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5話「歯車の狂いし淑女」
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――ここは、何処かの部屋…確か、学舎の…教室だったか?
そこで、俺は自分の席で本を読んでいる……
ふと気がつくと、目の前に赤い少女が白季と手を繋いで立っていた。
『…懐かれても困るんだけどね』
『………』
困り果てている白季を、赤い少女が無言で見上げている。
俺は、その様子を苦笑しながら言った。
『いいんじゃないか?兄妹みたいで…それに、お前にすごく懐いているし』
『…えー、そうかな。でも、この子が…倉世のところに来たがったんだよ?だから、僕的には君に一番懐いてる気がするんだけど?』
そう答えると、白季が赤い少女に目を向けた。
赤い少女も静かに白季を見つめている――まるで、何かを訴えかけているかのように。
…考えてみれば、俺はこの赤い少女が喋っているところを見た事がなかった。
それどころか…他の誰とも、会話しているところを見た事がない。
ただ…白季だけとは、何度も会話をしているようだったが――
『でもね、倉世…は、君が好きなんだよ…ねぇ?』
白季が微笑んで、俺と赤い少女を交互に見る。
――……うん?
今、白季が赤い少女の名前を言ったはずなんだが…聞きとれなかった。
この時、俺は確かに…この赤い少女の名前を聞いていたし――そもそも、彼女の名前を知っていたはずだ。
なのに、どうして……
不意に、赤い少女がこちらを向いた。
『………』
彼女は何も言わず、静かに見つめている。
確か、この時――この赤い少女は、こちらを一度も向かなかったはず……
無反応な様子に、白季が苦笑しながら俺の隣の席の椅子に座らせていたはずだ。
驚きながら赤い少女の様子を観察していると、少女はゆっくりと口を開いた。
「…ねぇ、思い出して。あなたが…あなた達が犯した罪を――そして、私達の事を」
「な、何を言って…?」
初めて聞いた少女の声は、今までよりはっきりと聞こえた……
その瞬間、辺りにノイズが走りはじめる。
教室を、窓辺に立つ白季を、赤い少女を巻き込みながら。
辺りは真っ暗になり、そして……
「っ…夢、だったのか?」
目が覚めると、そこは――白季に割り当てられた部屋だった。
熱のせいで汗をびっしょりとかいてしまい、気持ちが悪い。
起き上がると、不思議と身体はだるくなかった。
こんなに汗をかいたのだから、身体がだるくなっていそうなのにな。
シャツの第一ボタンを外して、ゆっくりと辺りに目を向けていると右穂が部屋に戻ってきた…その手に、タオルや着替えを持って。
「あぁ…倉世様、お目覚めでしたか?すみません、遅くなりました」
「いや、さっき目が覚めたところだ。こういう時、十紀がいれば…体調の相談ができそうなのにな」
苦笑した俺を、右穂が驚いたように見ている。
……何か、変な事でも言ってしまったのだろうか?
右穂は、ゆっくりと手に持つタオルや着替えを机に置いた。
「…倉世様、もしかして思い出されたのですかっ!?」
すかさず、右穂に思いっきり肩を掴まれた。
力が入っているからか…少々、痛い。
とりあえず、右穂を落ち着かせ…まったく思い出してはいない事を告げる。
「…期待させたようで、すまない」
「いえ…ご学友である十紀さんの名前を口にされたので、思い出されたのかと…」
右穂の話によると、十紀というのは学舎で共に学んだ俺の同級生らしい。
その人物の名を、先ほど無意識に口にしたようだ。
…あの夢のせいだろうか?
だが、あの夢に出てきたのは白季と……
俺は右穂からタオルと着替えを受け取ると、夢に出てきた少女について訊ねてみた。
夢の中で、彼女が言った言葉を伏せて――
「…赤い少女なんだが、何か知らないか?」
「赤い…少女、ですか?」
右穂は困惑した表情を浮かべたが、赤い少女について話してくれた。
赤い服を着た少女――この少女の名は、『琴音』というそうだ。
彼女の名は、白季が名づけたらしい。
――実験体であるこの少女の名を、他の人間達は誰も呼ぼうとしなかったそうだが……
赤い少女・琴音は『とある実験』で生まれ、亡くなったのだという。
その事が、彼女の言う『罪』なのだろうか?
