129 / 140
0話裏「ほの暗き目覚めの時」
7
しおりを挟む
振り向いて様子をうかがう嵯苑に、珠雨はもう一度同じ言葉を告げた。
「知ってますよ、この玖苑の人々を蝕むものの正体を。そして、ここが旧暦の時代の遺産ともいえる場所である事も」
「……」
目を見開いて驚き固まる嵯苑の目を見た珠雨が続ける。
「旧暦の時代、ここは【戦闘人形】を生みだす研究が行われていた研究所だった。そして、この街は【戦闘人形】を生みだす為の実験都市…嵯苑さん、貴方の祖先達が研究していたものでしょう?この街の人々は被験者の子孫――つまり〈咎人〉の街なんです、ここは。あの時代では、ついぞ誕生しなかった兵器が現代になって完成しようとしている…」
「ど、どうして…」
本当に何もかもを知られている事に、答えるべき言葉がみつからず口を開閉するしかできない嵯苑は混乱した。
そもそも珠雨が語ったものは、この玖苑の街をつくった嵯苑の祖先達が隠した事実…それは決して外部に洩れないよう厳重に管理されているはずだ。
薬を盛られた時に喋った可能性も考えられるが、一言でも洩らせば自分はここにいないはず――そう管理されているので違うだろう。
ならば、この人はどうやって…?
だが、まさか…そんなわけは……
思考を停止させた嵯苑の顎に手を添えた珠雨は、顔を近づけて囁きかける。
「どうしても何も、ねぇ…言いましたよね?こちらにはこちらの情報網があるのだ、と。それに忘れましたか?嵯苑さん、私が専攻している分野を」
「え…【古代兵器】研究、でしたよね?」
「そうです…だから、ちゃんと調べればわかります。あの男…走水博士よりも手に持つ情報が多いのは私の方です。いいですか、嵯苑さん?今夜亡くなる予定の患者を生かし、そのカルテを彼に渡しなさい。少しでも時間を稼がなければいけない」
珠雨の言葉に嵯苑は、ゆっくり視線をあげると首を小さく横にふった。
「な、何故…今夜死亡する患者の存在を、どうしてこの街の正体を――時間を稼ぐ?一体、先輩は何を」
「【戦闘人形】と化していく過程で、人としての営みを失くしていくそうですね。そして末期近くまでになると自我が稀薄となり、暴れてしまう事もあるとか…そうなると危険なので院長であり〈咎人〉の長でもある嵯苑さん、貴方が彼らを人間である内に死なせてあげていたのでしょう?」
「っ、仕方ないでしょう!もし医院の…いや、この街の外に出て誰かを殺めてしまえば【古代兵器】の存在が表沙汰になる。協力して表沙汰になったとしても、街の住民達は何も知らない被害者でいられるはずだ。あんたは…何をどこまで知ってるんだ!」
珠雨の手を払いのけた嵯苑は、声を荒げて言うと胸をおさえて肩で息をする。
嵯苑とて、好き好んで患者を殺めているわけではない。
病で衰弱しているわけでない、健康な人間を…ただ兵器と化してしまっただけの理由で、夜な夜な殺しているだけだ。
こんな事をする為に、自分は医師になったわけじゃないというのに――
自然と零れる涙をそのままに、嵯苑は顔をうつむけた。
彼の、心からの叫びを聞いた珠雨は静かに嵯苑の様子をうかがい落ち着くまで待っているようだ。
_
「知ってますよ、この玖苑の人々を蝕むものの正体を。そして、ここが旧暦の時代の遺産ともいえる場所である事も」
「……」
目を見開いて驚き固まる嵯苑の目を見た珠雨が続ける。
「旧暦の時代、ここは【戦闘人形】を生みだす研究が行われていた研究所だった。そして、この街は【戦闘人形】を生みだす為の実験都市…嵯苑さん、貴方の祖先達が研究していたものでしょう?この街の人々は被験者の子孫――つまり〈咎人〉の街なんです、ここは。あの時代では、ついぞ誕生しなかった兵器が現代になって完成しようとしている…」
「ど、どうして…」
本当に何もかもを知られている事に、答えるべき言葉がみつからず口を開閉するしかできない嵯苑は混乱した。
そもそも珠雨が語ったものは、この玖苑の街をつくった嵯苑の祖先達が隠した事実…それは決して外部に洩れないよう厳重に管理されているはずだ。
薬を盛られた時に喋った可能性も考えられるが、一言でも洩らせば自分はここにいないはず――そう管理されているので違うだろう。
ならば、この人はどうやって…?
だが、まさか…そんなわけは……
思考を停止させた嵯苑の顎に手を添えた珠雨は、顔を近づけて囁きかける。
「どうしても何も、ねぇ…言いましたよね?こちらにはこちらの情報網があるのだ、と。それに忘れましたか?嵯苑さん、私が専攻している分野を」
「え…【古代兵器】研究、でしたよね?」
「そうです…だから、ちゃんと調べればわかります。あの男…走水博士よりも手に持つ情報が多いのは私の方です。いいですか、嵯苑さん?今夜亡くなる予定の患者を生かし、そのカルテを彼に渡しなさい。少しでも時間を稼がなければいけない」
珠雨の言葉に嵯苑は、ゆっくり視線をあげると首を小さく横にふった。
「な、何故…今夜死亡する患者の存在を、どうしてこの街の正体を――時間を稼ぐ?一体、先輩は何を」
「【戦闘人形】と化していく過程で、人としての営みを失くしていくそうですね。そして末期近くまでになると自我が稀薄となり、暴れてしまう事もあるとか…そうなると危険なので院長であり〈咎人〉の長でもある嵯苑さん、貴方が彼らを人間である内に死なせてあげていたのでしょう?」
「っ、仕方ないでしょう!もし医院の…いや、この街の外に出て誰かを殺めてしまえば【古代兵器】の存在が表沙汰になる。協力して表沙汰になったとしても、街の住民達は何も知らない被害者でいられるはずだ。あんたは…何をどこまで知ってるんだ!」
珠雨の手を払いのけた嵯苑は、声を荒げて言うと胸をおさえて肩で息をする。
嵯苑とて、好き好んで患者を殺めているわけではない。
病で衰弱しているわけでない、健康な人間を…ただ兵器と化してしまっただけの理由で、夜な夜な殺しているだけだ。
こんな事をする為に、自分は医師になったわけじゃないというのに――
自然と零れる涙をそのままに、嵯苑は顔をうつむけた。
彼の、心からの叫びを聞いた珠雨は静かに嵯苑の様子をうかがい落ち着くまで待っているようだ。
_
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
うたかた夢曲
雪原るい
ファンタジー
昔、人と人ならざる者達との争いがあった。
それを治めたのは、3人の英雄だった…――
時は流れ――真実が偽りとなり、偽りが真実に変わる…
遥か昔の約束は、歪められ伝えられていった。
――果たして、偽りを真実にしたものは何だったのか…
誰が誰と交わした約束なのか…
これは、人と人ならざる闇の者達が織りなす物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目です。
[章分け]
・一章「迷いの記憶」1~7話(予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる