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5話「歯車の狂いし淑女」
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「いたた…やはり、杜詠殿に診てもらえばよかったか。いや…そもそも、あの時に悪化したのかも――」
ラウンジの隅で、壁に手をついた状態で濃い紫色の髪をした男は小さく呟いた。
男の、その呟きに答えたのは……
「…人のせいにするのは感心しないな、希依沙」
「これはこれは、七弥殿」
その声に聞き覚えがあった濃い紫色の髪をした男・希依沙は、壁から手を離して振り返る。
そこには、腕を組んだ七弥が立っていた。
肩の痛みを隠すように、希依沙は口元に笑みを浮かべて口を開く。
「どうかされましたか?」
「…お前に、いくつか訊きたい事があってな」
そう言うと、七弥は顎で通路に出るように指した。
そして、そのままラウンジを出る七弥の後ろを希依沙は不審げについて行く。
ラウンジから通路に出ると七弥はすぐに希依沙の腕を強く引き、胸ぐらを掴んで勢いよく通路の壁へと打ち付けた。
あまりの衝撃に、希依沙は苦しげに呻き声をあげる。
だが、七弥は気にとめず…掴む手の力を弱めずに訊ねた。
「お前は、一体何がしたい…?あの場で皆をパニックを引き起こすような真似をし…その上、裏で何をしている?夕馬――秘密警察が動いているぞ」
「な、何を…って?」
息苦しそうに希衣沙が聞き返すが、それでも七弥は力を緩めず…さらに力を込める。
「知るか!だが、夕馬はすべてを知っているようだった。お前は誰に命じられ、何をしようとしているっ!?」
「…っ」
「七弥隊長、何をしているんだっ!!」
苦しげな状態の希衣沙と七弥を引き離したのは、異変に気づいた杜詠だった。
七弥から解放された希衣沙は壁に寄りかかり、何度も咳き込んでいる。
引き離された際、少しよろめいただけの七弥は希衣沙の、その様子を冷たく見下ろしているだけだ。
ため息をついた杜詠は希衣沙を診て、大丈夫そうなのを確認してから七弥に目を向ける。
「…七弥隊長、何があった?」
「ただ話をしていただけですよ、杜詠殿」
ちらりと杜詠の方を向いた七弥であったが、すぐに希衣沙の方へ視線を戻した。
感情のない…冷めた視線を感じながらも、咳き込む希衣沙は黙ったままである。
そんな、ただならぬ雰囲気の中…杜詠がもう一度ため息をついた。
「はぁ…七弥隊長、希衣沙殿。ここでは人目がある、場所を変えたらいかがかな?」
「そうだな…希衣沙、こ――」
七弥がそう言い終わらぬ内に、何処からか…小さな着信音が聞こえてきた。
この場にいる七弥と杜詠は、不思議そうに首をかしげて辺りを見回す――ただ、ひとりを除いて。
「…はい。いえ、大丈夫です…わかりました」
通信機を出した希衣沙が力なく答え、ゆっくりと立ち上がった。
そして、通信機をしまうと大きく息をつく。
「七弥隊長、申し訳ないですが…別用ができましたので、これで失礼します」
希衣沙は頭を下げると、そのまま何処かへ向かって行ってしまった。
それを思わず見送ってしまった七弥だったが、慌てて我に返る。
「っ…何なんだ、あいつは!!」
「一体、どうしたんだ?七弥隊長…」
もはや、状況が理解できていない杜詠は怒りをあらわにしている七弥に訊ねた。
七弥は怒りでこぶしをふるわせながら、説明すべきか悩んだ様子で口を開く。
「…詳しくは言えませんが、今回の件でどうやら秘密警察が動いているようなんです」
「秘密警察が?まさか…」
驚いた声を上げた杜詠は、顎に手を当てて考え込んでしまった。
ゆっくりと首を横にふった七弥が、力なく言う。
「わかりません…ですが、夕馬殿がこの飛行艇に乗っていましたので間違いないです」
「秘密警察の隊長、直々に…か。大変な状況が重なるものだな…」
杜詠の言葉に、頷き返して苦笑した七弥は頭を下げると立ち去った。
