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0話裏「ほの暗き目覚めの時」
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「…えぇ、今のところ問題ないですよ。兄さんが心配する事は起こってませんから…わかっていますよ、必要以上には干渉しません。そもそも、嵯苑さんも気づいていかったのだから仕方ないでしょう?だから、そんな事を今更言っても仕方ないでしょうが」
しばらく何か言い合っていたが、また連絡すると言って電話を切った珠雨は嵯苑の存在に気づいたらしく驚きで身体を揺らす。
すぐに話を聞かれた事に気づいた珠雨は、諦めたように息をつき口を開いた。
「…すみません、急に兄から連絡がきましてね。嵯苑さんの噂話をしてました」
「噂話、ですか?先輩のお兄さんとは会った事なかったように思いますが…私の記憶違いですか?それより珠雨先輩、お兄さんいたんですね?」
もう何処からツッコんで聞いていいのか、わからなかった嵯苑はとりあえず関係ない件から訊いてみたらしい。
とりあえず一番驚いたのは、珠雨がひとりっ子だと思っていたのに兄がいた事だったようだ。
困ったようにぽりぽりと頬をかいた珠雨が、苦笑しながら答える。
「あー…兄はふたりいまして、連絡してきたのは一番上の兄です。嵯苑さん達の事を心配していたので話していただけですよ」
「会った事ない相手を心配していたのですか、珠雨先輩のお兄さんは?」
「……」
「答えられませんか?こちらの事情を妙に知っているとは思っていましたが、何故なのか教えてはくれないんですか?」
何も答えられない様子の珠雨に、嵯苑は詰め寄るように訊いた。
彼の心理的圧力に、珠雨は深くため息をついて観念したように答える。
「…嵯苑さんの一族に、管理システムをつけたのは私の兄です。これを言うつもりなかった…兄さんからも念を押されたけど、本当はおかしいと思っていたのでしょう?」
薄々気づいているような様子を見せていた嵯苑に、珠雨は困惑した表情のまま説明しはじめる――自分達の正体と《闇空の柩》についてを。
静かに聞いていた嵯苑はようやく絡まった糸が解けたような気分になったし、学生時代一度も勝てなかった理由を知った。
だから知っていたのだ、自分達の秘密を…この街の正体にも、それと【古代兵器】についても。
天職じゃないか…【古代兵器】研究なんて、造られた目的を知っているんだから研究し放題だ!
こんな自棄にも似た考えになるのは、それよりも大きな問題もあったからだろう。
「珠雨先輩の正体がわかったのは、よかったかもしれませんね…今までの無茶ぶりなども納得ですよ。それよりも問題が起こりました」
嵯苑は二日前にあった事故について珠雨に説明した――もちろん、自分の子供が関わっている事も隠さずに。
事が事なだけに、医院全体に撒かれたと考えて間違いないだろう…と嵯苑は言葉を続けた。
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しばらく何か言い合っていたが、また連絡すると言って電話を切った珠雨は嵯苑の存在に気づいたらしく驚きで身体を揺らす。
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「…すみません、急に兄から連絡がきましてね。嵯苑さんの噂話をしてました」
「噂話、ですか?先輩のお兄さんとは会った事なかったように思いますが…私の記憶違いですか?それより珠雨先輩、お兄さんいたんですね?」
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「会った事ない相手を心配していたのですか、珠雨先輩のお兄さんは?」
「……」
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「…嵯苑さんの一族に、管理システムをつけたのは私の兄です。これを言うつもりなかった…兄さんからも念を押されたけど、本当はおかしいと思っていたのでしょう?」
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静かに聞いていた嵯苑はようやく絡まった糸が解けたような気分になったし、学生時代一度も勝てなかった理由を知った。
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天職じゃないか…【古代兵器】研究なんて、造られた目的を知っているんだから研究し放題だ!
こんな自棄にも似た考えになるのは、それよりも大きな問題もあったからだろう。
「珠雨先輩の正体がわかったのは、よかったかもしれませんね…今までの無茶ぶりなども納得ですよ。それよりも問題が起こりました」
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