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11話「先に行く者と逝く者」
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隠し部屋を出た俺と右穂は、七弥の姿を探して通路を歩いていた。
時たま出会う……おそらく港内から、この飛行艇に乗り込んできたと思われる狂った者達を始末しながらではあるが。
大人しく何処かで待っているのもありなのではないか…と、またもや頭を過ったのだが…この飛行艇内の何処で待ったとしても会えない気がしてくるのだから不思議だ。
――いや、不思議でもないか…この飛行艇はそういう構造なんだからな。
つい…遊び心というのは本当に怖いものですね、と心の中で珠雨先生に語りかけてしまったくらいだ。
しばらく宛もなく歩いていると、向かいの方から気配のあまり感じられない小さな足音が聞こえてきた。
途中、立ち止まっているのか…足音が途切れる事があるので、もしかすると迷っているのかもしれない――
……一体何者だ?
足音からして女性の可能性がある…ならば音瑠か、その母親が迷っているのか?
だが、彼女らはもう少ししっかりとした足音であったと思う。
――なので、彼女らではないだろう。
警戒すべきか、と考えたが俺の傍らにいる右穂はまったく警戒していなかった。
という事は、俺達の知人である可能性が――あぁ…そういえば、ひとりいたかもしれない。
気配が希薄で、小さな足音を響かせる知人が……
「…何故ここに?」
思わず出てしまった言葉に、ため息をついてしまった。
確か…あの出来事以降、零鳴国にいたんじゃなかったか?
そう思ったが、もしかすると応援の為に来たのかもしれない――呼んだのは、塑亜先生なのだろう。
右穂に目配せをした後、その知人のところへ向かう事にした。
案の定、地図を片手に首をかしげている小さな姿を見つけられたが…何故、冥国軍の軍帽を被ってるんだ?
わからない事は多いが、とりあえずそれはひとまず置いておくとして…何やら困っている様子の知人に声をかけた。
「…もしかしないでも――迷子か、紫麻?」
俺の言葉に一瞬ビクついた知人・紫麻は、軍帽の鍔を上げてこちらを確認する。
「ぁ…倉世、久しぶりー。じゃなくて、どうしたの?こんなところで…」
「いや、それはこっちの台詞だが……」
まさかの再会に驚いている俺と…あまり驚いた様子のない右穂に、紫麻は自分がこの飛行艇にやって来た理由を説明してくれた。
そして、これから彼女が向かおうとしている場所やその目的についても……
こうなってしまっては仕方ないだろう…と理解しているので、異論はないと頷いておいた。
図面は別の場所にあるのだから、気持ちは別として問題ないだろう……
「そうか、わかった…ならばコレを使え。コレさえあれば、ここではある程度の自由が利くだろう」
持っていた俺の身分証を渡しておく…もう、俺には不要なものだしな。
紫麻が『あの場所』に辿り着ければ、もう身分証を使わずとも済むのだから……
受け取った彼女は少し驚いたようだが、了承してくれたのか頷いてくれた。
――そして「そうだ」と呟き、こちらに向けて頭を下げる。
「倉世…珠雨の、この変な構造の飛行艇を最後まで使ってくれてありがとう」
「…あぁ。だが…変なだけじゃないんだぞ、この飛行艇は――」
妹のような存在に変だと言われるのは、さすがの珠雨先生でも落ち込んでしまう気がしたのでフォローしておいた。
いや…まぁ、あの構造で助かったところもあるので間違ってはいないと思うのだが。
「それじゃ、夕馬が待ちくたびれちゃうからもう行くね――貴方達が、世界から赦されますように…」
紫麻が少し寂しそうな表情を浮かべ祈るように言うと、右穂から道を教えてもらったのか――地図を片手に、目的の場所へ向かって足早に行ってしまった。
「……あぁ、お前もな」
去りゆく彼女の後ろ姿を、祈りながら見送った――
…彼らの願いが叶う時、おそらく本当の救いがこの世界に訪れるのだろう。
そう信じて、俺達は搭乗橋の方へ向かった。
時たま出会う……おそらく港内から、この飛行艇に乗り込んできたと思われる狂った者達を始末しながらではあるが。
大人しく何処かで待っているのもありなのではないか…と、またもや頭を過ったのだが…この飛行艇内の何処で待ったとしても会えない気がしてくるのだから不思議だ。
――いや、不思議でもないか…この飛行艇はそういう構造なんだからな。
つい…遊び心というのは本当に怖いものですね、と心の中で珠雨先生に語りかけてしまったくらいだ。
しばらく宛もなく歩いていると、向かいの方から気配のあまり感じられない小さな足音が聞こえてきた。
途中、立ち止まっているのか…足音が途切れる事があるので、もしかすると迷っているのかもしれない――
……一体何者だ?
