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10話「贖罪の行方」
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『――ならさ…答え合わせしよう』
そう言った白季は、銃口をこちらに向けている。
白季が何故そのような行動にでたのか、まったくわからなかった。
答え合わせ…俺が思い出した内容次第で、銃撃してくるつもりなのだろうか?
なぁ、それはそれで酷くないか……?
それよりも、だ…走水を殺めたのは間違いなく白季と夕馬だ。
――気づいたんだろうな、走水が何者なのかを。
それを含めて、この2人は俺の言葉を待っているんだろうな……
覚悟を決めて口を開こうとした俺の様子に気づいた白季が、撃鉄を起こすと柔らかな笑みを浮かべた。
「ふふ、大丈夫だよ…そんなに怯えなくても、ね?」
そう言うが早いか、銃口を天井に向けて素早く引き金を引く。
銃声の後に、くぐもったようなうめき声が聞こえ――そして、静かになった…んだが、天井に空いた穴から何か滴ってきてるな。
床に落ちた赤い染みを眺めながら、右穂が抵抗をやめた理由を悟った。
「仕留めた、のか?」
もう、何度も色々と言いたくなる場面はあったが…それよりも先に、確認すべき事を訊ねる。
――というか、白季…よく相手の位置を確認しないで殺れたな。
白季は白煙をあげる銃を床にぽいと投げ捨て、満面の笑みで頷いた。
「勿論だよ。ヘタに話を聞かれて綺乃達に報告されたら、僕達みんな塑亜に絞められちゃうよ?」
「九條が今いなくてよかったよね!」と言い白季は笑っている…が、今回の事はいずれ九條の耳に入ると思うぞ。
俺と同じ考えに至ったのか、右穂も遠い目をしていた。
「あははは、まー…九條の、綺乃憎しのレベルが間違いなく上がるだろーな。それで、だ」
右穂を解放した夕馬が愉快そうに笑うと、視線をこちらに向ける――その表情は、何かを企んだ悪戯っ子のようだ。
「何で、九條は綺乃を憎んでいるか…覚えているか?」
夕馬の言葉に、俺はすぐに答えられなかった…九條が綺乃を憎んでいる理由?
その前に、九條とは誰だったか……それを思い出すのが先だ。
もう、頭痛はしなかった…多分、この記憶障害は一時的なものなんだろう。
九條――そうだ、彼は塑亜先生の師に当たる研究者だったはず。
では、何故…綺乃を?
それを考え、思い出そうとした俺の視界の端に一瞬だけ赤色が見えた。
まだ幼さを残した赤い少女――彼女が白季の隣に立っているような気がして、思わずそちらの方へ目を向ける。
だが、少女の姿はそこにはなく…きょとんとした表情の白季だけが立っていた。
見間違いか…と考えた瞬間、激しい痛みが頭に走る。
ふらつきはしなかったが、痛みのおかげで何があったのかを思い出せた。
「九條の生命を奪ったのが…綺乃達だったから、だろう?」
数年前…琴音を救う為の実験を行った際、綺乃とその部下達の妨害工作で研究所にあった実験室ひとつを吹っ飛ばす事故が起こった。
その時、あの子はもちろん被害を最小限に収めようとした九條と助手一名が死亡――他の研究者達は大怪我を負うという被害状況であったのだ。
俺と右穂も、九條の手伝いとして参加していたので被害にあったわけだが…調査をした塑亜先生と珠雨先生達に被害などを教えてもらい知った。
これで、九條の『綺乃憎し』の理由はわかった…そして、同時に琴音の言っていた言葉の意味も――
白季と夕馬がこの件について、まず訊ねてきた…という事は、だ。
「――あの、琴音がでてきた夢は…お前が見せてたんだな、白季」
「僕と琴音が、が正解。まだ本来のところに還ってなかったから、力添えしてもらったんだよ」
だって、忘れられたままは悲しいし…珠雨達との思い出も忘れられてるって、なんだかもう一度殺されたような気がしたんだ――そう答えた白季は、寂しそうに目を伏せた。
白季と夕馬にとって、珠雨は親のような存在だったしな…
九條達と違い、珠雨にはもう会えないのだから白季がそう考えてしまうのは無理もない。
――半分は同じでも、もう半分は違う…同じ時を過ごせても、生命を失ってしまえば彼らと違い終わりなんだ。
あぁ、そうだった…『〈神の血族〉に全てを押しつけ、その罪を忘却した後人のひとり――贖いの時を共に、世界に贖罪と救いとなる再生を』という誓いの言葉を、俺は忘れていたのか。
そう言った白季は、銃口をこちらに向けている。
白季が何故そのような行動にでたのか、まったくわからなかった。
答え合わせ…俺が思い出した内容次第で、銃撃してくるつもりなのだろうか?
