堕ちし記憶の森は

雪原るい

文字の大きさ
上 下
95 / 140
12話「永久の闇への旅路」

しおりを挟む
港から移動する最中、なんとか秘密警察に連絡を入れた――もちろん、港での一件でなく別件についてどうしたらいいのかを伺うつもりで。
連絡先は、倉世くらせの手帳に書かれていたのでそれを利用した。

すると、夢明むめいの西部方向にあるらしい建物に来るよう指定してきたわけだが、港は南部なのでさすがに少々遠い……
しかし、迷っている時間もないので部下のひとりが手配してくれた車に乗って向かった。

数時間後…指定された場所に着くと、そこは3階建ての――まるで、何かの会社事務所のように見える建物があったのだ。
まぁ……表向き何なのかは、この際気にすまい。
どうせ、知ったところで意味はないだろうから……

敷地内に止めた車から降り、建物を見上げていると中から軍服を着た真紅色の髪の青年がひとり出てきた。
興味深げにこちらを観察した後、右手を建物の入り口へ向けて入るよう勧める。

青年に案内されるまま、俺達は周囲をうかがいながら建物の中…2階にある事務所に通された。
室内は落ち着いた雰囲気のある、やはり普通の会社事務所にしか見えず――思わず、何の仕事をしているところなのか訊ねてしまった。

「ぇ…んーっと、ここは雑貨などの輸入を専門とした会社だったかなー」

俺の問いかけに、一瞬きょとんとした表情を浮かべた青年は室内をざっと見回しながら答えた。

詳しく話を訊いてみると、各国で販売されている子供向けの雑貨や玩具の輸入や販売をしており…独自のルートを持っているので、例え主要な港を潰されたとしてもあまり困らないらしい。
この場所は秘密警察を完全に掌握した《闇空の柩》が、もしもの為に用意したのだという。
夕馬ゆうまが秘密警察のトップに就いたと同時期くらいにできたのだろうか…と考えていると、案の定そうだった。

「……それで、何の用で連絡してきたのか聞かせてもらおーか?まー、大体は理矩りく様から聞いてるけど……あ、その前に俺は知治ともはるっていうけど。そっちは?」

俺達にソファーを勧めた青年・知治ともはるは、首をかしげながらマイペースに訊ねてくる。
なるほど…連絡を入れた時、対応したのが理矩りくだったという事か。
で、理矩りくの命令を受けたこの男知治がここで俺達を待っていたんだろう……

それにしても、明るく緊張感ない雰囲気の男だな……調子が狂ってしまいそうだ。
思わずそう考えてしまったが、気を取り直し――代表して俺の名と、此処へ来た目的を告げた。
腕を組んで、うんうんと頷き聞いていた知治ともはるが再び首をかしげる。

「んー、そりゃあ構わないけどさー。ただ、俺達が協力する意味わかんねーんだけど…わかってる?俺達もまずい状況なんだよねー」

今回の件が致命的となった為、《闇空の柩》のメンバーはかなり悪い立場にたたされてしまったらしい。
……確かに、久知河ひさちか達に《闇空の柩》の存在を知られているようだった。
ごたごたしているのはわかっているので、そんな不機嫌そうに睨まないでもらいたい。

とりあえず…俺が学舎の理事長に会う約束をとりつけている事を伝えると、知治ともはるは一瞬目を丸くさせた後に笑みを浮かべた。

「へぇー、それはそれは…よく真宮まみや様が会うと言ってくれたねー」
「いや…どちらかと言えば、一方的に頼んだような感じだがな」

考えてみれば、倉世くらせから会うよう言われ……夕馬ゆうまにその旨を伝えてほしいと頼んだだけなので、相手の反応はまったくわからない。
場合によっては、会う事が叶わないかもしれない……

それを思わずごちると、にやにやと笑みを浮かべる知治ともはるが笑い声をあげた。

「ほぉーほぉー、なかなか面白い事を…まー、多分会ってくれると思うけどー?」

ただ……夕馬ゆうま隊長はげっそりと疲れてそーだけど、と続ける。
……まぁ、色々やる事がある中で伝言を伝えるのだから大変だろう。

「でもさー…あんた、真宮まみや様に何を訊こうと思ってるのさ?」
「……この国にあるという【古代兵器オーパーツ】についてを――」

声を潜め答えると、笑みを浮かべていた知治ともはるはすんと真顔になった。

、についてかー…ふーん」

何か嫌な事を思いだしたのか、忌々しげに舌打ちをする。
明るい印象のある相手のただならぬ様子に、過去に一体何があったのかと首をかしげた。

俺達の視線に気づいたのか、知治ともはるはすぐに笑みを戻して口を開く。

「ぁ…いやー、めんごめんご!ちょーっと嫌な事を思いだしてさー。それより、この親子の事は任せてちょーよ」

こちらの頼み事を思い出してくれたのか、知治ともはるは自分達に任せるよう言ってくれた。
この国で最後の、秘密警察としての仕事だから頑張るぞーと笑う。

この、軽い口調はともかく――おそらく、きちんと対応してくれるだろう……知治ともはるが、ではなく夕馬ゆうま理矩りくが。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

うたかた夢曲

雪原るい
ファンタジー
昔、人と人ならざる者達との争いがあった。 それを治めたのは、3人の英雄だった…―― 時は流れ――真実が偽りとなり、偽りが真実に変わる… 遥か昔の約束は、歪められ伝えられていった。 ――果たして、偽りを真実にしたものは何だったのか… 誰が誰と交わした約束なのか… これは、人と人ならざる闇の者達が織りなす物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目です。 [章分け] ・一章「迷いの記憶」1~7話(予定)

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...