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10話「贖罪の行方」
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「もちろんわかっているよ、はい」
「どうも…でもさ、私まともに射撃訓練した事ないんだけど?」
「大丈夫だよ、狙って撃てばいいだけだから。弾の入れ方は珠雨から教えてもらったよね?」
「まぁ…一応。夕馬のやり方も見てたから、ある程度はわかるけど――」
あまり自信ないなぁ、と呟いた紫麻は冬埜から銃と替えの弾を受け取った。
そんな彼女の様子に冬埜が苦笑しながら、聞こえないくらい小さな声で呟く。
「夕馬のを見たのか…もっと身近に、参考にできそうな者はいたはずなのにどうして――」
「…そう言ってやるな」
その言葉を聞き取ってしまった塑亜は、少しだけ夕馬の事を憐れんだ。
例え……やる事なす事めちゃくちゃなところがあったとしても、理不尽な怒りを向けられているのはさすがに不憫だと思ったらしい。
塑亜と同じく、その言葉が少しだけ聞こえてしまった紫麻は首をかしげた。
どうやら、この件について何も言わない方がいいだろうなと彼女は考えたようだ。
「――と、とりあえず…行ってくるね」
気を取り直した紫麻が、頼んだ手前心配そうな表情を浮かべる冬埜に声をかけた。
頷いて答えた冬埜に向けて手を振った彼女は、足早に駆けていく……
その小さな後ろ姿を不安そうに見送る冬埜に、塑亜は呆れながら声をかけた。
「そんなに心配なら、一緒に行ってやればよかったのでは…?」
「…四六時中一緒はダメだって、あの子に言われたんだよ。自分も少しはやれるんだ、信じてほしいって…そう言われたら、僕は何も言えないだろう」
小さく息をついた冬埜が答える。
僕としては、あの方のように守りたいのだけどね……と。
昔…九條も似たような事を言われてたな、と心の中で考えた塑亜は冬埜とこれからする計画の打ち合わせをはじめた。
――これから話し合う内容は、あまり面白い話でないのだから…彼女を理矩達のいる方へ向かわせたのは正解だろう。
ただ、少しだけ安全面は気になるだけだが……彼女を信じて、自分達がせねばならない事の準備をはじめるのだった。
(んーと…行きたくない雰囲気の方へ向かえばいいのはわかるんだけど、さっきから変な人多っ)
柱の陰に隠れながら紫麻はため息をついて、冬埜から貰った銃のスライドを引くと周囲を警戒する。
ここに来るまでの間、何人かの…彼女の言葉を借りるならば、変な人を撃ち倒してきたのだ。
(というか…つい、シミュレーションの時のように肩やって怯ませてからの頭……をやってしまったけど、いいのかな~?)
危険な状況ではあるものの、相手は変な状態だが人間である…なので、自分が何か罪深い事をやっているような気持ちになってしまったらしい。
しかし、そうでもしなければ自分の身が危ないし…もしもの時は、冬埜を道連れにしてしまうのだ。
そうなれば、九條の事を笑えない上に戻ってきた時に嫌味を言われるだろう…もちろん、冬埜が。
思考にふけっていた彼女が小さな物音に気づき、ゆっくり息を飲んでそちらへと意識を向けた。
物音の正体は、ふらふらと歩いて来た変な人で……どうやら、瀕死な状態らしく血だらけであった。
あれならば一撃で仕留められるだろう、外さなければ。
そう考えた紫麻はゆっくり深呼吸をしてから、身を隠していた柱から出る……と同時に構えて撃とうとした――のだが、その前に何者かが変な人を蹴り倒した上で首の骨を折ったのだ。
「うっわぁ…って、あれ?理矩じゃないですかー」
思わず目をつむった彼女が、その何者かの正体に気づいて声をかける。
その何者か――理矩は今しがた倒した人を床に置き、紫麻の方を向くと頭を下げた。
「…申し訳ありません、紫麻さん。今のは見なかった事に…」
「ぇ、いやいや…何、無かった事にしようとしてるのさ!しっかり殺ってるよねっ!?」
理矩の言葉にツッコミを入れた紫麻が、脱力したように肩を落とす…前に、手に持つ銃を床に落としてしまう。
それを慌てて拾った彼女は、それを理矩に差し出した。
