111 / 140
0話「終焉の街」
6
しおりを挟む
周囲を確認した俺達は裏口から医院へ入り、4階にある院長室へ向かう。
丁度昼時だったので、院内は昼食の匂いに満ちていた。
あぁ…そういえば、俺は起きてから何も食べていなかったな。
エレベーターで4階に着くと、ホールで右穂が待っていた。
知治と打ち合わせする前に、夕馬達と先に行く事は聞いていたがそこにいたのか。
右穂の案内で院長室へ入ると、部屋には40代後半の…赤髪に茶色の瞳をした院長の嵯苑が椅子に座り、机に向かって書類に目を通していた。
こちらに気づいた彼は視線を上げてから立ち上がると、口元にだけ笑みを作る。
「ようこそ、玖苑医院へ…いや、玖苑研究所へと言った方がいいのかな?そして、久しぶりです…珠雨先輩」
「どちらでも構わないと思いますが、お久しぶりですね。塑亜さんから様子を聞いてはいましたが、元気そうで何よりです」
どうやら、嵯苑と珠雨先生は知り合いらしい…というか、このふたりは学舎時代の『先輩』『後輩』の関係だったのか。
しかし珠雨先生は〈狭間の者〉で、彼らはかなり緩やかに歳をとる…と聞いていたので、首をかしげていると白季が囁きかけてきた。
「珠雨…今は年齢50代だから、見た目を合わせる為に特殊なマスクつけてるんだよ。だから、嵯苑はこっちの正体にまったく気づいていないんだ」
俺の学生時代から珠雨先生の見た目にあまり変化はない――本人曰く、老け顔らしいので俺もまったく気づかなかった。
つい、まじまじと観察していると白季がさらに言葉を続ける。
「それに、珠雨は学舎の…魔導研究科に中途編入して、たまたま取った授業が同じだった嵯苑と知り合ったって言ってたよ」
「なるほど」
先ほど、珠雨先生に声をかけた嵯苑から親しさを感じなかった理由がなんとなくわかった…多分、外部生であった珠雨先生をライバル視しているのだろう。
お互い学科は違うが、医学科と研究科の授業は多少被っているところもあるので理由はこれだろう。
そんな微妙な空気のまま挨拶を終えると、嵯苑の案内でエレベーターに乗って地下研究所へ向かった。
特殊な操作で降りれるようになっているので、誤って一般人は入れない仕様のようだ。
地下研究所の階に着き、そのまま会議室へ向かうとそこには夕馬と十数人の白衣を着た男女が集まっていた。
「よぉーう!待ってたぞー」
夕馬がこちらに気づき、笑いながら声をかけてくる――どうやら、彼はここで待っていたようだ。
それから、嵯苑より集まった研究者達――金から赤のグラデーションの髪と茶色の瞳をした男が走水博士、灰色の髪に赤紫の瞳で浅黒い肌の女が綺乃女史…そして、残りの者達の紹介を受けた。
こちらも簡単に紹介を…というか、夕馬が楽しそうにこちらを紹介してくれたのでひと言も話さず終えてしまう。
…もちろん、紹介をし終えた夕馬は塑亜先生に頭を軽く叩かれて部屋から追い出されていたが。
***
丁度昼時だったので、院内は昼食の匂いに満ちていた。
あぁ…そういえば、俺は起きてから何も食べていなかったな。
エレベーターで4階に着くと、ホールで右穂が待っていた。
知治と打ち合わせする前に、夕馬達と先に行く事は聞いていたがそこにいたのか。
右穂の案内で院長室へ入ると、部屋には40代後半の…赤髪に茶色の瞳をした院長の嵯苑が椅子に座り、机に向かって書類に目を通していた。
こちらに気づいた彼は視線を上げてから立ち上がると、口元にだけ笑みを作る。
「ようこそ、玖苑医院へ…いや、玖苑研究所へと言った方がいいのかな?そして、久しぶりです…珠雨先輩」
「どちらでも構わないと思いますが、お久しぶりですね。塑亜さんから様子を聞いてはいましたが、元気そうで何よりです」
どうやら、嵯苑と珠雨先生は知り合いらしい…というか、このふたりは学舎時代の『先輩』『後輩』の関係だったのか。
しかし珠雨先生は〈狭間の者〉で、彼らはかなり緩やかに歳をとる…と聞いていたので、首をかしげていると白季が囁きかけてきた。
「珠雨…今は年齢50代だから、見た目を合わせる為に特殊なマスクつけてるんだよ。だから、嵯苑はこっちの正体にまったく気づいていないんだ」
俺の学生時代から珠雨先生の見た目にあまり変化はない――本人曰く、老け顔らしいので俺もまったく気づかなかった。
つい、まじまじと観察していると白季がさらに言葉を続ける。
「それに、珠雨は学舎の…魔導研究科に中途編入して、たまたま取った授業が同じだった嵯苑と知り合ったって言ってたよ」
「なるほど」
先ほど、珠雨先生に声をかけた嵯苑から親しさを感じなかった理由がなんとなくわかった…多分、外部生であった珠雨先生をライバル視しているのだろう。
お互い学科は違うが、医学科と研究科の授業は多少被っているところもあるので理由はこれだろう。
そんな微妙な空気のまま挨拶を終えると、嵯苑の案内でエレベーターに乗って地下研究所へ向かった。
特殊な操作で降りれるようになっているので、誤って一般人は入れない仕様のようだ。
地下研究所の階に着き、そのまま会議室へ向かうとそこには夕馬と十数人の白衣を着た男女が集まっていた。
「よぉーう!待ってたぞー」
夕馬がこちらに気づき、笑いながら声をかけてくる――どうやら、彼はここで待っていたようだ。
それから、嵯苑より集まった研究者達――金から赤のグラデーションの髪と茶色の瞳をした男が走水博士、灰色の髪に赤紫の瞳で浅黒い肌の女が綺乃女史…そして、残りの者達の紹介を受けた。
こちらも簡単に紹介を…というか、夕馬が楽しそうにこちらを紹介してくれたのでひと言も話さず終えてしまう。
…もちろん、紹介をし終えた夕馬は塑亜先生に頭を軽く叩かれて部屋から追い出されていたが。
***
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます
tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中!
※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father
※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中!
※書影など、公開中!
ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。
勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。
スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。
途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。
なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。
その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる