67 / 92
8話「真実の刃」
8
しおりを挟む
目が覚めると私はベッドの端に、もたれかかるように頭を乗せていた。
多分、意識を失うと同時に十紀先生が床に倒れ落ちないようにしてくれたのかもしれない。
見える範囲には誰もいない――ベッドに横たわる桜矢以外は。
ゆっくり頭を上げて周囲をうかがうと、十紀先生達4人が床に屈み込んでいた。
……ううん、十紀先生と神代さん、古夜さんがうずくまっている天宮様に声をかけているみたい。
「お前……神代の分の負担を肩代わりしたのか!?」
「そこはきちんと、話し合いをしたではないですかっ!?」
「神代様、十紀様――とにかく、天宮様をすぐに休ませましょう」
古夜さんはそう言うと、部屋の脇に立てかけられていた簡易ベッドを手早く用意した。
そして、クローゼットから出した布団を敷いてから天宮様を横抱きにする。
顔色の青い天宮様はぐったりとしていて、もしかすると意識を失っているのかもしれない……
どう声をかけたらいいのかわからず困っていると、すぐそばから誰かの声が聞こえてきた。
「ごめん……僕が勝手をして、少し負担をかけ過ぎたのかもしれない」
声がした方向へ目を向けると、目を覚ましたらしい桜矢さんが天宮様に視線を向けている。
申し訳なさそうに言っている彼に、呆れた様子の十紀先生が近づいて維持装置の片づけをはじめた。
「はぁ、なるほどな……それに気づいた天宮が、神代に負担がかからないよう動いたんだな――お前、後で八守に殴られるぞ?」
「……そうかも。だけど、どうしてもお別れをさせてあげたかったんだ……彼女達の為に」
桜矢さんの話を聞いて、私はすぐに気づいた――私と水城さんの、最期のお別れを指していると。
どうやら、【迷いの想い出】をコントロールする為に天宮様の力を借りたみたい……それは知らなかったから、後で天宮様に謝罪とお礼を言わないといけない。
私も申し訳なく思っていると、十紀先生が苦笑しながら首を横にふった。
「いや、真那加さんは気にしなくていい……何も言わず、勝手をした桜矢だけが悪いので気にしなくて大丈夫だ」
「うん……気にしないで大丈夫だよ、真那ちゃん」
十紀先生に手助けされながら起き上がった桜矢さんが言う――問題は何もないから、と。
問題しかない気がするのだけど、本当に大丈夫なのかな?
しかも、天宮様は吐血して失神しちゃうほど体力を消耗させちゃっているわけだし……
「……大、丈夫……ですよ。少し、疲れただけ……ですから」
おろおろしていたら、そう声をかけられた。
声がした方へ目を向けると、古夜さんの用意した簡易ベッドに寝かされている天宮様だった。
どうやら、寝かされてすぐに意識を取り戻したらしい。
顔色は悪いままだけど、目を覚まされたので私はひと安心する。
ただ、起き上がる事ができないようで……横になったまま、顔だけをこちらの方へ向けていた。
「何を言っておられるのですか、天宮様……貴方は、また――」
少し怒っている様子で言葉を続けようとした古夜さんを止めるように、天宮様が手を伸ばして腕を掴んだ。
そして、首をゆっくり横にふって私に声をかけた後に桜矢さんに言う。
「……何でもないですので、気にしないでください。どうやら彼が戻ったようですよ、桜矢?」
「うん、そうみたいだ……天宮様、すべてが終わるまで大人しくしていてくださいね」
もう何もせず寝ているように、と桜矢さんは言葉を続けた。
古夜さんが何を言いかけたのか……『また』が何を意味するのか、わからないけど前に何かあったんだろう。
それで天宮様が危険な目に遭ったとかで、同じ事が起こるかもしれないと彼らは警戒しているんだと気づいた。
これ以上は何も聞かない方がいいんだろうな、と考えた私は何気なくポケットに手を入れる。
あの、霧の世界で見つけた父からの手紙の有無を確認しようと――諦め半分で手を入れたわけだけど、何故か手紙は入っていたのだ。
……まさか、手紙を持って帰れるとは考えておらず驚いてしまった。
「それは、貴女のお父上の心残り…想いが一番強かったものです」
そう告げたのは、天井に何も映さぬ目を向けている天宮様だった。
最後の心残り…霧に意識を繋いだ時、手紙の存在を伝えてくる『想い』があったのだと言う。
どうしても渡したいものなんだ、という願いが一番強かったらしい。
「あの集落の…ほんの一部分を無理矢理繋いだのか、お前は」
天宮様の話を聞いた十紀先生が納得したように頷いてから、天宮様の頭をぽんぽんと撫でた。
その瞬間、天宮様はその手を払いのけた――多分、子供扱いをするなという意味だと思う。
霧の中から天宮様に強く訴えかけたという『想い』は、おそらく父で間違いない。
……父は、何時から手紙を用意していたのだろう?
