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11話「先に行く者と逝く者」
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――もし他に助けたい奴がいるなら早々に動いた方がいいぞー?
…そう、見知らぬ黒髪の少女を連れた夕馬が言っていた。
何故、2人が飛行艇の方から来たのか…それはわからない――いや、夕馬は乗っていたのだから不思議ではない。
……だが、あの黒髪の少女は何時から乗っていたのか?
それとも、ここに着いてから乗り込んできたのだろうか?
あの双子の少女のように……
いくら考えてもわからなかった……
でも、おそらく何か仕掛けたのは彼の言葉から考えて間違いないだろう。
この場を離れろ、と…それも喫茶店辺りという事は、この港の出入り口付近まで逃げろという事だ。
そこまで言われると、大体何をしようとしているのか嫌でもわかってしまう。
俺は息をひとつついて、搭乗橋の向こう――幼馴染みと、その右腕たる男の亡骸に目を向けた。
…何故もっと早く、上のついた嘘に気づけなかったのかと深い後悔が心の中で渦巻いている。
まさか第六王子が自らの母を死に追い詰め、間諜であった走水博士を消し…絶対たる力と権力を求めていた、という事実は衝撃的だった。
――とても大人しく欲のない王子に見えた為、その企みにまったく気づかず自分は命じられるままに玖苑の街を……
まさか、それが邪魔者を一気に始末する為だったとは本当に気づけなかったのだ。
これでは、倉世に脳筋だと言われても仕方ないな…と、心の中で苦笑してしまった。
助けたい奴……それは、生き残っている同じく何も知らないだろう部下達とあの母娘だ。
これ以上、殿下達の目論み通り動くわけにいかない…それに、このまま利用されるのはごめんである。
倉世は、俺に世界の闇の部分を知られたくないと考えて……気づかれない内に、すべて方を付けたかったのだろうな。
今では形見となってしまったこの手帳には、いろいろな事が書かれていた。
あいつが語っていた……俺が知らなかった世界の裏の部分や、〈神の血族〉についてなど――
これらを知ってしまった今、俺は倉世の意志を継ぐべきなのだろう。
その為には、ここをなんとか乗り切り…あいつの上官である葎名様に連絡をとらなければならない。
葎名様が俺の動きを探ろうと協力的だった理由は、今ならわかる――水面下で敵対していたようだからな、第二王子派と第六王子派で。
知らない内に自分が第六王子派に属していた事に、思わず頭を抱えてしまいたくなったが……
おそらく、これから考えなければならない事はたくさんある…だが、今は時間が惜しい。
2人の亡骸に向け、静かに黙祷を捧げた――彼らのやりたかったであろう意志を継ぐ事も一緒に誓って……
搭乗口を後にした俺は少し離れた場所で待機している数人の部下を見つけ、共にあの母娘を保護する。
混乱している母娘2人には、詳しい説明は何もせず…この港の出入り口付近にある喫茶店の陰に身を隠した。
一体何が起こるのか、母娘には理解できなかったのだろう……不審げな表情を浮かべている。
ふと、大きな窓の外――空に見馴れない飛行艇が一隻飛んでいるのに気づいた。
あれは、一体何処の飛行艇なのか…そう考えた時、ふいに夕馬の言葉を思い出す。
――あぁ…あいつ等は此処を離れたのか、と必然的にそう思えた。
その瞬間、〈隠者の船〉が停泊していた場所を中心に爆発が起こり、その爆風がこちらまで届く。
俺と部下達は、母娘を守る為に盾となって爆風と舞った砂埃を防いだ。
爆発の光と大きな音……そして爆風が襲う中、誰のものかはわからないが囁きかけるような小さな声を耳にした気がした。
――此度の罪は赦された…と。
その不思議な声は、倉世が最後に語っていた…この世界の声か、〈神の血族〉の声なのか。
世界に赦されたのなら、あいつらの死は決して無駄にならなかったという事だろう……この時、信じられた。
――罪を犯してしまった俺も、いつかきっと……
_
…そう、見知らぬ黒髪の少女を連れた夕馬が言っていた。
何故、2人が飛行艇の方から来たのか…それはわからない――いや、夕馬は乗っていたのだから不思議ではない。
……だが、あの黒髪の少女は何時から乗っていたのか?
