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1話「目覚めの悪夢」
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ガチャ……
ドアを開ける音がし、七弥が戻ってきた。
「………?倉世、どうしたんだ?」
「…………」
七弥が声をかけてきたらしい――が、俺は白季の言葉を考え込んでいた為まったく気づかなかった。
…バシッ!!
「っ!!?」
突然、何か軽いもので後頭部を叩かれた。
振り返ると、バインダーを手に持つ七弥の姿があり…その顔は無表情だが、微かに怒っているのはわかった。
俺は後頭部をおさえながら、七弥を軽く睨んだ。
「な、何するんだ?」
「何……?お前がぼーっとして、俺の話を無視しているからだろう?前々から言おうと思っていたんだが…お前はひとつの事柄について考え込むと、周りが見えなくなるんだ。気をつけろ」
ついで、といった感じで七弥は俺の頬をつねる。
「い、いひゃい…っ離せ!」
「これで、身体で覚える事ができただろう?よかったな」
七弥は不気味なほどいい笑みを浮かべていた。
「よくないわ!なぁ………」
俺は七弥に、白季が言っていた事を問おうかと考えた。
……だが、それを訊ねるのは少し怖かった。
親友だと言ったコイツが、俺の死を望んでいると――思いたくなかった。
「?何だ……?」
いつまでも何も言わない俺に、七弥は不思議そうに首をかしげていた。
「……いや、何でもない」
俺はゆっくり首を横にふり、何も訊かないでおく事にした。
周りの様子――七弥の真意を確かめるまでは…何も訊かないでおいた方がいいだろう、と思ったからだ。
「…………」
納得いかない様子の七弥は、ふと薬品棚の方に目を向けて首をかしげた。
「……俺がいない間、誰かここに来たのか?」
そう言いながら、七弥が薬品棚の戸を開けて確かめている。
…確か、そこは白季がいじっていた気がするな……
その事を七弥に伝えるべきか悩んだが、黙っていれば何をされるかわからない。
――よくわからないが、そんな危機感を感じた。
「……さっき、見舞い人が来た」
俺がそう答えると、七弥の動きは止まる。
そして、こちらを向くと低い声で訊ねてきた。
「…誰が来た?ここには、誰も近づけないよう…入れないようにしているはずなのだが――」
「それは知らないが……白季という、俺の友人だという奴が来た」
「白季……?」
顎に手をあてた七弥は、何やら考え込んでしまった。
何かおかしな事でも言っただろうか…
「――そうか、ならばこちらの調査に漏れがあったのかもしれないな……」
「………は?」
その言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。
七弥は一瞬だけ『しまった』というような表情を浮かべたが、諦めたように話はじめる。
「……現在、お前は当局の監視下にあり――故に、お前の交友関係も調査されている。ついでに言うと、だな…俺も監視下に置かれているようなものだ。お前と親友だという理由でな……」
「…何故だ?俺が、あの事件と関わりがあるからか……?」
その時――俺は、七弥に見せられた号外新聞を思い出した。
「そうか、お前まで……すまない」
俺のせいで、友人知人すべてに迷惑をかけている…――
当の俺は記憶を失い、何も覚えていないというのに……
「…気にするな。お前とは、長い付き合いだからな……」
苦笑した七弥が、俺の肩をたたく。
「それよりも、早く記憶を取り戻す事だけを考えろ…このままでは、俺の仕事に影響する」
「仕事………?」
『仕事』と聞いた俺は、ふと白季が言っていた言葉を思い出した。
――七弥は、君に死んでほしいと思っているのだから……
…………俺を殺す準備を、か?
さすがに…そうとは訊けない――と言うより、自ら墓穴を掘っている感じになってしまう。
ならば、あえて普通に訊ねた方がいいよな。
「ところで、だが…お前の仕事って、何だ?」
「……ん?最初に言っただろ――お前を護衛する事が、今の俺の仕事だ」
七弥の、あまりにも普通の答えに…俺は思わず拍子抜けしてしまった。
まぁ、『お前を殺すのが仕事だ』的なことを言われても困るわけだが………
「…何を期待してたんだ、お前は……」
俺が拍子抜けしている様子を見た七弥は、まだ手に持っていたらしいバインダーで再び俺の頭を叩いた。
***
ドアを開ける音がし、七弥が戻ってきた。
「………?倉世、どうしたんだ?」
「…………」
七弥が声をかけてきたらしい――が、俺は白季の言葉を考え込んでいた為まったく気づかなかった。
…バシッ!!