「まぁ…うん、いいや。これ、理矩に渡しとく…代わりに使ってよ。私、なんか疲れたからさ」
「はい、わかりました…それでは、ついてきてください。向こうに知治達を待たせていますので…」
視線だけを知治達のいる方向に向ける理矩に、紫麻は頷いて答えた。
理矩の案内で、知治達の待っているという場所にやって来た紫麻は思わず額に手をあてる。
「…いっぱい狩りしたんだねぇ、と言えばいい?」
「むしろ、そこは見なかった方向でお願いします」
「いや、だから何で!?」
どうしても視界の端に映ってしまう亡骸の山を前に呟いた彼女の視界を、理矩は塞ぐように立つ…が、どうしても隠せきれていなかった。
ツッコミを入れながら、隠したい理由を少しだけわかっている紫麻はそれ以上理矩に訊ねるのを止め……骸の山近くにいる知治達の方へ視線をうつす。
そして…見知らぬ男の存在に気づき、首をかしげて理矩に訊ねた。
「…ねぇ、あの人誰?」
「あの方は杜詠という研究者で、塑亜様に簡易的な誓いをたてたようです」
理矩の簡潔な答えに、「ふーん」と納得した紫麻が杜詠を観察するように目を向ける。
――確かに、誓いをたてた気配はしている…例え、正式な形ではないとしても問題ないのだから。
なんなら後日、自分達の前で正式に誓いだてればいいだけだ。
彼女の視線に気づいた杜詠は、ゆっくりと近づいて紫麻と目線が合うように屈むと声をかける。
「こんにちは、私は杜詠…よろしくお願いします」
「…こんにちは、紫麻です。こちらこそ、よろしく?」
理矩の軍服を掴みながら、紫麻は挨拶の後に頭を下げた。
そして、ちらりと知治の顔を見て納得する…彼らの様子で、この人は怪しい人でないのがわかったからだ。
***
「どうも…でもさ、私まともに射撃訓練した事ないんだけど?」
「大丈夫だよ、狙って撃てばいいだけだから。弾の入れ方は珠雨から教えてもらったよね?」
「まぁ…一応。夕馬のやり方も見てたから、ある程度はわかるけど――」
あまり自信ないなぁ、と呟いた紫麻は冬埜から銃と替えの弾を受け取った。
そんな彼女の様子に冬埜が苦笑しながら、聞こえないくらい小さな声で呟く。
「夕馬のを見たのか…もっと身近に、参考にできそうな者はいたはずなのにどうして――」
「…そう言ってやるな」
その言葉を聞き取ってしまった塑亜は、少しだけ夕馬の事を憐れんだ。
例え……やる事なす事めちゃくちゃなところがあったとしても、理不尽な怒りを向けられているのはさすがに不憫だと思ったらしい。
塑亜と同じく、その言葉が少しだけ聞こえてしまった紫麻は首をかしげた。
どうやら、この件について何も言わない方がいいだろうなと彼女は考えたようだ。
「――と、とりあえず…行ってくるね」
気を取り直した紫麻が、頼んだ手前心配そうな表情を浮かべる冬埜に声をかけた。
頷いて答えた冬埜に向けて手を振った彼女は、足早に駆けていく……
その小さな後ろ姿を不安そうに見送る冬埜に、塑亜は呆れながら声をかけた。
「そんなに心配なら、一緒に行ってやればよかったのでは…?」
「…四六時中一緒はダメだって、あの子に言われたんだよ。自分も少しはやれるんだ、信じてほしいって…そう言われたら、僕は何も言えないだろう」
小さく息をついた冬埜が答える。
僕としては、あの方のように守りたいのだけどね……と。
昔…九條も似たような事を言われてたな、と心の中で考えた塑亜は冬埜とこれからする計画の打ち合わせをはじめた。
――これから話し合う内容は、あまり面白い話でないのだから…彼女を理矩達のいる方へ向かわせたのは正解だろう。
ただ、少しだけ安全面は気になるだけだが……彼女を信じて、自分達がせねばならない事の準備をはじめるのだった。
(んーと…行きたくない雰囲気の方へ向かえばいいのはわかるんだけど、さっきから変な人多っ)
柱の陰に隠れながら紫麻はため息をついて、冬埜から貰った銃のスライドを引くと周囲を警戒する。
ここに来るまでの間、何人かの…彼女の言葉を借りるならば、変な人を撃ち倒してきたのだ。
(というか…つい、シミュレーションの時のように肩やって怯ませてからの頭……をやってしまったけど、いいのかな~?)
