5 / 140
1話「目覚めの悪夢」
5
しおりを挟む
「――これから話す内容を、絶対に覚えろ…」
そう言った七弥が、俺に名簿のようなものを渡してきた。
「これは……?」
名簿を指しながら、七弥に訊ねる。
俺の質問攻めにも慣れてきたのか…七弥は、さほど表情を変えずに名簿のようなものについて話しだす。
七弥曰く…――この名簿のようなものは、この船に乗っている者達の名を記してあるらしい。
ただ…乗っている軍人達の名前は省いてある、とも言っていたな。
この船に乗っている者達は、俺と同じく…公には死亡した事になっているのだという――
パラパラと名簿を確認してみると、その中に俺の名前があるのに気づいた。
七弥もそれに気づき、俺の肩に手を置く。
「お前の名前は、ついでに書いておいた。その方が報告書を出す時に楽だからな…」
「……ついでかよ!だが、報告書にする際は…もう一度書かないとならないのではな――」
「要は…報告書を受け取った上が、その事実さえ知らなければ問題はあるまい?誰かがしゃべらなければ…事実は闇の中だ」
そう言った七弥が、にやりと笑う……
つまり、俺は何も知らなかった…聞かなかった事にすれば、この名簿をそのまま使用しても問題ない――という事だろう。
この静かなる脅しに、俺は小さく頷いておいた。
多分、記憶を失う前の俺は七弥に随分な目にあわされていたんだろうな……
…自分で自分が、少しだけ気の毒に思えた。
「――で、これから話す内容だが…この生存者達について、だ。まずは…そうだな、名簿の上から順に説明するか」
「あぁ…よろしく頼む」
名簿を上から順に指しながら、七弥の説明がはじめる…
織葉という女性は、3歳になる一人息子を『あの事件』で失い…現在は、精神的に不安定になっているらしい。
正気を失っており誰彼かまわず襲ってくるので気をつけろ、という事だった。
次に…樟菜という女性についてで、彼女は娘の音瑠と共にこの船に乗っているそうだ。
娘の音瑠は、彼女曰く――親子共に俺の知り合いで、『あの事件』で婚約者を失ったのだという。
俺の部分は省かれた…が、その次に医者の杜詠――彼は、この医務室の主でもあるらしい。
今は、不安定な織葉の世話をメインに頼んでいるのだそうだ。
最後は…この医務室に来た――白季は、学舎に通う医学生だと言っていたらしい。
学舎とは国立紫要学園の事を指しており、俗称としてそう呼ばれているようだ。
…記憶のない俺でもわかりやすいように説明してくれた七弥は、ひと息ついた。
「…ここまでで、何か質問は?」
「……樟菜と音瑠の親子だが、俺の知り合いなのか?」
彼女達の名前を聞いても、何も思い出せない事を告げると…七弥は少し考え込んだ後に口を開いた。
「――確か、随分前に親戚だとお前から聞いた事がある…母親の樟菜が、年の離れた従姉の夫の伯母だと………」
「親戚、なのか……?それは……何だか、遠いな」
「まぁ、血の繋がりは間違いなく無さそうだがな」
「それはそうだろうな……」
俺は小さく頷いて、七弥に同意する。
だが、まぁ…遠い親戚が無事なのには安心したが――
***
そう言った七弥が、俺に名簿のようなものを渡してきた。
「これは……?」
名簿を指しながら、七弥に訊ねる。
俺の質問攻めにも慣れてきたのか…七弥は、さほど表情を変えずに名簿のようなものについて話しだす。
七弥曰く…――この名簿のようなものは、この船に乗っている者達の名を記してあるらしい。
ただ…乗っている軍人達の名前は省いてある、とも言っていたな。
この船に乗っている者達は、俺と同じく…公には死亡した事になっているのだという――
パラパラと名簿を確認してみると、その中に俺の名前があるのに気づいた。
七弥もそれに気づき、俺の肩に手を置く。
「お前の名前は、ついでに書いておいた。その方が報告書を出す時に楽だからな…」
「……ついでかよ!だが、報告書にする際は…もう一度書かないとならないのではな――」
「要は…報告書を受け取った上が、その事実さえ知らなければ問題はあるまい?誰かがしゃべらなければ…事実は闇の中だ」
そう言った七弥が、にやりと笑う……
つまり、俺は何も知らなかった…聞かなかった事にすれば、この名簿をそのまま使用しても問題ない――という事だろう。
この静かなる脅しに、俺は小さく頷いておいた。
多分、記憶を失う前の俺は七弥に随分な目にあわされていたんだろうな……
…自分で自分が、少しだけ気の毒に思えた。
「――で、これから話す内容だが…この生存者達について、だ。まずは…そうだな、名簿の上から順に説明するか」
「あぁ…よろしく頼む」
名簿を上から順に指しながら、七弥の説明がはじめる…
織葉という女性は、3歳になる一人息子を『あの事件』で失い…現在は、精神的に不安定になっているらしい。
正気を失っており誰彼かまわず襲ってくるので気をつけろ、という事だった。
次に…樟菜という女性についてで、彼女は娘の音瑠と共にこの船に乗っているそうだ。
娘の音瑠は、彼女曰く――親子共に俺の知り合いで、『あの事件』で婚約者を失ったのだという。
俺の部分は省かれた…が、その次に医者の杜詠――彼は、この医務室の主でもあるらしい。
今は、不安定な織葉の世話をメインに頼んでいるのだそうだ。
最後は…この医務室に来た――白季は、学舎に通う医学生だと言っていたらしい。
学舎とは国立紫要学園の事を指しており、俗称としてそう呼ばれているようだ。
…記憶のない俺でもわかりやすいように説明してくれた七弥は、ひと息ついた。
「…ここまでで、何か質問は?」
「……樟菜と音瑠の親子だが、俺の知り合いなのか?」
彼女達の名前を聞いても、何も思い出せない事を告げると…七弥は少し考え込んだ後に口を開いた。
「――確か、随分前に親戚だとお前から聞いた事がある…母親の樟菜が、年の離れた従姉の夫の伯母だと………」
「親戚、なのか……?それは……何だか、遠いな」
「まぁ、血の繋がりは間違いなく無さそうだがな」
「それはそうだろうな……」
俺は小さく頷いて、七弥に同意する。
だが、まぁ…遠い親戚が無事なのには安心したが――
***
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
うたかた夢曲
雪原るい
ファンタジー
昔、人と人ならざる者達との争いがあった。
それを治めたのは、3人の英雄だった…――
時は流れ――真実が偽りとなり、偽りが真実に変わる…
遥か昔の約束は、歪められ伝えられていった。
――果たして、偽りを真実にしたものは何だったのか…
誰が誰と交わした約束なのか…
これは、人と人ならざる闇の者達が織りなす物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『妖煌吸血鬼シリーズ』の1作目です。
[章分け]
・一章「迷いの記憶」1~7話(予定)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる