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5話「歯車の狂いし淑女」
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「…いない?何処へ行ったんだ?」
ラウンジへとやって来た七弥は、首をかしげて呟いた。
倉世を探してラウンジへとやって来たのだが、肝心の倉世は白季の部屋にいるのだからラウンジにいるわけがない。
それを知らない七弥は、ラウンジ内を見回してため息をついた。
「…あと、いそうなところは?」
胸ポケットから地図を出して、七弥はもう一度ため息をつく。
急きょ、この飛行艇を使った為…七弥自身、この飛行艇内すべてを把握しているわけではないのだ。
その上、この飛行艇の構造を熟知しているだろう右穂はあまり協力的でなかった。
おそらく、わざと教えてくれなかったのだろうが。
(――どうしたものか…)
ラウンジを出た七弥は、困ったように窓の外を眺めた。
もはや、途方に暮れているようにさえ見える状態だ。
(…こうなったら、誰に何と言われようと――草の根をかき分けるようにして、探しださなければいけないか)
もう…こうなると、意地である。
密かにそんな決意をし、七弥が振り返ると…すぐ後ろの壁にもたれかかるようにして、帽子を目深に被った軍人がひとり立っていた。
それに気づき驚いた七弥だったが、平然を装いながら声をかける。
「まさか…何故、この飛行艇に…?」
「何故?当り前だろう…護衛対象者が、ここに乗っているのだから。まさか、俺達に気づかれないよう何か…と言っても、俺達には何もかもバレバレだけどな。七弥殿?」
帽子を被った軍人は小さく笑うと、帽子の鍔を少し上げた。
口元だけは笑っているが、その目はまったく笑ってはいない。
その事に気づいた七弥は相手から目を逸らさず、ゆっくりと息を呑んだ。
今、目の前にいる帽子を被った軍人には見覚えがあった。
(…秘密警察隊の夕馬隊長が、『あの街』にいたのか。しかし、一体何故…?)
帽子を被った軍人・夕馬――彼は秘密警察隊のトップにいる男だ。
この男が、どのような任務に就いているのか…当たり前だが、七弥であっても知る事はできない。
…おそらく、この飛行艇に乗っている内通者――それは夕馬の部隊の事だろうな、と理解した。
彼らならば……七弥が秘密裏に事を進めようとも、いとも簡単に情報を入手できてしまうだろう。
それに気づけなかった七弥は、内心で舌打ちした。
「で、夕馬殿はどのようなご用が私に…?」
「用、って程じゃねーけどな。七弥殿は、一体どうするつもりなのか…と、思ってね」
壁にもたれかかったまま、夕馬は言葉を続ける。
「希衣沙は、どうあってもあっち優先…あんたの命令を守るつもりはない。右穂が制裁を加えても、考えを変えなかったようだし…だから、どーすんのかな~と思ってな」
「…希衣沙の件は、すべてが終わってから何らかの処分を…と考えておりますが。まさか、そちらで彼を拘束するつもりですか?」
訝しげな七弥は、目の前に立つ夕馬を見た。
そんな七弥の様子を、夕馬はおかしそうに笑う。
「いーや、あのバカひとりを捕まえたところで何にもならないし。前々から、目障りではあるが…な」
「…だったら、私に改めて確認する必要はありませんよね?」
笑っている夕馬の様子に、七弥は苛立ちを隠さずに訊ねた。
「本当の、用件は何ですか?」
「んー…今回、お前がやった事の確認をしに――後、今回の件の『生き証人』をこちらに引き渡してもらおうかな~、と考えてな」
浮かべていた笑みを消した夕馬が無表情なまま、七弥に目を向ける。
七弥も無言で、夕馬の様子をうかがっていたが…やがて、小さく息をついて首を横にふった。
「…お断りします。証人の身の安全を守る事が『我が主』の命、故にそちらに引き渡す事はできません」
「ははは…だよなー。まぁ、少しでも穏便に済ませようと…俺が、勝手に考えただけだしな。んじゃ、こっちはこっちで自由にさせてもらおうかな…」
苛立ちを隠していない七弥の様子に、夕馬は笑みを浮かべたまま去っていった。
残された七弥は、ただ静かに夕馬の後ろ姿を見ているだけだ。
(夕馬…何を企んでいるんだ、一体?その前に、希衣沙を先に探さないといけなくなったか…くそっ)
探し人がひとり増えた事に、思わずため息をついた七弥だが、先に探していた人物より探しやすいと考え直してラウンジへ戻った。