危険な状況ではあるものの、相手は変な状態だが人間である…なので、自分が何か罪深い事をやっているような気持ちになってしまったらしい。
しかし、そうでもしなければ自分の身が危ないし…もしもの時は、冬埜を道連れにしてしまうのだ。
そうなれば、九條の事を笑えない上に戻ってきた時に嫌味を言われるだろう…もちろん、冬埜が。
思考にふけっていた彼女が小さな物音に気づき、ゆっくり息を飲んでそちらへと意識を向けた。
物音の正体は、ふらふらと歩いて来た変な人で……どうやら、瀕死な状態らしく血だらけであった。
あれならば一撃で仕留められるだろう、外さなければ。
そう考えた紫麻はゆっくり深呼吸をしてから、身を隠していた柱から出る……と同時に構えて撃とうとした――のだが、その前に何者かが変な人を蹴り倒した上で首の骨を折ったのだ。
「うっわぁ…って、あれ?理矩じゃないですかー」
思わず目をつむった彼女が、その何者かの正体に気づいて声をかける。
その何者か――理矩は今しがた倒した人を床に置き、紫麻の方を向くと頭を下げた。
「…申し訳ありません、紫麻さん。今のは見なかった事に…」
「ぇ、いやいや…何、無かった事にしようとしてるのさ!しっかり殺ってるよねっ!?」
理矩の言葉にツッコミを入れた紫麻が、脱力したように肩を落とす…前に、手に持つ銃を床に落としてしまう。
それを慌てて拾った彼女は、それを理矩に差し出した。
「まぁ…うん、いいや。これ、理矩に渡しとく…代わりに使ってよ。私、なんか疲れたからさ」
「はい、わかりました…それでは、ついてきてください。向こうに知治達を待たせていますので…」
視線だけを知治達のいる方向に向ける理矩に、紫麻は頷いて答えた。
理矩の案内で、知治達の待っているという場所にやって来た紫麻は思わず額に手をあてる。
「…いっぱい狩りしたんだねぇ、と言えばいい?」
「むしろ、そこは見なかった方向でお願いします」
「いや、だから何で!?」
どうしても視界の端に映ってしまう亡骸の山を前に呟いた彼女の視界を、理矩は塞ぐように立つ…が、どうしても隠せきれていなかった。
ツッコミを入れながら、隠したい理由を少しだけわかっている紫麻はそれ以上理矩に訊ねるのを止め……骸の山近くにいる知治達の方へ視線をうつす。
そして…見知らぬ男の存在に気づき、首をかしげて理矩に訊ねた。
「…ねぇ、あの人誰?」
「あの方は杜詠という研究者で、塑亜様に簡易的な誓いをたてたようです」
理矩の簡潔な答えに、「ふーん」と納得した紫麻が杜詠を観察するように目を向ける。
――確かに、誓いをたてた気配はしている…例え、正式な形ではないとしても問題ないのだから。
なんなら後日、自分達の前で正式に誓いだてればいいだけだ。
彼女の視線に気づいた杜詠は、ゆっくりと近づいて紫麻と目線が合うように屈むと声をかける。
「こんにちは、私は杜詠…よろしくお願いします」
「…こんにちは、紫麻です。こちらこそ、よろしく?」
理矩の軍服を掴みながら、紫麻は挨拶の後に頭を下げた。
そして、ちらりと知治の顔を見て納得する…彼らの様子で、この人は怪しい人でないのがわかったからだ。
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