「っ!!?」
突然、何か軽いもので後頭部を叩かれた。
振り返ると、バインダーを手に持つ七弥の姿があり…その顔は無表情だが、微かに怒っているのはわかった。
俺は後頭部をおさえながら、七弥を軽く睨んだ。
「な、何するんだ?」
「何……?お前がぼーっとして、俺の話を無視しているからだろう?前々から言おうと思っていたんだが…お前はひとつの事柄について考え込むと、周りが見えなくなるんだ。気をつけろ」
ついで、といった感じで七弥は俺の頬をつねる。
「い、いひゃい…っ離せ!」
「これで、身体で覚える事ができただろう?よかったな」
七弥は不気味なほどいい笑みを浮かべていた。
「よくないわ!なぁ………」
俺は七弥に、白季が言っていた事を問おうかと考えた。
……だが、それを訊ねるのは少し怖かった。
親友だと言ったコイツが、俺の死を望んでいると――思いたくなかった。
「?何だ……?」
いつまでも何も言わない俺に、七弥は不思議そうに首をかしげていた。
「……いや、何でもない」
俺はゆっくり首を横にふり、何も訊かないでおく事にした。
周りの様子――七弥の真意を確かめるまでは…何も訊かないでおいた方がいいだろう、と思ったからだ。
「…………」
納得いかない様子の七弥は、ふと薬品棚の方に目を向けて首をかしげた。
「……俺がいない間、誰かここに来たのか?」
そう言いながら、七弥が薬品棚の戸を開けて確かめている。
…確か、そこは白季がいじっていた気がするな……
その事を七弥に伝えるべきか悩んだが、黙っていれば何をされるかわからない。
――よくわからないが、そんな危機感を感じた。
「……さっき、見舞い人が来た」
俺がそう答えると、七弥の動きは止まる。
そして、こちらを向くと低い声で訊ねてきた。
「…誰が来た?ここには、誰も近づけないよう…入れないようにしているはずなのだが――」
「それは知らないが……白季という、俺の友人だという奴が来た」
「白季……?」
顎に手をあてた七弥は、何やら考え込んでしまった。
何かおかしな事でも言っただろうか…
「――そうか、ならばこちらの調査に漏れがあったのかもしれないな……」
「………は?」
その言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。
七弥は一瞬だけ『しまった』というような表情を浮かべたが、諦めたように話はじめる。
「……現在、お前は当局の監視下にあり――故に、お前の交友関係も調査されている。ついでに言うと、だな…俺も監視下に置かれているようなものだ。お前と親友だという理由でな……」
「…何故だ?俺が、あの事件と関わりがあるからか……?」
その時――俺は、七弥に見せられた号外新聞を思い出した。
「そうか、お前まで……すまない」
俺のせいで、友人知人すべてに迷惑をかけている…――
当の俺は記憶を失い、何も覚えていないというのに……
「…気にするな。お前とは、長い付き合いだからな……」
苦笑した七弥が、俺の肩をたたく。
「それよりも、早く記憶を取り戻す事だけを考えろ…このままでは、俺の仕事に影響する」
「仕事………?」
『仕事』と聞いた俺は、ふと白季が言っていた言葉を思い出した。
――七弥は、君に死んでほしいと思っているのだから……
…………俺を殺す準備を、か?
さすがに…そうとは訊けない――と言うより、自ら墓穴を掘っている感じになってしまう。
ならば、あえて普通に訊ねた方がいいよな。
「ところで、だが…お前の仕事って、何だ?」
「……ん?最初に言っただろ――お前を護衛する事が、今の俺の仕事だ」
七弥の、あまりにも普通の答えに…俺は思わず拍子抜けしてしまった。
まぁ、『お前を殺すのが仕事だ』的なことを言われても困るわけだが………
「…何を期待してたんだ、お前は……」
俺が拍子抜けしている様子を見た七弥は、まだ手に持っていたらしいバインダーで再び俺の頭を叩いた。
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