それは先ほど、ラウンジで肩をおさえる人影が視界の片隅にあったのを思い出したからだ。
***
ラウンジへとやって来た七弥は、首をかしげて呟いた。
倉世を探してラウンジへとやって来たのだが、肝心の倉世は白季の部屋にいるのだからラウンジにいるわけがない。
それを知らない七弥は、ラウンジ内を見回してため息をついた。
「…あと、いそうなところは?」
胸ポケットから地図を出して、七弥はもう一度ため息をつく。
急きょ、この飛行艇を使った為…七弥自身、この飛行艇内すべてを把握しているわけではないのだ。
その上、この飛行艇の構造を熟知しているだろう右穂はあまり協力的でなかった。
おそらく、わざと教えてくれなかったのだろうが。
(――どうしたものか…)
ラウンジを出た七弥は、困ったように窓の外を眺めた。
もはや、途方に暮れているようにさえ見える状態だ。
(…こうなったら、誰に何と言われようと――草の根をかき分けるようにして、探しださなければいけないか)
もう…こうなると、意地である。
密かにそんな決意をし、七弥が振り返ると…すぐ後ろの壁にもたれかかるようにして、帽子を目深に被った軍人がひとり立っていた。
それに気づき驚いた七弥だったが、平然を装いながら声をかける。
「まさか…何故、この飛行艇に…?」
「何故?当り前だろう…護衛対象者が、ここに乗っているのだから。まさか、俺達に気づかれないよう何か…と言っても、俺達には何もかもバレバレだけどな。七弥殿?」
帽子を被った軍人は小さく笑うと、帽子の鍔を少し上げた。
口元だけは笑っているが、その目はまったく笑ってはいない。
その事に気づいた七弥は相手から目を逸らさず、ゆっくりと息を呑んだ。
今、目の前にいる帽子を被った軍人には見覚えがあった。
(…秘密警察隊の夕馬隊長が、『あの街』にいたのか。しかし、一体何故…?)
帽子を被った軍人・夕馬――彼は秘密警察隊のトップにいる男だ。
この男が、どのような任務に就いているのか…当たり前だが、七弥であっても知る事はできない。
…おそらく、この飛行艇に乗っている内通者――それは夕馬の部隊の事だろうな、と理解した。
彼らならば……七弥が秘密裏に事を進めようとも、いとも簡単に情報を入手できてしまうだろう。
それに気づけなかった七弥は、内心で舌打ちした。
「で、夕馬殿はどのようなご用が私に…?」
「用、って程じゃねーけどな。七弥殿は、一体どうするつもりなのか…と、思ってね」
壁にもたれかかったまま、夕馬は言葉を続ける。
「希衣沙は、どうあってもあっち優先…あんたの命令を守るつもりはない。右穂が制裁を加えても、考えを変えなかったようだし…だから、どーすんのかな~と思ってな」
「…希衣沙の件は、すべてが終わってから何らかの処分を…と考えておりますが。まさか、そちらで彼を拘束するつもりですか?」
訝しげな七弥は、目の前に立つ夕馬を見た。
そんな七弥の様子を、夕馬はおかしそうに笑う。
「いーや、あのバカひとりを捕まえたところで何にもならないし。前々から、目障りではあるが…な」
「…だったら、私に改めて確認する必要はありませんよね?」
笑っている夕馬の様子に、七弥は苛立ちを隠さずに訊ねた。
「本当の、用件は何ですか?」
「んー…今回、お前がやった事の確認をしに――後、今回の件の『生き証人』をこちらに引き渡してもらおうかな~、と考えてな」
浮かべていた笑みを消した夕馬が無表情なまま、七弥に目を向ける。
七弥も無言で、夕馬の様子をうかがっていたが…やがて、小さく息をついて首を横にふった。
「…お断りします。証人の身の安全を守る事が『我が主』の命、故にそちらに引き渡す事はできません」
「ははは…だよなー。まぁ、少しでも穏便に済ませようと…俺が、勝手に考えただけだしな。んじゃ、こっちはこっちで自由にさせてもらおうかな…」
苛立ちを隠していない七弥の様子に、夕馬は笑みを浮かべたまま去っていった。
残された七弥は、ただ静かに夕馬の後ろ姿を見ているだけだ。
(夕馬…何を企んでいるんだ、一体?その前に、希衣沙を先に探さないといけなくなったか…くそっ)
探し人がひとり増えた事に、思わずため息をついた七弥だが、先に探していた人物より探しやすいと考え直してラウンジへ戻った。
それは先ほど、ラウンジで肩をおさえる人影が視界の片隅にあったのを思い出したからだ。
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