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9話「断罪の刃」
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「…まったく、とことん甘い奴らだ。私を殺さず行ってしまうとは…」
壁にもたれかかるように座り込んだ白衣の男は、ひとり愚痴るように呟いた。
彼の左肩と腹部からは血がにじんでおり、白衣を赤く染めている。
(…急所を外しているようだが、この出血量は少々まずいか)
腹部の出血をおさえていた自らの手を眺め、思わず苦笑した。
彼がこのような状況になってしまった理由は、今から数十分前に遡る……
銃を拾い上げた白衣の男が、対峙した2人の軍人へ向け引き金を引いたのだ。
しかし、一瞬早く引き金を引いたらしい栗色の髪の軍人に左肩を……赤茶色の髪の軍人に腹部を撃たれてしまった。
反対に、彼の撃った弾は栗色の髪の軍人の髪の毛をかすって壁に小さな穴を空けただけだ。
おそらく、赤茶色の髪の軍人は腹部ではなく…胸部を狙いたかったのだろうな、と考えた白衣の男は苦笑いを浮かべる。
(それにしても、研究データの入ったメモリーと本当の身分証を持っていかれてしまったので私も打つ手なしだ)
というのも、倒れた彼の白衣やズボンのポケットからそれらを見つけた2人が持っていってしまったのだ。
こうなってしまうと、自分の正体はもとより…何を目的にしていたのか表沙汰になるだろう。
…もはや、綺乃とも交渉どころではなくなった上に彼女から見れば自分はただの邪魔ものでしかなくなった。
そうなれば、遅かれ早かれ綺乃の手の者に消されるな、と考えた白衣の男は部屋に備え付けられているチェスト台の一番下の引き出しからタオルを取りだす。
(仕方ないが…こちらも引き上げるしかないか。倉世の言うとおり、何も入手できなかった事は残念で仕方ないが……)
タオルを使って腹部を止血すると、ゆっくり立ち上がり扉へ向かって歩きはじめ…るが、すぐに足を止めた。
「…っ!?」
扉の向こうから現れた人物を見た白衣の男は、思わず息を飲んだ……
***
まだ痛みの残る身体を引きずるように、こげ茶色の髪をした軍人の青年がひとり通路を歩いていた。
何処からか聞こえてきた何度目かの銃声に、軍人の青年は壁にもたれかかると息をつく。
(…一体、何が起こっているんだ?織葉様は亡くなられたというのに、何故……)
自分の与り知らぬ何かが起こっているのだろうか…
ならば、それは一体何だというのか?
やり場のない怒りで、もたれかかっている壁を力いっぱい殴りつけた。
もう、この飛行艇内に残っているのは自分の部下ではない……
おそらく夕馬の部下か、希衣沙と志を同じくする者達だけだろう。
そう考えた青年は、何もできずにいる無力な自分への怒りで唇の端を噛みしめる。
噛みしめた唇の端からは、うっすらと血がにじみ…わずかに血の味がしていた。
(ダメだ、このままでは……なんとか、何も知らぬ民間人だけでも脱出さなければっ)
一度目を閉じて大きく深呼吸した青年は、ゆっくりまぶたを開くと身体の痛みを悟られないよう行動する事を決める。
今、自分がなすべき事をなす為に……
飛行艇内に銃声が響き渡ったという事は、不測の事態が起こっているのだろう。
ラウンジにいる民間人であるあの親子を無事に港の方へ誘導しなければ、さらに危険な状況に巻き込んでしまう可能性もあるからだ。
港の方にいれば、先に脱出した自分の部下達に任せる事ができる……
もし会えなくとも、あの親子に生命の危機は訪れないはずだと青年は考えた。
――もう、助けられるはずの生命が失われるところは見たくなかった。
足早にラウンジを目指す彼の前に、面識ある人影が姿を現した。
壁にもたれかかるように座り込んだ白衣の男は、ひとり愚痴るように呟いた。
彼の左肩と腹部からは血がにじんでおり、白衣を赤く染めている。
(…急所を外しているようだが、この出血量は少々まずいか)
腹部の出血をおさえていた自らの手を眺め、思わず苦笑した。
彼がこのような状況になってしまった理由は、今から数十分前に遡る……
銃を拾い上げた白衣の男が、対峙した2人の軍人へ向け引き金を引いたのだ。
しかし、一瞬早く引き金を引いたらしい栗色の髪の軍人に左肩を……赤茶色の髪の軍人に腹部を撃たれてしまった。
反対に、彼の撃った弾は栗色の髪の軍人の髪の毛をかすって壁に小さな穴を空けただけだ。
おそらく、赤茶色の髪の軍人は腹部ではなく…胸部を狙いたかったのだろうな、と考えた白衣の男は苦笑いを浮かべる。
(それにしても、研究データの入ったメモリーと本当の身分証を持っていかれてしまったので私も打つ手なしだ)
というのも、倒れた彼の白衣やズボンのポケットからそれらを見つけた2人が持っていってしまったのだ。
こうなってしまうと、自分の正体はもとより…何を目的にしていたのか表沙汰になるだろう。
…もはや、綺乃とも交渉どころではなくなった上に彼女から見れば自分はただの邪魔ものでしかなくなった。
そうなれば、遅かれ早かれ綺乃の手の者に消されるな、と考えた白衣の男は部屋に備え付けられているチェスト台の一番下の引き出しからタオルを取りだす。
(仕方ないが…こちらも引き上げるしかないか。倉世の言うとおり、何も入手できなかった事は残念で仕方ないが……)
タオルを使って腹部を止血すると、ゆっくり立ち上がり扉へ向かって歩きはじめ…るが、すぐに足を止めた。
「…っ!?」
扉の向こうから現れた人物を見た白衣の男は、思わず息を飲んだ……
***
まだ痛みの残る身体を引きずるように、こげ茶色の髪をした軍人の青年がひとり通路を歩いていた。
何処からか聞こえてきた何度目かの銃声に、軍人の青年は壁にもたれかかると息をつく。
(…一体、何が起こっているんだ?織葉様は亡くなられたというのに、何故……)
自分の与り知らぬ何かが起こっているのだろうか…
ならば、それは一体何だというのか?
やり場のない怒りで、もたれかかっている壁を力いっぱい殴りつけた。
もう、この飛行艇内に残っているのは自分の部下ではない……
おそらく夕馬の部下か、希衣沙と志を同じくする者達だけだろう。
そう考えた青年は、何もできずにいる無力な自分への怒りで唇の端を噛みしめる。
噛みしめた唇の端からは、うっすらと血がにじみ…わずかに血の味がしていた。
(ダメだ、このままでは……なんとか、何も知らぬ民間人だけでも脱出さなければっ)
一度目を閉じて大きく深呼吸した青年は、ゆっくりまぶたを開くと身体の痛みを悟られないよう行動する事を決める。
今、自分がなすべき事をなす為に……
飛行艇内に銃声が響き渡ったという事は、不測の事態が起こっているのだろう。
ラウンジにいる民間人であるあの親子を無事に港の方へ誘導しなければ、さらに危険な状況に巻き込んでしまう可能性もあるからだ。
港の方にいれば、先に脱出した自分の部下達に任せる事ができる……
もし会えなくとも、あの親子に生命の危機は訪れないはずだと青年は考えた。
――もう、助けられるはずの生命が失われるところは見たくなかった。
足早にラウンジを目指す彼の前に、面識ある人影が姿を現した。
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