残された杜詠は、苦笑しながら独り言のように呟く。
「まったく…夕馬隊長には、困ったものだな」
***
ラウンジの隅で、壁に手をついた状態で濃い紫色の髪をした男は小さく呟いた。
男の、その呟きに答えたのは……
「…人のせいにするのは感心しないな、希依沙」
「これはこれは、七弥殿」
その声に聞き覚えがあった濃い紫色の髪をした男・希依沙は、壁から手を離して振り返る。
そこには、腕を組んだ七弥が立っていた。
肩の痛みを隠すように、希依沙は口元に笑みを浮かべて口を開く。
「どうかされましたか?」
「…お前に、いくつか訊きたい事があってな」
そう言うと、七弥は顎で通路に出るように指した。
そして、そのままラウンジを出る七弥の後ろを希依沙は不審げについて行く。
ラウンジから通路に出ると七弥はすぐに希依沙の腕を強く引き、胸ぐらを掴んで勢いよく通路の壁へと打ち付けた。
あまりの衝撃に、希依沙は苦しげに呻き声をあげる。
だが、七弥は気にとめず…掴む手の力を弱めずに訊ねた。
「お前は、一体何がしたい…?あの場で皆をパニックを引き起こすような真似をし…その上、裏で何をしている?夕馬――秘密警察が動いているぞ」
「な、何を…って?」
息苦しそうに希衣沙が聞き返すが、それでも七弥は力を緩めず…さらに力を込める。
「知るか!だが、夕馬はすべてを知っているようだった。お前は誰に命じられ、何をしようとしているっ!?」
「…っ」
「七弥隊長、何をしているんだっ!!」
苦しげな状態の希衣沙と七弥を引き離したのは、異変に気づいた杜詠だった。
七弥から解放された希衣沙は壁に寄りかかり、何度も咳き込んでいる。
引き離された際、少しよろめいただけの七弥は希衣沙の、その様子を冷たく見下ろしているだけだ。
ため息をついた杜詠は希衣沙を診て、大丈夫そうなのを確認してから七弥に目を向ける。
「…七弥隊長、何があった?」
「ただ話をしていただけですよ、杜詠殿」
ちらりと杜詠の方を向いた七弥であったが、すぐに希衣沙の方へ視線を戻した。
感情のない…冷めた視線を感じながらも、咳き込む希衣沙は黙ったままである。
そんな、ただならぬ雰囲気の中…杜詠がもう一度ため息をついた。
「はぁ…七弥隊長、希衣沙殿。ここでは人目がある、場所を変えたらいかがかな?」
「そうだな…希衣沙、こ――」
七弥がそう言い終わらぬ内に、何処からか…小さな着信音が聞こえてきた。
この場にいる七弥と杜詠は、不思議そうに首をかしげて辺りを見回す――ただ、ひとりを除いて。
「…はい。いえ、大丈夫です…わかりました」
通信機を出した希衣沙が力なく答え、ゆっくりと立ち上がった。
そして、通信機をしまうと大きく息をつく。
「七弥隊長、申し訳ないですが…別用ができましたので、これで失礼します」
希衣沙は頭を下げると、そのまま何処かへ向かって行ってしまった。
それを思わず見送ってしまった七弥だったが、慌てて我に返る。
「っ…何なんだ、あいつは!!」
「一体、どうしたんだ?七弥隊長…」
もはや、状況が理解できていない杜詠は怒りをあらわにしている七弥に訊ねた。
七弥は怒りでこぶしをふるわせながら、説明すべきか悩んだ様子で口を開く。
「…詳しくは言えませんが、今回の件でどうやら秘密警察が動いているようなんです」
「秘密警察が?まさか…」
驚いた声を上げた杜詠は、顎に手を当てて考え込んでしまった。
ゆっくりと首を横にふった七弥が、力なく言う。
「わかりません…ですが、夕馬殿がこの飛行艇に乗っていましたので間違いないです」
「秘密警察の隊長、直々に…か。大変な状況が重なるものだな…」
杜詠の言葉に、頷き返して苦笑した七弥は頭を下げると立ち去った。
残された杜詠は、苦笑しながら独り言のように呟く。
「まったく…夕馬隊長には、困ったものだな」
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