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11話「先に行く者と逝く者」
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そんな事を、この場で聞かされた俺は……少しだけ遠い目をしてしまったのは、ここだけの話だ。
気持ちを切り替えようと咳払いした俺が走水の身分証を投げ渡すと、七弥はそれを咄嗟に受け取って首をかしげた。
「これは――走水博士の……」
まぁ…顔写真がついているのだから、それが走水の身分証であるとひと目でわかったのだろう。
――だが、すぐにそこに書かれている内容が目に入ったらしく…目を見開いて、俺と走水の身分証を交互に見ていた。
「……気づいたか?まぁ、樟菜から粗方聞いているだろう。走水の正体を――それが、その証拠だ」
この証拠さえあれば、七弥の立場は…まぁ、そこまで悪くなる事はないだろう。
走水は零鳴国の人間だった――わざわざ彼らと接触する為…そして、冥国にあるだろう【古代兵器】について調べる為にやって来たらしい。
樟菜は夫から聞いたのか、問い質したのかはわからないが……彼らの正体と、冥国にやって来た目的を知ったのだろう。
知った上で娘の為に隠し通す事を決めたのだろう、夫が亡くなった後も――
そう考えれば、走水と樟菜が知り合いだというのも納得いく話だな。
まぁ、音瑠の様子を見た限りでは何も知らなかったのだろう……もしかすると、七弥が知ったタイミングで全てを知った可能性もあるが。
――あぁ、今考えてみれば【機械仕掛けの神】の試作体が隠されている場所を知られなかったのは不幸中の幸いだったかもしれないな……
そして、綺乃の…いや、第六王子と久知河の目的の件もある。
希衣沙から聞いた、と言っていたが――何処まで、彼が知っていたのかはわからない。
訊きたいところだが、希衣沙はもうこの世にいないようだからな…残念だが、そこは俺の知っている事を参考に想像するしかないわけだ。
七弥の話では彼らの存在を匂わす内容を言っていたそうなので、そこから話せばアイツでも理解できるだろう。
…後、俺と同罪だと言われていた紫鴉博士についても話していいだろうな。
「あの時…希衣沙が言っていただろう?紫鴉博士と俺が主犯である、と――」
俺がそう語りはじめると、七弥は不思議そうな表情でこちらを見た。
一体何を言おうとしているのか…まるでわからない、といった感じだ。
あいつの、困惑している様子を構わず言葉を続ける。
「それは、ある意味合っているんだろう…玖苑研究所で、非道な実験を行っていたのは事実だからな――だから否定はしない。だが、事実と少し違うところがひとつだけある…」
あの発表の場で、用意された台詞を口にした希衣沙は知らされてなかったのだろう…玖苑研究所に、紫鴉博士がいたかどうかを。
そして…白季もその状況を利用して、あんな事を口にした――紫鴉博士は亡くなった、と。
亡くなった事実を記憶の失われた俺に教えているようで、あれは何も知らない第三者達に印象付けようとして語るような口ぶりだった。
その話を最初にした時、そばにいたのは杜詠と…付近をうろついていた名の知らない軍人達だ。
研究所を制圧した際に亡くなったのだと知った彼らは、もう紫鴉博士を探すような事はしないだろう……
認めているのに一部だけ違うと否定する俺に、何を言っているんだというように七弥が眉をひそめた。
「何が違うというんだ…?」
「紫鴉博士はな――この世界の何処を探しても存在しないんだ…だから、この事件の主犯にはなり得ない」
冥国の最重要人物とも言われている紫鴉博士……彼は、実際には存在していない――ただ、彼らが使っていた仮初めの名前なのだから。
その事実を知っているのは彼らと冥王陛下と第二王子殿下、葎名様と斐歌殿くらいだろう。
ほとんどの人間は、紫鴉博士が実在していると認識していたのだから……
杜詠は白季から教えられたらしく、それを去り際に言っていたんだ――…狐につままれた気分だった、と。
それはそうだろう…自分の憧れていた存在が、実は複数人が使っている名前だけの存在だったのだからな。
俺の言葉に、七弥は驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまった…まぁ、その気持ちはわかるぞ。
