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8話「悪夢の果てに…」
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俺はゆっくりと目を閉じ、あの時に出していた答えを…そして、今の気持ちと一緒に伝える事にした。
「悪いが……あの時も今も、同じ気持ちでいる。答えは『否』だ…それに、あのような事態を引き起こしたお前を許す事はできない」
「そうか、残念だよ。まぁ…薄々と、そう答えるのではないかなと思っていたけどね」
少しだけ残念そうな表情を浮かべた走水が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
そして、白衣のポケットに手を入れたまま…デスクの上に置かれているパソコンへ視線を向けた。
「実は2度ほど、何者か…と言っても、何者かはわかっているのだけど。この、私のパソコンからデータを抜き取った者がいるようでね…」
――こいつは、突然何を話しはじめているんだ…?
俺と右穂は警戒をしつつも、走水の言葉に耳をかたむけた。
「そのおかげで、こちらの計画を少し変えないといけなくなってしまってね…どうやら、目的のものをひとつだけ諦めなければならないかもしれないんだよ」
走水の目的……それを思い出した俺は、上着のポケットから取りだした銃を走水へと向けた。
「…残念だったな、お前はそれを永遠に手に入れる事はできない。『狂人化させる薬』も、お前が望んでいた後ろ楯も…な。それに、記憶を失った俺にすべての罪を押しつけようと考えていたのかもしれないが…そうはいかない」
「ははは、押しつける…?人聞きの悪い事を言う…私は、お前に押しつけようなどと考えていなかったよ。それは私ではなく、『彼ら』の方がそれを計画したんだ」
走水は言葉を続ける――『彼ら』も、また自分と同じものを欲しているのだ……と。
自分の正体と目的を知られた為、仕方なく『彼ら』と取引したのだ…とも言っていたな。
その取引の内容が一体何なのか、なんとなくではあるが記憶のない俺でも予想できる。
…先ほど、走水はこうも言っていた――パソコンからデータを抜き取った者がいるようだ、と。
おそらく、そのデータを抜き取ったのがこいつの言う『彼ら』でそれら込みの取引を持ちかけられたのだろう。
…そのデータというのは、『狂人化させる薬』に関連したものなんだろうが――
「はぁ、まったく…どいつもこいつも、本当に――」
――何もかも、準備のいい事だな……
苦笑している俺の、無意識に出た言葉を聞いた走水が不思議そうな表情で首をかしげた。
おそらく、俺が事件の真相に近づきつつあるとは思っていないだろうな……
だから、俺は…どうしてもこいつに確認しておかなければならない事を訊ねた。
「罪を押しつけるつもりがないのは、わかったが…いつ使用したのか知らないが、織葉様に『薬』を投与したのはお前だな?」
「ん?あぁ……その件ならば、最初は私でないよ。あの場にいただろう、あの女も……」
――あの女とは、誰の事だろうか?
俺がわからないでいる事に気づいた走水は、苦笑しながら教えてくれた。
「…綺乃だよ。あの女は、私が被験者達に投与するよりも前にいくつか盗み出し…そして、郊外で療養中であったこの国の第五妃に投与したんだよ。それが、『彼ら』によるデモンストレーションのつもりだったようだからね」
あぁ、やはりそういう事だったか……
走水の話を聞いて、ようやく絡まっていた糸のひとつが解けたような気がした。
「そうか…だから、綺乃は――」
綺乃とは、七弥と同じ主に仕える研究者の女性だ。
確かに、あの日――綺乃も、あの研究所にいた。
しかし…襲撃事件が起こった時、すでにその姿は何処にもなかったのだ。
という事は、だ――あの事件が起こる少し前に……誰もいない隙に、厳重に保管されていた『薬』を盗み出したという事か。
そして、それを織葉様に投与した…と。
しかし、こいつ…走水は、こうも言っていたな。
――その件ならば、最初は私でないよ。
つまり、こいつは2度目…織葉様を完全に狂わせた張本人だという事になる。
自分でそれを認める言い方しているので、間違いないだろう……
もうひとつの問題……襲撃者は何者だったのか、という事だ。
走水の言葉すべてを信じるならば、手引きしたのは綺乃だろうな。
だが、一体何の為に…だ?
それに何故、あの街に七弥もいたのだろうか?
