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12話「永久の闇への旅路」
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「もちろん知っていたさ…彼は我々の事について調べ、知ろうとしてくれたのでね」
だから、倉世を《闇空の柩》に引き入れようと決めたのだと言う。
「――あぁ、君が訊きたい事の答えだったか…ふむ、ではまず最初の質問についてに答えよう」
真宮の話では、第六王子である知草殿下は冥国をかつての姿に戻したいと願っているのだそうだ。
……確か、かつて冥国は軍事大国であったらしいと学生時代に習ったな。
それが今や隣国と睨み合っているとはいえ、軍事大国であった姿は鳴りを潜めている。
久知河と第六王子は、それを取り戻そうとしたわけか……
「その為の力を欲し、彼らは試作体であった【機械仕掛けの神】に目をつけた……」
隠されし【機械仕掛けの神】にプロテクトがかけられている事を知った彼らが、プロテクト解除の為に管理している一族を殺めた。
管理していた一族の生き残り――それが、第五妃であった織葉様だったと語った真宮は目を伏せる。
織葉様が狙われた理由はわかったが…第六王子である知草殿下とは実の親子であるというのにどうしてそのような事ができたのか、とても理解できなかった。
それが表情に出ていたのだろう……ため息をひとつついた真宮は、話を続ける。
「第五妃が亡くなれば、あれの管理権は息子である第六王子に移る。それを知ったあの王子は、実母を殺めてでも手に入れたかったのだろう――【機械仕掛けの神】の試作体を」
それを阻止する為に対策を立てていたというのに…どういうわけか情報が洩れ、対処しきれなかったそうだ。
陛下の方も、もはや手の打ちどころもなく…現在、昏睡状態に陥っているのだという。
上層部の大半の者が第六王子派に付きはじめているらしく、自分が仕えている第二王子をはじめとした王族の排除が計画されているそうだ。
抵抗する力を持たない王子や王女は、早々に亡命させる手筈が整っている。
――しかし、どれだけの王侯貴族が排除されるのか…あちらに付くのか、まったくわからないという。
「ここ数か月、鈴亜殿下を推していた者達が次々と襲われているようだ……間違いなく、冥国は荒れるだろうさ」
――知らない間に、自分がそれに手を貸していた…その事実が、今更ながら恐ろしく感じた。
「まぁ、真実を知らされなかった理由は簡単だ。君なら、命じれば何の疑いもせず任務をこなすだろうと思われたという事だ」
まるで思考を読んだかのように、真宮が言う……おそらく、鈴亜殿下の配下である倉世に対抗する為に使われたのだろうと。
確かに……幼馴染みだから、ある程度なら倉世の考えそうな事はわかるかもしれない。
「あまり時間もかけられないだろう、お互い――次の質問に答えるとしようか」
そう言った彼は、喉を潤す為にお茶をひと口飲んだ。
「確か、次は世界の謎について…だったかな?さて、どう説明すればわかりやすいか……倉世も話していたと思うがね」
――この世界はね…旧暦の時代、大きな戦いがあったのだよ。
その戦いで、世界は大きな傷を負った…その傷をつけた存在が【機械仕掛けの神】なのだと、真宮は語った。
暴走した力が南半球にあった大陸を破壊し、北半球側の大陸にも影響を及ぼしそうになったのだという。
それを阻止する為、大きな傷を負った世界を癒す為に〈神の血族〉の大半の生命を犠牲にしなければならなかったそうだ。
〈神の血族〉の血と、対の生命を世界に捧げる事で世界を癒す――それが、倉世の言っていた『贖罪の儀』のはじまりだったのだろう。
だが、ひとつ疑問もある……それは、対の生命とは何なのかだ。
静かに俺の表情を観察していた真宮は、首をかしげて答えた。
「対の生命――それについては、聞かなかったのかね?〈神の血族〉は、【主】と【従者】…2人でひとつなのだよ。どちらかが欠けるなど赦されない……」
【主】が生命を落とせば、【従者】は一年以内に死する運命にあるそうだ。
逆に【従者】は【主】さえ生きていれば、生命を落とすレベルの怪我を負ったとしても死なないらしい。
「それだけ結びつきが強い、というだけだよ。だからこそなのか、この世界の傷を癒す力となる」
今回の事件で、世界は少なからず傷を負った…だから、『贖罪の儀』が今回行われた――そう、真宮が言葉を続けた。
「この事件の『贖罪の儀』は…〈狭間の者〉2人の血と主従の結びつきを持つ倉世と右穂の生命が捧げられ、事なきを終えたというわけだ」
「もし、それを行わなかった場合…この世界はどうなっていた?」
「…おそらく、何らかの災害が引き起こされ世界は軋むだろうな。その場合の被害は、今回の比ではないだろう」
俺の疑問に、真宮が声音を低く答えた。
だからこそ倉世と右穂は、その生命を捧げたのだろう――この世界が軋み、数多の生命がこれ以上失われないように。
それではまるで、あの童話『哀しみの神子』のようじゃないか……
「『哀しみの神子』か…懐かしい童話だな。あの兄神子のモデルはね、実は私の伯父上なんだよ」
昔を懐かしむように彼は言っている…が、俺はいつ『哀しみの神子』を口に出したのだろうか?
