135 / 140
0話裏「ほの暗き目覚めの時」
13
しおりを挟む
嵯苑は珠雨と別れてから院長室へ向かい、【戦闘人形】を内側から壊す薬の入った注射器を何本か用意した。
本当なら一族の者達の承認がいるのだが、今はそう言っていられない状況である。
最近、息子と仲良くなった子供達は五人…その内のひとりは体調を崩し、【戦闘人形】化が急激に進行してしまったのだ。
おそらく偽医師の仲間が何かを――そういえば『薬』が減っては増えを繰り返しているという報告を受けたな、と思い出した嵯苑はある可能性に気づく。
珠雨も何か気にしてか、何度も『薬』を調べては改良した特効薬をひとつ届けに来ていた…その時は早い頻度で持ってこなくても、と思ったが今回のような事を警戒してだったんだろう。
一時的になくなっていた『薬』は持ち出されたわけじゃなく、早い段階で【戦闘人形】化しつつある患者のいる病棟に撒かれていた――それも、ほんの少しずつをこぼしておけば誰も気づかない。
だから息子の歳下の友人が体調不良で倒れたのだろう…そして、傍にいただろう息子と残りの子供達も同様に。
用意した注射器を白衣のポケットに入れ、デスクの上に置かれた写真立てに目を向けた。
写真に写っているのは生まれたばかりの息子を抱きしめた最愛の妻の、元気であった頃の最後の姿だ。
この写真を撮った翌日に【戦闘人形】化がはじまったのだ、玖苑の住人ではなかったというのに。
調べてみると、彼女の祖父母、両親共に玖苑の人間の血を引いていた…いわゆる先祖返り、だった。
「…すまない」
そう呟いた嵯苑は写真から視線を逸らし、院長室から出て息子の病室へ向かう。
息子の部屋は特別室で、院長室のある四階と同じ階にあるのだ。
もしかすると息子はベッドに座ってつまらなそうにしており、自分の姿を見て文句を言うかもしれない…それをなだめて最期の時を過ごすのもいいかもしれない。
息子の部屋の扉をノックし、名前を呼びながら入った嵯苑が動きを止めた。
室内は血で汚れており、床には血だまりがあった。
そして、その血だまりの上に倒れているのは自分の代わりに息子を見てくれていた叔父だ…すでに事切れているのはひと目見てわかった。
彼の喉が切られているらしいので、おそらく即死だっただろう。
凶器はおそらくだが、部屋にあったおもちゃのどれかだろうと思う…おもちゃが全部壊れているので、どれなのか断定できない。
「…一体何処へ?」
息子の姿が部屋にはない、という事は院内の何処かへ行っているのだろうが血で足は汚れていなかったのか足跡などなかったせいでわからなかった。
向かうとしたら売店か、友人達の病室か休憩室かくらいだろう……
心当たりといえば友人達の病室かもしれない、と部屋を出る前に亡くなった叔父へ頭を下げて三階へ向かった。
三階までは西の一般病棟、東の隔離病棟と分かれており連絡通路が各階にあるのだ。
ちなみに、院長室のある四階は東側のみである。
_
本当なら一族の者達の承認がいるのだが、今はそう言っていられない状況である。
最近、息子と仲良くなった子供達は五人…その内のひとりは体調を崩し、【戦闘人形】化が急激に進行してしまったのだ。
おそらく偽医師の仲間が何かを――そういえば『薬』が減っては増えを繰り返しているという報告を受けたな、と思い出した嵯苑はある可能性に気づく。
珠雨も何か気にしてか、何度も『薬』を調べては改良した特効薬をひとつ届けに来ていた…その時は早い頻度で持ってこなくても、と思ったが今回のような事を警戒してだったんだろう。
一時的になくなっていた『薬』は持ち出されたわけじゃなく、早い段階で【戦闘人形】化しつつある患者のいる病棟に撒かれていた――それも、ほんの少しずつをこぼしておけば誰も気づかない。
だから息子の歳下の友人が体調不良で倒れたのだろう…そして、傍にいただろう息子と残りの子供達も同様に。
用意した注射器を白衣のポケットに入れ、デスクの上に置かれた写真立てに目を向けた。
写真に写っているのは生まれたばかりの息子を抱きしめた最愛の妻の、元気であった頃の最後の姿だ。
この写真を撮った翌日に【戦闘人形】化がはじまったのだ、玖苑の住人ではなかったというのに。
調べてみると、彼女の祖父母、両親共に玖苑の人間の血を引いていた…いわゆる先祖返り、だった。
「…すまない」
そう呟いた嵯苑は写真から視線を逸らし、院長室から出て息子の病室へ向かう。
息子の部屋は特別室で、院長室のある四階と同じ階にあるのだ。
もしかすると息子はベッドに座ってつまらなそうにしており、自分の姿を見て文句を言うかもしれない…それをなだめて最期の時を過ごすのもいいかもしれない。
息子の部屋の扉をノックし、名前を呼びながら入った嵯苑が動きを止めた。
室内は血で汚れており、床には血だまりがあった。
そして、その血だまりの上に倒れているのは自分の代わりに息子を見てくれていた叔父だ…すでに事切れているのはひと目見てわかった。
彼の喉が切られているらしいので、おそらく即死だっただろう。
凶器はおそらくだが、部屋にあったおもちゃのどれかだろうと思う…おもちゃが全部壊れているので、どれなのか断定できない。
「…一体何処へ?」
息子の姿が部屋にはない、という事は院内の何処かへ行っているのだろうが血で足は汚れていなかったのか足跡などなかったせいでわからなかった。
向かうとしたら売店か、友人達の病室か休憩室かくらいだろう……
心当たりといえば友人達の病室かもしれない、と部屋を出る前に亡くなった叔父へ頭を下げて三階へ向かった。
三階までは西の一般病棟、東の隔離病棟と分かれており連絡通路が各階にあるのだ。
ちなみに、院長室のある四階は東側のみである。
_
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うたかた夢曲
雪原るい
ファンタジー
昔、人と人ならざる者達との争いがあった。
それを治めたのは、3人の英雄だった…――
時は流れ――真実が偽りとなり、偽りが真実に変わる…
遥か昔の約束は、歪められ伝えられていった。
――果たして、偽りを真実にしたものは何だったのか…
誰が誰と交わした約束なのか…
これは、人と人ならざる闇の者達が織りなす物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目です。
[章分け]
・一章「迷いの記憶」1~7話(予定)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる