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3話「憎しみと悲しみと裏切りと…」
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「――そういえばさ、倉世」
白季が何かを思い出したように、手をたたくと言葉を続けた。
「何か…昔の事とか、思い出した?」
「いや、まったく何も――」
…確かに、俺の記憶に関する何かがあの紙には書かれていた。
だが、それらが失われた記憶を呼び覚ますきっかけにはならなかったようだ……
おそらく、白季は何か思い出すきっかけになったのではないか…と考えたのだろう。
――思い出してはいないが、襲われた時に感じた事を白季に話しておこうと思った。
この時、何故かわからないが……白季にだけは話した方がいいような気がしたんだ。
「襲われた時、何か…わからないが、罪悪感のようなものを感じた」
「………そっか」
俺の話を静かに聞いていた白季は、一瞬だけ表情を消した…が、すぐにいつものやわらかな笑みに戻った。
そして、白季は腕を伸ばすと俺の頭を軽く撫でる。
「――別に…君が悪いわけじゃないんだから、さ。気に病む必要はないのに……」
「だが…」
俺の言葉に、白季は首を横にふる。
「倉世、ダメだよ?そんな後ろ向きな考えでいては、ね」
「…白季」
真剣な顔つきの白季に、俺は何も言えなくなった。
おそらく、白季なりに励まそうとしてくれたんだろう……
俺が頷くと、白季はにっこりと微笑んだ。
(あぁ…そうだ)
先ほどの公表時に聞いた紫鴉博士について白季に訊ねてみようと考えた。
俺の知らない…いや、覚えていないだけだが――他の皆は、その人物について知っているような様子だったしな。
「白季…少しいいか?」
「ん?何、倉世?」
首をかしげている白季が、きょとんとした表情でこちらを見ている。
俺は少し声のトーンを落とすと、白季に訊ねてみた。
「紫鴉博士…についてなんだが、何か知らないか?」
「…紫鴉博士の事?」
俺の質問に、少し困ったような様子で白季は答えてくれた。
「うーん、そうだなぁ…この国の研究者で――でも、公の場には絶対に出てこない人…かな」
「…つまり、名前だけ知られているのか……」
――公の場には絶対に姿を現さない研究者か。
わかりやすいような、わかりにくいような…?
だが、おそらく一般人の白季が知り得る範囲の内容なのだろうな。
白季の説明を聞き、納得しかけていたのだが…白季は、こう言葉を続けた。
「――だけど、七弥の命を受けた軍人達に殺されてしまったようだけどね」
「……何?」
一瞬だが、俺は自分の耳を疑ってしまった。
――七弥が命じて、紫鴉博士を殺した?
白季は今、そう言った。
どういう事だ?
それは――命じた、という事は七弥が紫鴉博士を暗殺したのか?
「…白季は、どうしてそれを――その現場を見たのか?」
殺されてしまった、と白季は言った。
それは、誰も知らなかった事だ。
希衣沙も、それだけは言わなかった……
――ならば、どうやって白季はその情報を得たのか。
その答えは、2つしか考えられない。
現場を目撃したか…誰かが情報を白季に漏らしたか、だ。
七弥の様子からして、誰かが情報を漏らした可能性は低いだろう……
アイツの命令に背いた希衣沙でさえも、この件だけは言わなかったのだから。
…となれば、答えはひとつしかない。
「……実は、ね――」
俺の質問に、白季は頷くと苦笑しながら答えた。
「…学舎に提出する課題をすっかり忘れていてね、玖苑にある医院へ行っていたんだよ」
「医院…?あぁ、そうか…白季は医学生だったな……」
少し忘れていたが…そういえば、白季が医学生だと七弥が教えてくれたんだったな。
俺の呟きに、白季は笑いながら頷いた。
「そう、医学生……で、玖苑の医院に課題で必要なものを貰った帰りに…ね」
「そうだったのか……」
この事実を誰も知らない、という事は秘密裏に行われたんだろう。
そして、おそらく白季自身も危険に巻き込まれそうになったはずだ……
「…紫鴉博士が亡くなったとなると、俺との関係性がますますわからなくなってしまったな」
希衣沙が読んだあれに書かれていた内容についてを、紫鴉博士に会って訊ねれば失われた記憶の手がかりになるかもしれないと思ったのだが……
俺の心情に気づいたのか、白季は困ったような表情を浮かべて俯いてしまった。
もしかすると、紫鴉博士を助けられなかった事を悔やんでいるのだろうか…?