もしかすると、無意識に言ってしまったのだろうな……
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だから、倉世を《闇空の柩》に引き入れようと決めたのだと言う。
「――あぁ、君が訊きたい事の答えだったか…ふむ、ではまず最初の質問についてに答えよう」
真宮の話では、第六王子である知草殿下は冥国をかつての姿に戻したいと願っているのだそうだ。
……確か、かつて冥国は軍事大国であったらしいと学生時代に習ったな。
それが今や隣国と睨み合っているとはいえ、軍事大国であった姿は鳴りを潜めている。
久知河と第六王子は、それを取り戻そうとしたわけか……
「その為の力を欲し、彼らは試作体であった【機械仕掛けの神】に目をつけた……」
隠されし【機械仕掛けの神】にプロテクトがかけられている事を知った彼らが、プロテクト解除の為に管理している一族を殺めた。
管理していた一族の生き残り――それが、第五妃であった織葉様だったと語った真宮は目を伏せる。
織葉様が狙われた理由はわかったが…第六王子である知草殿下とは実の親子であるというのにどうしてそのような事ができたのか、とても理解できなかった。
それが表情に出ていたのだろう……ため息をひとつついた真宮は、話を続ける。
「第五妃が亡くなれば、あれの管理権は息子である第六王子に移る。それを知ったあの王子は、実母を殺めてでも手に入れたかったのだろう――【機械仕掛けの神】の試作体を」
それを阻止する為に対策を立てていたというのに…どういうわけか情報が洩れ、対処しきれなかったそうだ。
陛下の方も、もはや手の打ちどころもなく…現在、昏睡状態に陥っているのだという。
上層部の大半の者が第六王子派に付きはじめているらしく、自分が仕えている第二王子をはじめとした王族の排除が計画されているそうだ。
抵抗する力を持たない王子や王女は、早々に亡命させる手筈が整っている。
――しかし、どれだけの王侯貴族が排除されるのか…あちらに付くのか、まったくわからないという。
「ここ数か月、鈴亜殿下を推していた者達が次々と襲われているようだ……間違いなく、冥国は荒れるだろうさ」
――知らない間に、自分がそれに手を貸していた…その事実が、今更ながら恐ろしく感じた。
「まぁ、真実を知らされなかった理由は簡単だ。君なら、命じれば何の疑いもせず任務をこなすだろうと思われたという事だ」
まるで思考を読んだかのように、真宮が言う……おそらく、鈴亜殿下の配下である倉世に対抗する為に使われたのだろうと。
確かに……幼馴染みだから、ある程度なら倉世の考えそうな事はわかるかもしれない。
「あまり時間もかけられないだろう、お互い――次の質問に答えるとしようか」
そう言った彼は、喉を潤す為にお茶をひと口飲んだ。
「確か、次は世界の謎について…だったかな?さて、どう説明すればわかりやすいか……倉世も話していたと思うがね」
――この世界はね…旧暦の時代、大きな戦いがあったのだよ。
その戦いで、世界は大きな傷を負った…その傷をつけた存在が【機械仕掛けの神】なのだと、真宮は語った。
暴走した力が南半球にあった大陸を破壊し、北半球側の大陸にも影響を及ぼしそうになったのだという。
それを阻止する為、大きな傷を負った世界を癒す為に〈神の血族〉の大半の生命を犠牲にしなければならなかったそうだ。
〈神の血族〉の血と、対の生命を世界に捧げる事で世界を癒す――それが、倉世の言っていた『贖罪の儀』のはじまりだったのだろう。
だが、ひとつ疑問もある……それは、対の生命とは何なのかだ。
静かに俺の表情を観察していた真宮は、首をかしげて答えた。
「対の生命――それについては、聞かなかったのかね?〈神の血族〉は、【主】と【従者】…2人でひとつなのだよ。どちらかが欠けるなど赦されない……」
【主】が生命を落とせば、【従者】は一年以内に死する運命にあるそうだ。
逆に【従者】は【主】さえ生きていれば、生命を落とすレベルの怪我を負ったとしても死なないらしい。
「それだけ結びつきが強い、というだけだよ。だからこそなのか、この世界の傷を癒す力となる」
今回の事件で、世界は少なからず傷を負った…だから、『贖罪の儀』が今回行われた――そう、真宮が言葉を続けた。
「この事件の『贖罪の儀』は…〈狭間の者〉2人の血と主従の結びつきを持つ倉世と右穂の生命が捧げられ、事なきを終えたというわけだ」
「もし、それを行わなかった場合…この世界はどうなっていた?」
「…おそらく、何らかの災害が引き起こされ世界は軋むだろうな。その場合の被害は、今回の比ではないだろう」
俺の疑問に、真宮が声音を低く答えた。
だからこそ倉世と右穂は、その生命を捧げたのだろう――この世界が軋み、数多の生命がこれ以上失われないように。
それではまるで、あの童話『哀しみの神子』のようじゃないか……
「『哀しみの神子』か…懐かしい童話だな。あの兄神子のモデルはね、実は私の伯父上なんだよ」
昔を懐かしむように彼は言っている…が、俺はいつ『哀しみの神子』を口に出したのだろうか?
もしかすると、無意識に言ってしまったのだろうな……
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