堕ちし記憶の森は

雪原るい

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5話「歯車の狂いし淑女」

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「…だから、つまりアルカロイドを合成した――で、幻覚や錯乱状態を……」

飛行艇の隠された部屋…そこで、白衣の男が白金色の髪の青年にちょっとした講義のようなものをやっていた。
講義を受けている形の青年は、それを興味なさげに聞いている。
ふと手元にある資料に目を向けて、とりあえず質問をした。

「えーと…つまり、幻覚作用や錯乱状態を抑えて…尚且つ、今の効果を維持させるって事かな?走水そうすい博士」
「まぁ…簡単に言えば、そういう事だね。さすが、珠雨しゅう教授の愛弟子である白季しらきくんだ」

白金色の髪の青年・白季しらきの質問に、白衣の男・走水そうすいが満足そうににっこりと微笑んだ。
反対に…すでに、30分近く話を聞かされていた白季しらきはうんざりとしたようにため息をついた。

(…なーんか、やっぱりムカつくんだよなぁ~)

そんな事を考えながら、白季しらき走水そうすいが出した資料を眺める。

「…で、それを完成させる為に必要なものはあるの?」
「いくつかは、研究室にあったので持ち出したが…」

そう言うと、走水そうすいは一番下の大きな引き出しからいくつかの薬瓶を出した。
白季しらきは、テーブルに並べられていく薬瓶と資料とを交互に確認して苦笑する。

「……ちゃっかりしているよね、本当に。持ち出した事…本当だったら、あの所長が怒るところだよ」
「確かに怒るだろうが、もう怒れない…すでに君も知っているとおり、彼は七弥ななや殿の命で殺されてしまったのだから」

肩をすくめた走水そうすいが、机に置かれたパソコンを操作した。
操作している彼のそばに来た白季しらきは、その画面を見て愕然とした。

「こ、れは…?」
「どういうわけか、綺乃あやのが『これ』をメールと一緒に送ってきた。あの時に、何がおこなわれたのか…をね」

苦笑した走水そうすいは、言葉を続ける。

「私を動揺させようと思ったのだろうけどね…」
「…………」

そこに写っていたのは――に侵入した軍人達が、次々と白衣を着た人々や警備していた軍人達などを殺害していく場面であった。
その施設が、何処なのかを知る白季しらきは何も言えず…その様子を静かに、悲しげに見ている。

「…そっか。こんなものを撮ってたんだね、綺乃あやのは」

――綺乃あやのの目的は、今の段階ではわからない。
だが、おそらく…あの事件が起こる前に、予期した綺乃あやのがカメラを仕掛けていたのかもしれない。
そして、すべてを何処からか見ていて録画したものを走水そうすいに送ってきたのだろう。

…それに気づいた白季しらきは怒りをこらえながら、静かに走水そうすいに訊ねた。

「ところで…これ、七弥ななやには見せたの?」
「…いや、これを七弥ななや殿に見せたら――あの場にいて、生き残った我々が危険にさらされてしまうだろう?」

首を横にふった走水そうすいは、パソコンの画面に映し出されている映像を止めて消した。
走水そうすいの言葉に、白季しらきは何も答えず…ただ静かに、テーブルの上に置かれた書類と薬瓶に目を向ける。

(…そっか。初めから、すべて仕組まれていたんだね…それを知っていた綺乃あやのは、カメラを仕掛けて逃げたんだ)

――あの人、信用したらダメよ。

いつだったか…『ある少女』が綺乃あやのを見て、そう言った。
本人を目の前にして言った少女に、白季しらきは思わず慌てたものだが……

――そんな事を思い出し、苦笑する。

(ふふっ…全部、の言うとおりだったね)

「…ん?どうしたのかな?」

ぼんやりとしている白季しらきに気づき、不思議そうに走水そうすいが声をかける。
その声に、はっと気がついた白季しらきは首を横にふる。

「ぁ…ううん、何でもないよ…」

そう答えた白季しらきは、自分のカバンからきれいに折り畳まれた白衣を取り出した。
そして、今着ている上着を脱いで水色シャツの襟を直すと、白衣を羽織る。

「――さぁ…さっさとはじめようか、走水そうすい博士?」
「いいだろう……」

やる気になっている白季しらきの様子に、走水そうすいは口元に笑みを浮かべて頷いた。


***
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