足音からして女性の可能性がある…ならば音瑠か、その母親が迷っているのか?
だが、彼女らはもう少ししっかりとした足音であったと思う。
――なので、彼女らではないだろう。
警戒すべきか、と考えたが俺の傍らにいる右穂はまったく警戒していなかった。
という事は、俺達の知人である可能性が――あぁ…そういえば、ひとりいたかもしれない。
気配が希薄で、小さな足音を響かせる知人が……
「…何故ここに?」
思わず出てしまった言葉に、ため息をついてしまった。
確か…あの出来事以降、零鳴国にいたんじゃなかったか?
そう思ったが、もしかすると応援の為に来たのかもしれない――呼んだのは、塑亜先生なのだろう。
右穂に目配せをした後、その知人のところへ向かう事にした。
案の定、地図を片手に首をかしげている小さな姿を見つけられたが…何故、冥国軍の軍帽を被ってるんだ?
わからない事は多いが、とりあえずそれはひとまず置いておくとして…何やら困っている様子の知人に声をかけた。
「…もしかしないでも――迷子か、紫麻?」
俺の言葉に一瞬ビクついた知人・紫麻は、軍帽の鍔を上げてこちらを確認する。
「ぁ…倉世、久しぶりー。じゃなくて、どうしたの?こんなところで…」
「いや、それはこっちの台詞だが……」
まさかの再会に驚いている俺と…あまり驚いた様子のない右穂に、紫麻は自分がこの飛行艇にやって来た理由を説明してくれた。
そして、これから彼女が向かおうとしている場所やその目的についても……
こうなってしまっては仕方ないだろう…と理解しているので、異論はないと頷いておいた。
図面は別の場所にあるのだから、気持ちは別として問題ないだろう……
「そうか、わかった…ならばコレを使え。コレさえあれば、ここではある程度の自由が利くだろう」
持っていた俺の身分証を渡しておく…もう、俺には不要なものだしな。
紫麻が『あの場所』に辿り着ければ、もう身分証を使わずとも済むのだから……
受け取った彼女は少し驚いたようだが、了承してくれたのか頷いてくれた。
――そして「そうだ」と呟き、こちらに向けて頭を下げる。
「倉世…珠雨の、この変な構造の飛行艇を最後まで使ってくれてありがとう」
「…あぁ。だが…変なだけじゃないんだぞ、この飛行艇は――」
妹のような存在に変だと言われるのは、さすがの珠雨先生でも落ち込んでしまう気がしたのでフォローしておいた。
いや…まぁ、あの構造で助かったところもあるので間違ってはいないと思うのだが。
「それじゃ、夕馬が待ちくたびれちゃうからもう行くね――貴方達が、世界から赦されますように…」
紫麻が少し寂しそうな表情を浮かべ祈るように言うと、右穂から道を教えてもらったのか――地図を片手に、目的の場所へ向かって足早に行ってしまった。
「……あぁ、お前もな」
去りゆく彼女の後ろ姿を、祈りながら見送った――
…彼らの願いが叶う時、おそらく本当の救いがこの世界に訪れるのだろう。
そう信じて、俺達は搭乗橋の方へ向かった。
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