惑う霧氷の彼方

雪原るい

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4話「禁断の墓標」

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入る事を禁じられた霧深き森の中、神代かじろ古夜ふるやの2人は周囲を探りながら歩いていた。
たまに見つかる血痕や足跡などを頼りに進んでいるのだが、一向に無事な行方不明者を見つけられず。

不意に立ち止まった神代かじろは、ゆっくりと息をつくと呟いた。

「…まずいですね、このまま行けばに飲み込まれた隣の集落にたどり着いてしまう」
「時間的な事を考えますと、もう…神代かじろ様、一度戻りましょう。このままでは、貴方にまで――」

周囲を警戒したままの古夜ふるやは、主である神代かじろの体調を気遣うように言った。

捜索に出る前、古夜ふるや天宮あまみやに耳打ちされていた…神代かじろの体調がよくない様子である、と。
霧の狂気を抑える為に力を使った反動が、まだダメージとして神代かじろの身体に残っていると教えられたのだ。

神代かじろが無理をしようとしたら、首根っこ引っぱってでも戻るように…と、天宮あまみやが言っていた。

後ろ髪を引かれている様子の神代かじろを、半ば強引に連れ帰ろうとする古夜ふるやは何かに気づきいて動きを止める。
小さくではあるが、10時方向からこちらに向かってくるような…ゆっくりとした足音が聞こえてきたからだ。
神代かじろも異変に気づき、古夜ふるやと共にそちらを警戒しつつ様子をうかがう。

しばらくして姿を現したのは、ところどころ血の付いたボロボロなピンク色のワンピースを身につけた…黒く長い髪をふたつに結った15、6歳くらいの少女であった。
少女は靴を履いておらず裸足で、虚ろな表情のまま…ゆっくりとした歩みで前に進んでいる。

ふと歩みを止めた少女は神代かじろ古夜ふるやの存在に気づいたのだろう、2人の顔を交互に見て小さく口を開いた。
微かに紡がれた言葉に、神代かじろ古夜ふるやの顔色を悪くさせる……

そして、少女はゆっくりと前に倒れ…慌てた様子で神代かじろ古夜ふるやが、彼女の身体を受け止めた。

少女がやって来た方向を複雑そうに見た神代かじろ古夜ふるやは、少女と共に千森ちもりへ戻る選択をする。


――ふふふ、ざぁんねんでしたぁ…私のかーち!


何処からか聞こえてくる笑い声に、老若男女の笑い声が重なり…霧は、その濃さを更に深めていった――


***
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