注意を促す声も、「魔獣を倒して役に立ちたいんです」と意気込む第四学年生の様子も毎年のように見られるもので、視察者達も数名ほどは覚えがあるらしく懐かしいような気恥ずかしいような様子でいる。
普段では視察者達は付かないが、近年魔獣が強力になっているらしく、今回は授業の影響で複数教員を連れて行けない代わりに視察者をその監督者として魔獣の間引き作業に同伴させた。
曰く、『普段通りの仕事だろう』と。
それは軍部の魔術師の話であって、城勤の魔術師達は通常ならば研究と城や国を守る結界の管理しかしていない。そのため、城勤の者はげんなりとした様子だった。
×
魔獣を見つけ、規定のサイズ以上ならば殺し、それ以下ならば見逃す。その作業を始めて大分経った。この場所に現れる魔獣は大型の虫から小動物くらいの大きさの、危険性の低い魔獣ばかりだ。
初めは怖がっていた学生達も、倒す魔獣の大きさや危険性の低さに気が緩み始めている頃合いである。
そういう時こそ、殊更に注意が必要となる。
「害を与えるのなら殺しても問題ないだろ?」
「魔獣は倒し過ぎると手に負えないくらい強い魔獣が現れる。だから、程よく間引きするように規定が設けられている」
言い合う声の方にフォラクスは視線を向けた。とあるアカデミー生が、規定サイズ以下の魔獣を退治しようとしていたらしい。
退治しようとしていたのは転入生のようで、上級生から注意を受けていた。
「三年の時に習っただろう」
「すみません。この人、今年転入してきたんです」
苛立つ上級生に、他のアカデミー生が困った様子で答える。珍しい転入生に、周囲の上級生や視察者達は驚いた。
注意をした上級生も驚く様子を見せたものの、直ぐに持ち直す。
「そうは言っても、別の学校や初等部でも習うだろう、こんな基本的なことぐらい」
「……習っていないぞ」
憮然とした態度で、転入生は答えた。恐らく、聞いていなかったのではないのか。
あるいは、そのような教育が施せないほどに地方過ぎる学校だったか。
「デタラメじゃあねぇだろうな」
腕を組み、なぜか高圧的な態度で転入生は上級生に問いかける。
「元となる論文はある。図書館のxxxxの所に」
「だが、」
転入生は尚も食い下がり、更に時間がかかりそうだった。このまま放置すれば、声に反応した魔獣が呼び寄せられるかもしれない。
そう判断したフォラクスは言い合う二人に近づき、転入生の方に視線を向けて声をかけた。他の視察者達は我関せずで言い合いを無視していたからだ。
「目先の、其の刹那の恐怖に囚われて先の事が考えられないのですか」
「……恐怖、だと?」
転入生は不愉快そうに眉間にしわをよせ、フォラクスを見上げた。
「『悪しきものが現れたから直ぐに排除する』。其れは理性的な行動では有りません」
「……その魔獣が人間を襲ったらどうする」
「街中に現れたのならば、排除致しますが」
それこそ、魔術師や軍部の仕事だ。ただの学生如きに換えが務まるものではない。
「山や森の中で襲われたらどうする」
「抑、魔獣が出没し易い危険地帯は立入禁止区域に指定されております」
「……」
「貴方が善意で魔獣を殺したために、更に強い魔獣が現れ本来以上の被害を出した時、貴方は責任が取れるのですか」
声に少し魔力を込めて威圧しながら注意すると、
「……チッ」
苛立ったままであったが、ようやく引き下がった。踵を返した転入生を見送り、フォラクスは小さく溜息を吐く。
こういった自尊心の高い者はいずれまた何かを起こすだろうとフォラクスは考えているからだ。
それが良い方に向かうことを願うよう、フォラクスは溜息とともに軽く目を閉じた。
「(……明日の薬学コースとの連携は大丈夫なのでしょうか)」
確か、婚約者の居る方だったかと、思い出す。
上から届いた資料によると、神の声を聞き、聖剣を抜いたのだとか。
どこから転生したのかは不明だが、保有魔力の質はかなり良い。
お陰で強い魔法を発することができている。だが、それを周囲に誇示するかように派手に魅せるのはどうなのだろうか。
そして転生者であるせいか、態度がやや斜に構えたような、周囲を小馬鹿にした様子だった。『転生者』と呼ばれる者は、斜に構えたような態度か逆に酷く世界に怯えた様子を見せる、と資料に書かれていた。
「(……まあ、高圧的な態度は貴族も似た様なものなので、其の態度に関しては放置致しましょう。私は)」
小さく息を吐き、フォラクスは資料を仕舞う。
しかし、フォラクス自身は気にしなくとも周囲の者達はどう思うだろうか。
×
魔術アカデミーの魔術コースと薬学コースの学生には義務がある。
魔術コースでは『魔獣の退治と間引きを行うこと』。
薬学コースでは『一定以上の品質を持つ薬品を一定量以上生成すること』。