それとも、ここに着いてから乗り込んできたのだろうか?
あの双子の少女のように……
いくら考えてもわからなかった……
でも、おそらく何か仕掛けたのは彼の言葉から考えて間違いないだろう。
この場を離れろ、と…それも喫茶店辺りという事は、この港の出入り口付近まで逃げろという事だ。
そこまで言われると、大体何をしようとしているのか嫌でもわかってしまう。
俺は息をひとつついて、搭乗橋の向こう――幼馴染みと、その右腕たる男の亡骸に目を向けた。
…何故もっと早く、上のついた嘘に気づけなかったのかと深い後悔が心の中で渦巻いている。
まさか第六王子が自らの母を死に追い詰め、間諜であった走水博士を消し…絶対たる力と権力を求めていた、という事実は衝撃的だった。
――とても大人しく欲のない王子に見えた為、その企みにまったく気づかず自分は命じられるままに玖苑の街を……
まさか、それが邪魔者を一気に始末する為だったとは本当に気づけなかったのだ。
これでは、倉世に脳筋だと言われても仕方ないな…と、心の中で苦笑してしまった。
助けたい奴……それは、生き残っている同じく何も知らないだろう部下達とあの母娘だ。
これ以上、殿下達の目論み通り動くわけにいかない…それに、このまま利用されるのはごめんである。
倉世は、俺に世界の闇の部分を知られたくないと考えて……気づかれない内に、すべて方を付けたかったのだろうな。
今では形見となってしまったこの手帳には、いろいろな事が書かれていた。
あいつが語っていた……俺が知らなかった世界の裏の部分や、〈神の血族〉についてなど――
これらを知ってしまった今、俺は倉世の意志を継ぐべきなのだろう。
その為には、ここをなんとか乗り切り…あいつの上官である葎名様に連絡をとらなければならない。
葎名様が俺の動きを探ろうと協力的だった理由は、今ならわかる――水面下で敵対していたようだからな、第二王子派と第六王子派で。
知らない内に自分が第六王子派に属していた事に、思わず頭を抱えてしまいたくなったが……
おそらく、これから考えなければならない事はたくさんある…だが、今は時間が惜しい。
2人の亡骸に向け、静かに黙祷を捧げた――彼らのやりたかったであろう意志を継ぐ事も一緒に誓って……
搭乗口を後にした俺は少し離れた場所で待機している数人の部下を見つけ、共にあの母娘を保護する。
混乱している母娘2人には、詳しい説明は何もせず…この港の出入り口付近にある喫茶店の陰に身を隠した。
一体何が起こるのか、母娘には理解できなかったのだろう……不審げな表情を浮かべている。
ふと、大きな窓の外――空に見馴れない飛行艇が一隻飛んでいるのに気づいた。
あれは、一体何処の飛行艇なのか…そう考えた時、ふいに夕馬の言葉を思い出す。
――あぁ…あいつ等は此処を離れたのか、と必然的にそう思えた。
その瞬間、〈隠者の船〉が停泊していた場所を中心に爆発が起こり、その爆風がこちらまで届く。
俺と部下達は、母娘を守る為に盾となって爆風と舞った砂埃を防いだ。
爆発の光と大きな音……そして爆風が襲う中、誰のものかはわからないが囁きかけるような小さな声を耳にした気がした。
――此度の罪は赦された…と。
その不思議な声は、倉世が最後に語っていた…この世界の声か、〈神の血族〉の声なのか。
世界に赦されたのなら、あいつらの死は決して無駄にならなかったという事だろう……この時、信じられた。
――罪を犯してしまった俺も、いつかきっと……
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