なぁ、それはそれで酷くないか……?
それよりも、だ…走水を殺めたのは間違いなく白季と夕馬だ。
――気づいたんだろうな、走水が何者なのかを。
それを含めて、この2人は俺の言葉を待っているんだろうな……
覚悟を決めて口を開こうとした俺の様子に気づいた白季が、撃鉄を起こすと柔らかな笑みを浮かべた。
「ふふ、大丈夫だよ…そんなに怯えなくても、ね?」
そう言うが早いか、銃口を天井に向けて素早く引き金を引く。
銃声の後に、くぐもったようなうめき声が聞こえ――そして、静かになった…んだが、天井に空いた穴から何か滴ってきてるな。
床に落ちた赤い染みを眺めながら、右穂が抵抗をやめた理由を悟った。
「仕留めた、のか?」
もう、何度も色々と言いたくなる場面はあったが…それよりも先に、確認すべき事を訊ねる。
――というか、白季…よく相手の位置を確認しないで殺れたな。
白季は白煙をあげる銃を床にぽいと投げ捨て、満面の笑みで頷いた。
「勿論だよ。ヘタに話を聞かれて綺乃達に報告されたら、僕達みんな塑亜に絞められちゃうよ?」
「九條が今いなくてよかったよね!」と言い白季は笑っている…が、今回の事はいずれ九條の耳に入ると思うぞ。
俺と同じ考えに至ったのか、右穂も遠い目をしていた。
「あははは、まー…九條の、綺乃憎しのレベルが間違いなく上がるだろーな。それで、だ」
右穂を解放した夕馬が愉快そうに笑うと、視線をこちらに向ける――その表情は、何かを企んだ悪戯っ子のようだ。
「何で、九條は綺乃を憎んでいるか…覚えているか?」
夕馬の言葉に、俺はすぐに答えられなかった…九條が綺乃を憎んでいる理由?
その前に、九條とは誰だったか……それを思い出すのが先だ。
もう、頭痛はしなかった…多分、この記憶障害は一時的なものなんだろう。
九條――そうだ、彼は塑亜先生の師に当たる研究者だったはず。
では、何故…綺乃を?
それを考え、思い出そうとした俺の視界の端に一瞬だけ赤色が見えた。
まだ幼さを残した赤い少女――彼女が白季の隣に立っているような気がして、思わずそちらの方へ目を向ける。
だが、少女の姿はそこにはなく…きょとんとした表情の白季だけが立っていた。
見間違いか…と考えた瞬間、激しい痛みが頭に走る。
ふらつきはしなかったが、痛みのおかげで何があったのかを思い出せた。
「九條の生命を奪ったのが…綺乃達だったから、だろう?」
数年前…琴音を救う為の実験を行った際、綺乃とその部下達の妨害工作で研究所にあった実験室ひとつを吹っ飛ばす事故が起こった。
その時、あの子はもちろん被害を最小限に収めようとした九條と助手一名が死亡――他の研究者達は大怪我を負うという被害状況であったのだ。
俺と右穂も、九條の手伝いとして参加していたので被害にあったわけだが…調査をした塑亜先生と珠雨先生達に被害などを教えてもらい知った。
これで、九條の『綺乃憎し』の理由はわかった…そして、同時に琴音の言っていた言葉の意味も――
白季と夕馬がこの件について、まず訊ねてきた…という事は、だ。
「――あの、琴音がでてきた夢は…お前が見せてたんだな、白季」
「僕と琴音が、が正解。まだ本来のところに還ってなかったから、力添えしてもらったんだよ」
だって、忘れられたままは悲しいし…珠雨達との思い出も忘れられてるって、なんだかもう一度殺されたような気がしたんだ――そう答えた白季は、寂しそうに目を伏せた。
白季と夕馬にとって、珠雨は親のような存在だったしな…
九條達と違い、珠雨にはもう会えないのだから白季がそう考えてしまうのは無理もない。
――半分は同じでも、もう半分は違う…同じ時を過ごせても、生命を失ってしまえば彼らと違い終わりなんだ。
あぁ、そうだった…『〈神の血族〉に全てを押しつけ、その罪を忘却した後人のひとり――贖いの時を共に、世界に贖罪と救いとなる再生を』という誓いの言葉を、俺は忘れていたのか。
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