白季ならば、琴音について…そして、その実験の詳細を知っているはずだ。
――あの子は…アイツに一番懐いていたのだから。
俺は着替えを済ませると、右穂に白季の居場所を訊ねた。
おそらく…俺が気を失った後から、この部屋にはいなかっただろう。
――アイツは、いつも自由なのだから。
そう、俺が小さく呟くと…右穂はまた驚いた表情を浮かべ、苦笑しながら頷いた。
「…そうですね。あの方は自由にしておられますが、本当の意味での自由はないようなものなんですよ……」
右穂は俺に聞こえるか、聞こえないかの小さな声で呟いた。
思わず聞き返したが、右穂は笑ってごまかすと白季の居場所に案内すると言った。
***
そこで、俺は自分の席で本を読んでいる……
ふと気がつくと、目の前に赤い少女が白季と手を繋いで立っていた。
『…懐かれても困るんだけどね』
『………』
困り果てている白季を、赤い少女が無言で見上げている。
俺は、その様子を苦笑しながら言った。
『いいんじゃないか?兄妹みたいで…それに、お前にすごく懐いているし』
『…えー、そうかな。でも、この子が…倉世のところに来たがったんだよ?だから、僕的には君に一番懐いてる気がするんだけど?』
そう答えると、白季が赤い少女に目を向けた。
赤い少女も静かに白季を見つめている――まるで、何かを訴えかけているかのように。
…考えてみれば、俺はこの赤い少女が喋っているところを見た事がなかった。
それどころか…他の誰とも、会話しているところを見た事がない。
ただ…白季だけとは、何度も会話をしているようだったが――
『でもね、倉世…は、君が好きなんだよ…ねぇ?』
白季が微笑んで、俺と赤い少女を交互に見る。
――……うん?
今、白季が赤い少女の名前を言ったはずなんだが…聞きとれなかった。
この時、俺は確かに…この赤い少女の名前を聞いていたし――そもそも、彼女の名前を知っていたはずだ。
なのに、どうして……
不意に、赤い少女がこちらを向いた。
『………』
彼女は何も言わず、静かに見つめている。
確か、この時――この赤い少女は、こちらを一度も向かなかったはず……
無反応な様子に、白季が苦笑しながら俺の隣の席の椅子に座らせていたはずだ。
驚きながら赤い少女の様子を観察していると、少女はゆっくりと口を開いた。
「…ねぇ、思い出して。あなたが…あなた達が犯した罪を――そして、私達の事を」
「な、何を言って…?」
初めて聞いた少女の声は、今までよりはっきりと聞こえた……
その瞬間、辺りにノイズが走りはじめる。
教室を、窓辺に立つ白季を、赤い少女を巻き込みながら。
辺りは真っ暗になり、そして……
「っ…夢、だったのか?」
目が覚めると、そこは――白季に割り当てられた部屋だった。
熱のせいで汗をびっしょりとかいてしまい、気持ちが悪い。
起き上がると、不思議と身体はだるくなかった。
こんなに汗をかいたのだから、身体がだるくなっていそうなのにな。
シャツの第一ボタンを外して、ゆっくりと辺りに目を向けていると右穂が部屋に戻ってきた…その手に、タオルや着替えを持って。
「あぁ…倉世様、お目覚めでしたか?すみません、遅くなりました」
「いや、さっき目が覚めたところだ。こういう時、十紀がいれば…体調の相談ができそうなのにな」
苦笑した俺を、右穂が驚いたように見ている。
……何か、変な事でも言ってしまったのだろうか?
右穂は、ゆっくりと手に持つタオルや着替えを机に置いた。
「…倉世様、もしかして思い出されたのですかっ!?」
すかさず、右穂に思いっきり肩を掴まれた。
力が入っているからか…少々、痛い。
とりあえず、右穂を落ち着かせ…まったく思い出してはいない事を告げる。
「…期待させたようで、すまない」
「いえ…ご学友である十紀さんの名前を口にされたので、思い出されたのかと…」
右穂の話によると、十紀というのは学舎で共に学んだ俺の同級生らしい。
その人物の名を、先ほど無意識に口にしたようだ。
…あの夢のせいだろうか?
だが、あの夢に出てきたのは白季と……
俺は右穂からタオルと着替えを受け取ると、夢に出てきた少女について訊ねてみた。
夢の中で、彼女が言った言葉を伏せて――
「…赤い少女なんだが、何か知らないか?」
「赤い…少女、ですか?」
右穂は困惑した表情を浮かべたが、赤い少女について話してくれた。
赤い服を着た少女――この少女の名は、『琴音』というそうだ。
彼女の名は、白季が名づけたらしい。
――実験体であるこの少女の名を、他の人間達は誰も呼ぼうとしなかったそうだが……
赤い少女・琴音は『とある実験』で生まれ、亡くなったのだという。
その事が、彼女の言う『罪』なのだろうか?
白季ならば、琴音について…そして、その実験の詳細を知っているはずだ。
――あの子は…アイツに一番懐いていたのだから。
俺は着替えを済ませると、右穂に白季の居場所を訊ねた。
おそらく…俺が気を失った後から、この部屋にはいなかっただろう。
――アイツは、いつも自由なのだから。
そう、俺が小さく呟くと…右穂はまた驚いた表情を浮かべ、苦笑しながら頷いた。
「…そうですね。あの方は自由にしておられますが、本当の意味での自由はないようなものなんですよ……」
右穂は俺に聞こえるか、聞こえないかの小さな声で呟いた。
思わず聞き返したが、右穂は笑ってごまかすと白季の居場所に案内すると言った。
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