堕ちし記憶の森は

雪原るい

文字の大きさ
上 下
50 / 140
7話「死の宴への招待状」

しおりを挟む
とりあえず、ひと通り狂った軍人達を倒した後……銃に新たな弾を込めた塑亜そあ先生が、それを俺に手渡そうとする。

「新たに『薬』を使ったアホがいるだろう?爆発に乗じて、失敗作をこの港に撒いたらしい。狂ってしまった被害者には悪いが、もう助けられん…これでひと思いにやってやれ」
「………」

少し受け取るのに躊躇した俺に、塑亜そあ先生はさらに言葉を重ねた。

「言っておくが…新たに作られた『薬』の詳細な情報データはこちらにない。その資料を持っている奴らは、まだ飛行艇内にいる…つまり、わかるよな?」

――もし助けたければ、その資料を持つ者を探し出せ…という事だろう。
時間はかかるかもしれないが、先生達ならば何とかできるのではないだろうか。

ため息をついた塑亜そあ先生が、俺の手に銃と替えの弾が入った箱を握らせる。
そして、右穂うすいに視線を向けて顎で飛行艇の方向を指した。

「とりあえず、ここは俺達が何とかする…お前達は、もう戻った方がいいだろう?あぁ、そうだ。ついでに……」

俺の肩に手を置いた塑亜そあ先生は、声を潜めて囁く。

「暴発を装って、夕馬ゆうまに一発当ててもいい…というか、やれ。俺が許可する」
「ぇ…」

…とりあえず、塑亜そあ先生が夕馬ゆうまに対して殺意というか――すごく怒っているらしい。
しかし、教え子に…何恐ろしい事を頼んでいるんだ、この教師は。
というか…夕馬ゆうまは、また何をしたんだ?

ふと右穂うすいを見てみると、近くにいた軍人から銃と弾を受け取ると上着の内ポケットにしまっていた。
…まぁ、そこの方が見つかりにくいよな。
俺も右穂うすいに倣って、同じように銃と弾をしまっておく。

曖昧に塑亜そあ先生には返事をし、右穂うすいと共に飛行艇へ戻る事にした。
この場に長くいては、自由に行動をしている事を七弥ななやに気づかれるかもしれないからな……

あいつに気づかれる前に飛行艇へ戻る為、搭乗橋に戻ってきた。
ところどころ焦げてボロボロになった搭乗橋を再び通りながら…あの爆発でよく全壊しなかったものだ、と改めて感心してしまった。
こっそりと飛行艇内に戻り、まだ気を失っているらしい軍人達を避けてから左側の通路に向けて歩きだす。
――そして、こっそりと逃げ込んだ先の部屋に戻った。

「はぁ…」

思わず俺がため息をつくと、右穂うすいが首をかしげる。

「どうかなされましたか、倉世くらせ様?」
「いや…」

まぁ、短時間に色々あったから…とは言えなかった。
そういえば『新たに作られたものがある』と、塑亜そあ先生が言っていたな。
確かに、港内で使われたものは新たに作られた失敗作のようだった。
――新たに作られたのは、港内で使われた失敗作だけなのか?
まさか、あの男………

確か、『薬』の研究再開をあの男が提案してきたんだったな。
俺は参加するつもりはなかった…もちろん、珠雨しゅう先生や白季しらきだって――

「…っ」

そこまで考えた瞬間、またあの鈍い痛みが頭を襲ってきた。
右穂うすいが心配そうに、今にも倒れそうな状態の俺を椅子に座らせた。
何度か、ゆっくり呼吸をし落ち着いてきたところで…突然、部屋の外で何か鈍い音が聞こえてくる。
――それも、重みのある何かが壁にぶつかるような鈍い音が。

部屋の外を警戒する右穂うすいは、そっとドアに近づくと静かに鍵を閉めた。
そして、未だに浅い呼吸を繰り返している俺のそばに戻ってくると囁く。

倉世くらせ様…しばし、お静かに」

口に指をあてた右穂うすいは気配をできるだけ押し殺すように、と言った。
意味は分からない、が…何か危険な気配がしているようだ。
それが一体何なのか……その時はわからなかったが、すぐ後になってわかった。
――新たに作られた『薬』の効果と、塑亜そあ先生が言っていた「助けられない」の意味も一緒に。

通路では気がついたらしい十数人の軍人達や七弥ななやの声……
そして、ラウンジで俺を襲ってきた『あの女性』の笑い声が聞こえてきた。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】元悪役令嬢の劣化コピーは白銀の竜とひっそり静かに暮らしたい

豆田 ✿ 麦
恋愛
 才色兼備の公爵令嬢は、幼き頃から王太子の婚約者。  才に溺れず、分け隔てなく、慈愛に満ちて臣民問わず慕われて。  奇抜に思える発想は公爵領のみならず、王国の経済を潤し民の生活を豊かにさせて。  ―――今では押しも押されもせぬ王妃殿下。そんな王妃殿下を伯母にもつ私は、王妃殿下の模倣品(劣化コピー)。偉大な王妃殿下に倣えと、王太子の婚約者として日々切磋琢磨させられています。  ほら、本日もこのように……  「シャルロット・マクドゥエル公爵令嬢!身分を笠にきた所業の数々、もはや王太子たる私、エドワード・サザンランドの婚約者としてふさわしいものではない。今この時をもってこの婚約を破棄とする!」  ……課題が与えられました。  ■■■  本編全8話完結済み。番外編公開中。  乙女ゲームも悪役令嬢要素もちょっとだけ。花をそえる程度です。  小説家になろうにも掲載しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...