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2話「断片の笑顔」
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十紀が医院から出かけたのを確認した水城は、誰もいない診察室へ向かう。
「えっと、点滴と着替えと……」
てきぱきと棚から必要なものを取りだし、確認しながらカートの上に乗せていく。
そして、カルテとカートに乗せているものをひとつひとつ再確認した水城は診察室を出た。
(あの患者さんのお世話を終えたら、真那ちゃんに挨拶して帰ろっと)
階段脇のスロープにカートを持っていくと、ゆっくりと階段を上がりながらカートをスロープで上げていく。
そして、たどり着いたのは…真那加がいる階とは違う、ひとつ上の階だ。
――その階の一番奥の部屋の前まで来た水城は、ポケットから鍵を取り出して扉の鍵を開けた。
鍵は事前に十紀から預かっていたわけだが…どうやら、この部屋には鍵がかけられているようだ。
「失礼しま~す…」
水城が小さく声をかける…が、返事はない。
室内には、ベッドが一台――そのベッドにはひとりの青年が横たわっており、傍らには生命維持装置が置かれていた。
水城は静かに室内に入ると、生命維持装置の様子を確認してから青年の顔を目を向ける。
(この人も、早く目が覚めればいいのにな……って、あれ?)
ベッド隣の棚の上に、青年の持ち物と思われていたペンダントが無くなっているのに気づいた水城は、慌ててベッドの下を探した。
……だが、一向にペンダントは見つからない。
(落ちてない…あれ?十紀先生、持ってっちゃったのかな~?)
部屋には、鍵がかかっていた。
この…奥の部屋には窓がない上に、外から入れない造りとなっている。
もちろん、部屋の中からならば鍵を開ける事はできるのだが…青年は生命維持装置に繋がれて眠っているので、それは無理だ。
鍵は診察室の――十紀の机の引き出しに厳重に保管されているので、外から侵入だけはありえないだろう……
水城は明日一番に十紀に訊ねようと考え、そのまま病室を出た。
……もちろん、鍵をかける事は忘れない。
(さて…と、後はおじいさんの点滴と着替えだけ、と――)
鍵がきちんとかかったのを確認した水城は、ふたつ上の階にある病室へ向けて出発した。
***
「はぁ……」
私は自分の病室に戻ってから、何度も深いため息をついてしまっていた。
今日出会った、あの人達……嫌がらせにしては、狂気なようなものを感じていた。
私を殺そうとしている…というか、私の存在自体を消したがっているような感じ。
……普通に、余所者を追い出したいだけならば――
考えれば考えるほど、頭が混乱してくる。
私はベッドに横になって、病室の白い天井を見上げた。
(なんだか…もう、よくわからないよ……誰か――)
自分の記憶を探ってみようとしたけど、ただ頭痛がするだけで何もわからない。
「はぁ…これ以上の記憶は、出てこないのかな?」
ため息をつきながら、私は桜のペンダントをかざしてみた。
すると、ペンダントをかざす私の手に誰かの手が重なって……
驚きながらその手の持ち主を探すと、そこには桃色みがかった茶色の長い髪の少女が立っていた。
虚ろな表情をしてはいたけど…多分、私と同じ年頃の子だと思う。
少女は私と目が合うと、にっこりと笑った。
『…みーつけた。私と同じ運命にあるはずの貴女を――』
その瞬間、私の意識は遠のいていった……
遠くで、私の名前を呼ぶ声が聞こえる…あの青年が、呼んでいる声が。
『真那ちゃん…逃げるんだ!』
……でも、私は抗えず意識を手放してしまった。
***
「えっと、点滴と着替えと……」
てきぱきと棚から必要なものを取りだし、確認しながらカートの上に乗せていく。
そして、カルテとカートに乗せているものをひとつひとつ再確認した水城は診察室を出た。
(あの患者さんのお世話を終えたら、真那ちゃんに挨拶して帰ろっと)
階段脇のスロープにカートを持っていくと、ゆっくりと階段を上がりながらカートをスロープで上げていく。
そして、たどり着いたのは…真那加がいる階とは違う、ひとつ上の階だ。
――その階の一番奥の部屋の前まで来た水城は、ポケットから鍵を取り出して扉の鍵を開けた。
鍵は事前に十紀から預かっていたわけだが…どうやら、この部屋には鍵がかけられているようだ。
「失礼しま~す…」
水城が小さく声をかける…が、返事はない。
室内には、ベッドが一台――そのベッドにはひとりの青年が横たわっており、傍らには生命維持装置が置かれていた。
水城は静かに室内に入ると、生命維持装置の様子を確認してから青年の顔を目を向ける。
(この人も、早く目が覚めればいいのにな……って、あれ?)
ベッド隣の棚の上に、青年の持ち物と思われていたペンダントが無くなっているのに気づいた水城は、慌ててベッドの下を探した。
……だが、一向にペンダントは見つからない。
(落ちてない…あれ?十紀先生、持ってっちゃったのかな~?)
部屋には、鍵がかかっていた。
この…奥の部屋には窓がない上に、外から入れない造りとなっている。
もちろん、部屋の中からならば鍵を開ける事はできるのだが…青年は生命維持装置に繋がれて眠っているので、それは無理だ。
鍵は診察室の――十紀の机の引き出しに厳重に保管されているので、外から侵入だけはありえないだろう……
水城は明日一番に十紀に訊ねようと考え、そのまま病室を出た。
……もちろん、鍵をかける事は忘れない。
(さて…と、後はおじいさんの点滴と着替えだけ、と――)
鍵がきちんとかかったのを確認した水城は、ふたつ上の階にある病室へ向けて出発した。
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「はぁ……」
私は自分の病室に戻ってから、何度も深いため息をついてしまっていた。
今日出会った、あの人達……嫌がらせにしては、狂気なようなものを感じていた。
私を殺そうとしている…というか、私の存在自体を消したがっているような感じ。
……普通に、余所者を追い出したいだけならば――
考えれば考えるほど、頭が混乱してくる。
私はベッドに横になって、病室の白い天井を見上げた。
(なんだか…もう、よくわからないよ……誰か――)
自分の記憶を探ってみようとしたけど、ただ頭痛がするだけで何もわからない。
「はぁ…これ以上の記憶は、出てこないのかな?」
ため息をつきながら、私は桜のペンダントをかざしてみた。
すると、ペンダントをかざす私の手に誰かの手が重なって……
驚きながらその手の持ち主を探すと、そこには桃色みがかった茶色の長い髪の少女が立っていた。
虚ろな表情をしてはいたけど…多分、私と同じ年頃の子だと思う。
少女は私と目が合うと、にっこりと笑った。
『…みーつけた。私と同じ運命にあるはずの貴女を――』
その瞬間、私の意識は遠のいていった……
遠くで、私の名前を呼ぶ声が聞こえる…あの青年が、呼んでいる声が。
『真那ちゃん…逃げるんだ!』
……でも、私は抗えず意識を手放してしまった。
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