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0話裏「ほの暗き目覚めの時」
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振り向いて様子をうかがう嵯苑に、珠雨はもう一度同じ言葉を告げた。
「知ってますよ、この玖苑の人々を蝕むものの正体を。そして、ここが旧暦の時代の遺産ともいえる場所である事も」
「……」
目を見開いて驚き固まる嵯苑の目を見た珠雨が続ける。
「旧暦の時代、ここは【戦闘人形】を生みだす研究が行われていた研究所だった。そして、この街は【戦闘人形】を生みだす為の実験都市…嵯苑さん、貴方の祖先達が研究していたものでしょう?この街の人々は被験者の子孫――つまり〈咎人〉の街なんです、ここは。あの時代では、ついぞ誕生しなかった兵器が現代になって完成しようとしている…」
「ど、どうして…」
本当に何もかもを知られている事に、答えるべき言葉がみつからず口を開閉するしかできない嵯苑は混乱した。
そもそも珠雨が語ったものは、この玖苑の街をつくった嵯苑の祖先達が隠した事実…それは決して外部に洩れないよう厳重に管理されているはずだ。
薬を盛られた時に喋った可能性も考えられるが、一言でも洩らせば自分はここにいないはず――そう管理されているので違うだろう。
ならば、この人はどうやって…?
だが、まさか…そんなわけは……
思考を停止させた嵯苑の顎に手を添えた珠雨は、顔を近づけて囁きかける。
「どうしても何も、ねぇ…言いましたよね?こちらにはこちらの情報網があるのだ、と。それに忘れましたか?嵯苑さん、私が専攻している分野を」
「え…【古代兵器】研究、でしたよね?」
「そうです…だから、ちゃんと調べればわかります。あの男…走水博士よりも手に持つ情報が多いのは私の方です。いいですか、嵯苑さん?今夜亡くなる予定の患者を生かし、そのカルテを彼に渡しなさい。少しでも時間を稼がなければいけない」
珠雨の言葉に嵯苑は、ゆっくり視線をあげると首を小さく横にふった。
「な、何故…今夜死亡する患者の存在を、どうしてこの街の正体を――時間を稼ぐ?一体、先輩は何を」
「【戦闘人形】と化していく過程で、人としての営みを失くしていくそうですね。そして末期近くまでになると自我が稀薄となり、暴れてしまう事もあるとか…そうなると危険なので院長であり〈咎人〉の長でもある嵯苑さん、貴方が彼らを人間である内に死なせてあげていたのでしょう?」
「っ、仕方ないでしょう!もし医院の…いや、この街の外に出て誰かを殺めてしまえば【古代兵器】の存在が表沙汰になる。協力して表沙汰になったとしても、街の住民達は何も知らない被害者でいられるはずだ。あんたは…何をどこまで知ってるんだ!」
珠雨の手を払いのけた嵯苑は、声を荒げて言うと胸をおさえて肩で息をする。
嵯苑とて、好き好んで患者を殺めているわけではない。
病で衰弱しているわけでない、健康な人間を…ただ兵器と化してしまっただけの理由で、夜な夜な殺しているだけだ。
こんな事をする為に、自分は医師になったわけじゃないというのに――
自然と零れる涙をそのままに、嵯苑は顔をうつむけた。
彼の、心からの叫びを聞いた珠雨は静かに嵯苑の様子をうかがい落ち着くまで待っているようだ。
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「知ってますよ、この玖苑の人々を蝕むものの正体を。そして、ここが旧暦の時代の遺産ともいえる場所である事も」
「……」
目を見開いて驚き固まる嵯苑の目を見た珠雨が続ける。
「旧暦の時代、ここは【戦闘人形】を生みだす研究が行われていた研究所だった。そして、この街は【戦闘人形】を生みだす為の実験都市…嵯苑さん、貴方の祖先達が研究していたものでしょう?この街の人々は被験者の子孫――つまり〈咎人〉の街なんです、ここは。あの時代では、ついぞ誕生しなかった兵器が現代になって完成しようとしている…」
「ど、どうして…」
本当に何もかもを知られている事に、答えるべき言葉がみつからず口を開閉するしかできない嵯苑は混乱した。
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薬を盛られた時に喋った可能性も考えられるが、一言でも洩らせば自分はここにいないはず――そう管理されているので違うだろう。
ならば、この人はどうやって…?
だが、まさか…そんなわけは……
思考を停止させた嵯苑の顎に手を添えた珠雨は、顔を近づけて囁きかける。
「どうしても何も、ねぇ…言いましたよね?こちらにはこちらの情報網があるのだ、と。それに忘れましたか?嵯苑さん、私が専攻している分野を」
「え…【古代兵器】研究、でしたよね?」
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珠雨の言葉に嵯苑は、ゆっくり視線をあげると首を小さく横にふった。
「な、何故…今夜死亡する患者の存在を、どうしてこの街の正体を――時間を稼ぐ?一体、先輩は何を」
「【戦闘人形】と化していく過程で、人としての営みを失くしていくそうですね。そして末期近くまでになると自我が稀薄となり、暴れてしまう事もあるとか…そうなると危険なので院長であり〈咎人〉の長でもある嵯苑さん、貴方が彼らを人間である内に死なせてあげていたのでしょう?」
「っ、仕方ないでしょう!もし医院の…いや、この街の外に出て誰かを殺めてしまえば【古代兵器】の存在が表沙汰になる。協力して表沙汰になったとしても、街の住民達は何も知らない被害者でいられるはずだ。あんたは…何をどこまで知ってるんだ!」
珠雨の手を払いのけた嵯苑は、声を荒げて言うと胸をおさえて肩で息をする。
嵯苑とて、好き好んで患者を殺めているわけではない。
病で衰弱しているわけでない、健康な人間を…ただ兵器と化してしまっただけの理由で、夜な夜な殺しているだけだ。
こんな事をする為に、自分は医師になったわけじゃないというのに――
自然と零れる涙をそのままに、嵯苑は顔をうつむけた。
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