白季が何かを思い出したように、手をたたくと言葉を続けた。
「何か…昔の事とか、思い出した?」
「いや、まったく何も――」
…確かに、俺の記憶に関する何かがあの紙には書かれていた。
だが、それらが失われた記憶を呼び覚ますきっかけにはならなかったようだ……
おそらく、白季は何か思い出すきっかけになったのではないか…と考えたのだろう。
――思い出してはいないが、襲われた時に感じた事を白季に話しておこうと思った。
この時、何故かわからないが……白季にだけは話した方がいいような気がしたんだ。
「襲われた時、何か…わからないが、罪悪感のようなものを感じた」
「………そっか」
俺の話を静かに聞いていた白季は、一瞬だけ表情を消した…が、すぐにいつものやわらかな笑みに戻った。
そして、白季は腕を伸ばすと俺の頭を軽く撫でる。
「――別に…君が悪いわけじゃないんだから、さ。気に病む必要はないのに……」
「だが…」
俺の言葉に、白季は首を横にふる。
「倉世、ダメだよ?そんな後ろ向きな考えでいては、ね」
「…白季」
真剣な顔つきの白季に、俺は何も言えなくなった。
おそらく、白季なりに励まそうとしてくれたんだろう……
俺が頷くと、白季はにっこりと微笑んだ。
(あぁ…そうだ)
先ほどの公表時に聞いた紫鴉博士について白季に訊ねてみようと考えた。
俺の知らない…いや、覚えていないだけだが――他の皆は、その人物について知っているような様子だったしな。
「白季…少しいいか?」
「ん?何、倉世?」
首をかしげている白季が、きょとんとした表情でこちらを見ている。
俺は少し声のトーンを落とすと、白季に訊ねてみた。
「紫鴉博士…についてなんだが、何か知らないか?」
「…紫鴉博士の事?」
俺の質問に、少し困ったような様子で白季は答えてくれた。
「うーん、そうだなぁ…この国の研究者で――でも、公の場には絶対に出てこない人…かな」
「…つまり、名前だけ知られているのか……」
――公の場には絶対に姿を現さない研究者か。
わかりやすいような、わかりにくいような…?
だが、おそらく一般人の白季が知り得る範囲の内容なのだろうな。
白季の説明を聞き、納得しかけていたのだが…白季は、こう言葉を続けた。
「――だけど、七弥の命を受けた軍人達に殺されてしまったようだけどね」
「……何?」
一瞬だが、俺は自分の耳を疑ってしまった。
――七弥が命じて、紫鴉博士を殺した?
白季は今、そう言った。
どういう事だ?
それは――命じた、という事は七弥が紫鴉博士を暗殺したのか?
「…白季は、どうしてそれを――その現場を見たのか?」
殺されてしまった、と白季は言った。
それは、誰も知らなかった事だ。
希衣沙も、それだけは言わなかった……
――ならば、どうやって白季はその情報を得たのか。
その答えは、2つしか考えられない。
現場を目撃したか…誰かが情報を白季に漏らしたか、だ。
七弥の様子からして、誰かが情報を漏らした可能性は低いだろう……
アイツの命令に背いた希衣沙でさえも、この件だけは言わなかったのだから。
…となれば、答えはひとつしかない。
「……実は、ね――」
俺の質問に、白季は頷くと苦笑しながら答えた。
「…学舎に提出する課題をすっかり忘れていてね、玖苑にある医院へ行っていたんだよ」
「医院…?あぁ、そうか…白季は医学生だったな……」
少し忘れていたが…そういえば、白季が医学生だと七弥が教えてくれたんだったな。
俺の呟きに、白季は笑いながら頷いた。
「そう、医学生……で、玖苑の医院に課題で必要なものを貰った帰りに…ね」
「そうだったのか……」
この事実を誰も知らない、という事は秘密裏に行われたんだろう。
そして、おそらく白季自身も危険に巻き込まれそうになったはずだ……
「…紫鴉博士が亡くなったとなると、俺との関係性がますますわからなくなってしまったな」
希衣沙が読んだあれに書かれていた内容についてを、紫鴉博士に会って訊ねれば失われた記憶の手がかりになるかもしれないと思ったのだが……
俺の心情に気づいたのか、白季は困ったような表情を浮かべて俯いてしまった。
もしかすると、紫鴉博士を助けられなかった事を悔やんでいるのだろうか…?
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