だが、そのまま動かなくなられては困るんだがな――俺達も、時間がないんだ。
気持ちを切り替えようと咳払いした俺が走水の身分証を投げ渡すと、七弥はそれを咄嗟に受け取って首をかしげた。
「これは――走水博士の……」
まぁ…顔写真がついているのだから、それが走水の身分証であるとひと目でわかったのだろう。
――だが、すぐにそこに書かれている内容が目に入ったらしく…目を見開いて、俺と走水の身分証を交互に見ていた。
「……気づいたか?まぁ、樟菜から粗方聞いているだろう。走水の正体を――それが、その証拠だ」
この証拠さえあれば、七弥の立場は…まぁ、そこまで悪くなる事はないだろう。
走水は零鳴国の人間だった――わざわざ彼らと接触する為…そして、冥国にあるだろう【古代兵器】について調べる為にやって来たらしい。
樟菜は夫から聞いたのか、問い質したのかはわからないが……彼らの正体と、冥国にやって来た目的を知ったのだろう。
知った上で娘の為に隠し通す事を決めたのだろう、夫が亡くなった後も――
そう考えれば、走水と樟菜が知り合いだというのも納得いく話だな。
まぁ、音瑠の様子を見た限りでは何も知らなかったのだろう……もしかすると、七弥が知ったタイミングで全てを知った可能性もあるが。
――あぁ、今考えてみれば【機械仕掛けの神】の試作体が隠されている場所を知られなかったのは不幸中の幸いだったかもしれないな……
そして、綺乃の…いや、第六王子と久知河の目的の件もある。
希衣沙から聞いた、と言っていたが――何処まで、彼が知っていたのかはわからない。
訊きたいところだが、希衣沙はもうこの世にいないようだからな…残念だが、そこは俺の知っている事を参考に想像するしかないわけだ。
七弥の話では彼らの存在を匂わす内容を言っていたそうなので、そこから話せばアイツでも理解できるだろう。
…後、俺と同罪だと言われていた紫鴉博士についても話していいだろうな。
「あの時…希衣沙が言っていただろう?紫鴉博士と俺が主犯である、と――」
俺がそう語りはじめると、七弥は不思議そうな表情でこちらを見た。
一体何を言おうとしているのか…まるでわからない、といった感じだ。
あいつの、困惑している様子を構わず言葉を続ける。
「それは、ある意味合っているんだろう…玖苑研究所で、非道な実験を行っていたのは事実だからな――だから否定はしない。だが、事実と少し違うところがひとつだけある…」
あの発表の場で、用意された台詞を口にした希衣沙は知らされてなかったのだろう…玖苑研究所に、紫鴉博士がいたかどうかを。
そして…白季もその状況を利用して、あんな事を口にした――紫鴉博士は亡くなった、と。
亡くなった事実を記憶の失われた俺に教えているようで、あれは何も知らない第三者達に印象付けようとして語るような口ぶりだった。
その話を最初にした時、そばにいたのは杜詠と…付近をうろついていた名の知らない軍人達だ。
研究所を制圧した際に亡くなったのだと知った彼らは、もう紫鴉博士を探すような事はしないだろう……
認めているのに一部だけ違うと否定する俺に、何を言っているんだというように七弥が眉をひそめた。
「何が違うというんだ…?」
「紫鴉博士はな――この世界の何処を探しても存在しないんだ…だから、この事件の主犯にはなり得ない」
冥国の最重要人物とも言われている紫鴉博士……彼は、実際には存在していない――ただ、彼らが使っていた仮初めの名前なのだから。
その事実を知っているのは彼らと冥王陛下と第二王子殿下、葎名様と斐歌殿くらいだろう。
ほとんどの人間は、紫鴉博士が実在していると認識していたのだから……
杜詠は白季から教えられたらしく、それを去り際に言っていたんだ――…狐につままれた気分だった、と。
それはそうだろう…自分の憧れていた存在が、実は複数人が使っている名前だけの存在だったのだからな。
俺の言葉に、七弥は驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまった…まぁ、その気持ちはわかるぞ。
だが、そのまま動かなくなられては困るんだがな――俺達も、時間がないんだ。
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