それを考えると、私の目から自然と涙が零れた。
***
多分、意識を失うと同時に十紀先生が床に倒れ落ちないようにしてくれたのかもしれない。
見える範囲には誰もいない――ベッドに横たわる桜矢以外は。
ゆっくり頭を上げて周囲をうかがうと、十紀先生達4人が床に屈み込んでいた。
……ううん、十紀先生と神代さん、古夜さんがうずくまっている天宮様に声をかけているみたい。
「お前……神代の分の負担を肩代わりしたのか!?」
「そこはきちんと、話し合いをしたではないですかっ!?」
「神代様、十紀様――とにかく、天宮様をすぐに休ませましょう」
古夜さんはそう言うと、部屋の脇に立てかけられていた簡易ベッドを手早く用意した。
そして、クローゼットから出した布団を敷いてから天宮様を横抱きにする。
顔色の青い天宮様はぐったりとしていて、もしかすると意識を失っているのかもしれない……
どう声をかけたらいいのかわからず困っていると、すぐそばから誰かの声が聞こえてきた。
「ごめん……僕が勝手をして、少し負担をかけ過ぎたのかもしれない」
声がした方向へ目を向けると、目を覚ましたらしい桜矢さんが天宮様に視線を向けている。
申し訳なさそうに言っている彼に、呆れた様子の十紀先生が近づいて維持装置の片づけをはじめた。
「はぁ、なるほどな……それに気づいた天宮が、神代に負担がかからないよう動いたんだな――お前、後で八守に殴られるぞ?」
「……そうかも。だけど、どうしてもお別れをさせてあげたかったんだ……彼女達の為に」
桜矢さんの話を聞いて、私はすぐに気づいた――私と水城さんの、最期のお別れを指していると。
どうやら、【迷いの想い出】をコントロールする為に天宮様の力を借りたみたい……それは知らなかったから、後で天宮様に謝罪とお礼を言わないといけない。
私も申し訳なく思っていると、十紀先生が苦笑しながら首を横にふった。
「いや、真那加さんは気にしなくていい……何も言わず、勝手をした桜矢だけが悪いので気にしなくて大丈夫だ」
「うん……気にしないで大丈夫だよ、真那ちゃん」
十紀先生に手助けされながら起き上がった桜矢さんが言う――問題は何もないから、と。
問題しかない気がするのだけど、本当に大丈夫なのかな?
しかも、天宮様は吐血して失神しちゃうほど体力を消耗させちゃっているわけだし……
「……大、丈夫……ですよ。少し、疲れただけ……ですから」
おろおろしていたら、そう声をかけられた。
声がした方へ目を向けると、古夜さんの用意した簡易ベッドに寝かされている天宮様だった。
どうやら、寝かされてすぐに意識を取り戻したらしい。
顔色は悪いままだけど、目を覚まされたので私はひと安心する。
ただ、起き上がる事ができないようで……横になったまま、顔だけをこちらの方へ向けていた。
「何を言っておられるのですか、天宮様……貴方は、また――」
少し怒っている様子で言葉を続けようとした古夜さんを止めるように、天宮様が手を伸ばして腕を掴んだ。
そして、首をゆっくり横にふって私に声をかけた後に桜矢さんに言う。
「……何でもないですので、気にしないでください。どうやら彼が戻ったようですよ、桜矢?」
「うん、そうみたいだ……天宮様、すべてが終わるまで大人しくしていてくださいね」
もう何もせず寝ているように、と桜矢さんは言葉を続けた。
古夜さんが何を言いかけたのか……『また』が何を意味するのか、わからないけど前に何かあったんだろう。
それで天宮様が危険な目に遭ったとかで、同じ事が起こるかもしれないと彼らは警戒しているんだと気づいた。
これ以上は何も聞かない方がいいんだろうな、と考えた私は何気なくポケットに手を入れる。
あの、霧の世界で見つけた父からの手紙の有無を確認しようと――諦め半分で手を入れたわけだけど、何故か手紙は入っていたのだ。
……まさか、手紙を持って帰れるとは考えておらず驚いてしまった。
「それは、貴女のお父上の心残り…想いが一番強かったものです」
そう告げたのは、天井に何も映さぬ目を向けている天宮様だった。
最後の心残り…霧に意識を繋いだ時、手紙の存在を伝えてくる『想い』があったのだと言う。
どうしても渡したいものなんだ、という願いが一番強かったらしい。
「あの集落の…ほんの一部分を無理矢理繋いだのか、お前は」
天宮様の話を聞いた十紀先生が納得したように頷いてから、天宮様の頭をぽんぽんと撫でた。
その瞬間、天宮様はその手を払いのけた――多分、子供扱いをするなという意味だと思う。
霧の中から天宮様に強く訴えかけたという『想い』は、おそらく父で間違いない。
……父は、何時から手紙を用意していたのだろう?
それを考えると、私の目から自然と涙が零れた。
***
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる