堕ちし記憶の森は

雪原るい

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0話「終焉の街」

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内心、頭を抱える俺の耳元に走水そうすい博士は声を潜めるように囁きかけてきた。

「お前が何を目的としているのかはわからないが――ここにいても、お前の望むものを手に入れる事はできない。よければどうかな《闇空の柩》に属しているお前ならば、も歓迎するよ」
「な、にを…?」

こいつは《闇空の柩》の存在を知っているのか…驚きで、咄嗟に反応が返せなかった。
何も答えない俺に、走水そうすい博士は更に言葉を重ねる。

「お前は、この世界の歴史と真実…《闇空の柩》が隠そうとしている技術などを知っているだろう?だ…できれば、お前の意志でこちらの手を取ってもらいたい」

走水そうすい博士の囁き声は、おそらく傍にいる右穂うすいにも聞こえているのだろう…眉をひそめて、走水そうすい博士の様子をうかがっていた。
それよりも、気になる事がある…走水そうすい博士の目的はなんだ?
《闇空の柩》が直隠ひたかくしにしている事を、何故知っているんだ?
それに、走水そうすい博士の言う『我々』とは一体――

疑問が次々に浮かんできた為、すぐに答えられなかった。
それを走水博士相手は、俺が深く悩んでいると思ったのだろう…笑みを浮かべたまま、こちらに手を差しだし待っている。

「俺は…」
珠雨しゅうー!ここにいる?」

勢いよく扉を開けて現れたのは、白季しらきだった――どうやら、珠雨しゅう先生を探していたようだ。
…本当に珠雨しゅう先生を探していたのか、このタイミングを考えると疑わしいが。

「あ、あれ?珠雨しゅう、じゃなくて走水そうすい博士に説教されてる倉世くらせ?」
「説教は、されていない」

ものすごく誤解を生みそうな言いように、即答で否定する。
こちらに差しだした手を引っ込めた走水そうすい博士は、苦笑しながら俺に声をかけてきた。

「おっと…それじゃあ、倉世くらせ。お前の答えは後で聞かせてもらう事にしようかな…?」

そう言うとこちらの返事を待たず、ちらりと白季しらきに視線を向けてから部屋を出ていった。
去りゆく走水そうすい博士の背中に向けて、白季しらきが舌を出していたが…嫌いなのだろうな。

走水そうすい博士の姿が見えなくなると、右穂うすいは忌々しげに舌打ちをした。

「あの男……」
右穂うすい、落ち着いて。とりあえず、夕馬ゆうまに伝えたから報告を待ってよ」

右穂うすいの肩に手を置いた白季しらきが、そう声をかけた――おそらく、近くに夕馬ゆうまもいたのだろう。
ならば、走水そうすい博士の正体はわかるかもしれない。
しかし《闇空の柩》の存在を知っており、自分達も同じだと言っていたのは気になるところだ。

全員しばし無言でいたが、白季しらきは「珠雨しゅうを探すんだった」と言って部屋を出ていった。
そういう名目で来たのか、と思っていたが本当に探していたのか…と、俺と右穂うすいは思わず苦笑してしまう。


この時、気づかなかったが…俺達の様子をうかがう、走水そうすい博士とは別の存在がいたようだ。
――それは、こちらの動向をうかがっていたのだろう。


***
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