大体、この飛行艇を動かした理由は何だ…これより良い飛行艇は、玖苑の港にいくらでもあっただろうに。
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「悪いが……あの時も今も、同じ気持ちでいる。答えは『否』だ…それに、あのような事態を引き起こしたお前を許す事はできない」
「そうか、残念だよ。まぁ…薄々と、そう答えるのではないかなと思っていたけどね」
少しだけ残念そうな表情を浮かべた走水が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
そして、白衣のポケットに手を入れたまま…デスクの上に置かれているパソコンへ視線を向けた。
「実は2度ほど、何者か…と言っても、何者かはわかっているのだけど。この、私のパソコンからデータを抜き取った者がいるようでね…」
――こいつは、突然何を話しはじめているんだ…?
俺と右穂は警戒をしつつも、走水の言葉に耳をかたむけた。
「そのおかげで、こちらの計画を少し変えないといけなくなってしまってね…どうやら、目的のものをひとつだけ諦めなければならないかもしれないんだよ」
走水の目的……それを思い出した俺は、上着のポケットから取りだした銃を走水へと向けた。
「…残念だったな、お前はそれを永遠に手に入れる事はできない。『狂人化させる薬』も、お前が望んでいた後ろ楯も…な。それに、記憶を失った俺にすべての罪を押しつけようと考えていたのかもしれないが…そうはいかない」
「ははは、押しつける…?人聞きの悪い事を言う…私は、お前に押しつけようなどと考えていなかったよ。それは私ではなく、『彼ら』の方がそれを計画したんだ」
走水は言葉を続ける――『彼ら』も、また自分と同じものを欲しているのだ……と。
自分の正体と目的を知られた為、仕方なく『彼ら』と取引したのだ…とも言っていたな。
その取引の内容が一体何なのか、なんとなくではあるが記憶のない俺でも予想できる。
…先ほど、走水はこうも言っていた――パソコンからデータを抜き取った者がいるようだ、と。
おそらく、そのデータを抜き取ったのがこいつの言う『彼ら』でそれら込みの取引を持ちかけられたのだろう。
…そのデータというのは、『狂人化させる薬』に関連したものなんだろうが――
「はぁ、まったく…どいつもこいつも、本当に――」
――何もかも、準備のいい事だな……
苦笑している俺の、無意識に出た言葉を聞いた走水が不思議そうな表情で首をかしげた。
おそらく、俺が事件の真相に近づきつつあるとは思っていないだろうな……
だから、俺は…どうしてもこいつに確認しておかなければならない事を訊ねた。
「罪を押しつけるつもりがないのは、わかったが…いつ使用したのか知らないが、織葉様に『薬』を投与したのはお前だな?」
「ん?あぁ……その件ならば、最初は私でないよ。あの場にいただろう、あの女も……」
――あの女とは、誰の事だろうか?
俺がわからないでいる事に気づいた走水は、苦笑しながら教えてくれた。
「…綺乃だよ。あの女は、私が被験者達に投与するよりも前にいくつか盗み出し…そして、郊外で療養中であったこの国の第五妃に投与したんだよ。それが、『彼ら』によるデモンストレーションのつもりだったようだからね」
あぁ、やはりそういう事だったか……
走水の話を聞いて、ようやく絡まっていた糸のひとつが解けたような気がした。
「そうか…だから、綺乃は――」
綺乃とは、七弥と同じ主に仕える研究者の女性だ。
確かに、あの日――綺乃も、あの研究所にいた。
しかし…襲撃事件が起こった時、すでにその姿は何処にもなかったのだ。
という事は、だ――あの事件が起こる少し前に……誰もいない隙に、厳重に保管されていた『薬』を盗み出したという事か。
そして、それを織葉様に投与した…と。
しかし、こいつ…走水は、こうも言っていたな。
――その件ならば、最初は私でないよ。
つまり、こいつは2度目…織葉様を完全に狂わせた張本人だという事になる。
自分でそれを認める言い方しているので、間違いないだろう……
もうひとつの問題……襲撃者は何者だったのか、という事だ。
走水の言葉すべてを信じるならば、手引きしたのは綺乃だろうな。
だが、一体何の為に…だ?
それに何故、あの街に七弥もいたのだろうか?
大体、この飛行艇を動かした理由は何だ…これより良い飛行艇は、玖苑の港にいくらでもあっただろうに。
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