この義務は魔獣が発生するこの国で魔術師や軍人、薬師などを育成する学校で必ず課せられているものだ。
今日は魔術コース学生達による魔獣の退治や間引きの作業が行われていた。明日、薬学コースの学生達が薬草を採取するので、その下見と安全確保も兼ねる。
「なんで薬学コースの草むしりのために駆り出されなきゃいけないんだ」と不満を零す学生が多かったものの、魔術コースの使用する薬は薬学コースの学生が生成したものだと知れば、すぐに静かになった。
……そこまでは良かった。
×
魔術アカデミーの魔術コース第四学年生に課せられた義務は『魔獣の間引き』であり、決して『魔獣退治』ではない。
なので、アカデミー生は防具と小型の杖、逃亡用の閃光弾や臭気弾、笛などを携帯し、なるべく規定以外の魔獣は倒さないように指示を受けていた。
「そんなに、片っ端から魔獣を退治するな」と、監督者として付いた上級生の注意を促す声も、「魔獣を倒して役に立ちたいんです」と意気込む第四学年生の様子も毎年のように見られるもので、視察者達も数名ほどは覚えがあるらしく懐かしいような気恥ずかしいような様子でいる。
普段では視察者達は付かないが、近年魔獣が強力になっているらしく、今回は授業の影響で複数教員を連れて行けない代わりに視察者をその監督者として魔獣の間引き作業に同伴させた。
曰く、『普段通りの仕事だろう』と。
それは軍部の魔術師の話であって、城勤の魔術師達は通常ならば研究と城や国を守る結界の管理しかしていない。そのため、城勤の者はげんなりとした様子だった。
×
魔獣を見つけ、規定のサイズ以上ならば殺し、それ以下ならば見逃す。その作業を始めて大分経った。この場所に現れる魔獣は大型の虫から小動物くらいの大きさの、危険性の低い魔獣ばかりだ。
初めは怖がっていた学生達も、倒す魔獣の大きさや危険性の低さに気が緩み始めている頃合いである。
そういう時こそ、殊更に注意が必要となる。
「害を与えるのなら殺しても問題ないだろ?」
「魔獣は倒し過ぎると手に負えないくらい強い魔獣が現れる。だから、程よく間引きするように規定が設けられている」
言い合う声の方にフォラクスは視線を向けた。とあるアカデミー生が、規定サイズ以下の魔獣を退治しようとしていたらしい。
退治しようとしていたのは転入生のようで、上級生から注意を受けていた。
「三年の時に習っただろう」
「すみません。この人、今年転入してきたんです」
苛立つ上級生に、他のアカデミー生が困った様子で答える。珍しい転入生に、周囲の上級生や視察者達は驚いた。
注意をした上級生も驚く様子を見せたものの、直ぐに持ち直す。
「そうは言っても、別の学校や初等部でも習うだろう、こんな基本的なことぐらい」
「……習っていないぞ」
憮然とした態度で、転入生は答えた。恐らく、聞いていなかったのではないのか。
あるいは、そのような教育が施せないほどに地方過ぎる学校だったか。
「デタラメじゃあねぇだろうな」
腕を組み、なぜか高圧的な態度で転入生は上級生に問いかける。
「元となる論文はある。図書館のxxxxの所に」
「だが、」
転入生は尚も食い下がり、更に時間がかかりそうだった。このまま放置すれば、声に反応した魔獣が呼び寄せられるかもしれない。
そう判断したフォラクスは言い合う二人に近づき、転入生の方に視線を向けて声をかけた。他の視察者達は我関せずで言い合いを無視していたからだ。
「目先の、其の刹那の恐怖に囚われて先の事が考えられないのですか」
「……恐怖、だと?」
転入生は不愉快そうに眉間にしわをよせ、フォラクスを見上げた。
「『悪しきものが現れたから直ぐに排除する』。其れは理性的な行動では有りません」
「……その魔獣が人間を襲ったらどうする」
「街中に現れたのならば、排除致しますが」
それこそ、魔術師や軍部の仕事だ。ただの学生如きに換えが務まるものではない。
「山や森の中で襲われたらどうする」
「抑、魔獣が出没し易い危険地帯は立入禁止区域に指定されております」
「……」
「貴方が善意で魔獣を殺したために、更に強い魔獣が現れ本来以上の被害を出した時、貴方は責任が取れるのですか」
声に少し魔力を込めて威圧しながら注意すると、
「……チッ」
苛立ったままであったが、ようやく引き下がった。踵を返した転入生を見送り、フォラクスは小さく溜息を吐く。
こういった自尊心の高い者はいずれまた何かを起こすだろうとフォラクスは考えているからだ。
それが良い方に向かうことを願うよう、フォラクスは溜息とともに軽く目を閉じた。
「(……明日の薬学コースとの連携は大丈夫なのでしょうか)」
確か、婚約者の居る方だったかと、思い出す。
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