堕ちし記憶の森は

雪原るい

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1話「目覚めの悪夢」

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「……で、俺は何をすればいい?」
「とりあえず、これに署名しろ」

七弥ななやが差し出してきたのは、数十枚ある書類――
それをパラパラ見ると…『〈隠者の船〉使用許可証』と『粛清終了の報告書』と『重要参考人の護送に関する書類』――要約すると、その3種類だった。
量の割には、少ない感じだ。

……………………ん?
使、だと?

「――この船、無許可で使っているのか?」

それに気づいては、思わず呟いていた。
俺の…その呟きを聞き逃さなかった七弥ななやが、俺の肩に手を置くと…恐ろしく低い声で囁く。

「誰のせいで…大体、後で許可を取っていればどうにでもなる。お前さえサインしてしまえば、こちらで上の連中をなんとかするので気にするな」

一体…何をするつもりなんだ、コイツは………?

ふと、恐ろしい考えが頭をよぎった…が、気のせいだと自分に言い聞かせて大人しく書類にサインをした。
…しかし、後で何かされてしまうだろう人が…少し気の毒だ………

俺がサインした書類を満足そうに持った七弥ななやは、俺にこの部屋で待っているよう言うと部屋を出ていった。
……しかし、ここで何もしないで待っているのは暇でしかない。
何かあるだろし、この部屋の中を探ってみるか…?

そう考えた俺は、ベッドから立ち上がった瞬間……

――…ンコンコン。

不意に、ドアをノックする音が聞こえてきた。

七弥ななやが戻ってきた…にしては、まだ少し早過ぎる。
では、この医務室の医師か?
……いや、その前に医務室の医師はノックしないだろう。
自分の勤める部屋なのだから、遠慮する必要もないはずだ。
たとえ、俺がいるのでノックしたのであれば…ノックの後に、すぐ入ってくるだろう……

コンコンコン。

またノックする音がした。

――では…誰だ?
俺は返事をするべきか…少し悩んだが、返事をする事にした。

「……どうぞ」

俺の返事を聞いた訪問者は、扉を開ける……
入ってきたのは、白金色の髪ときれいな青紫色の瞳をした青年だった。

「…目が覚めたようだね」

そう言った彼は、嬉しそうに微笑んだ。

「死んだように眠っていたから…本当に心配したよ――どこも悪くないかい?」

青年は心配そうな様子で、俺の頭――包帯の巻かれてある位置に触れる。
俺が彼の手を払いのけると、丸椅子に腰かけた。

「……痛い」
「ふふっ、ごめん。でも、痛いって事は生きている証だからさ」

小さく笑った青年は俺に背を向けて、薬品棚に目を向けて言う。
そして、棚の戸を開けると薬瓶を手に持った。

――……もしかして。

「お前…この医務室の医師、か?」
「…えっ?違うよ。あ、でも一応医師免許は持ってるけどね」

そう答えて、薬品棚へ薬瓶を戻す。

「ふむっ…なかなか良い薬が揃っているね。さすがは〈隠者の船〉……」
「薬…好きなのか?」
「まぁ…ね。って、あれ?倉世くらせ…僕が医師免許を持っている事も、薬品類が好きなのも知っているだろう……?」

小さく頷いた青年が、驚いたように振り向いた。

俺は彼に、自分が記憶喪失である事…何がどうなのかを簡単に説明する。
七弥ななやと違い…彼はすぐにわかってくれた。

「そうか…災難だったね。僕は、白季しらき…君とは――友達だよ」
七弥ななやも、俺と親友だと言っていたな…この船には、俺の友人達でも集まっているのか?」

俺の言葉に、白季しらきは驚いたように見開く。

七弥ななや……彼が来ていたんだね。ねぇ、倉世くらせ七弥ななやには気をつけるんだよ。彼は、君に死んでほしいと思っているのだから――」
「なっ、ど…どういう事だ……?」

驚きのあまり、白季しらきの肩を掴んでしまった。
だが、白季しらきは俺の手を自分の肩から外すと…声を潜めるようにして囁く。

「決して、七弥ななやに気を許してはいけないよ。気を許せば、こちらが滅ぶ事になるのだから……」

あまりの衝撃的な言葉に、何と答えればいいのかわからず――言葉が出てこなかった。
白季しらきは医務室の外を気にしながら、俺の肩に手を置く。

「――気をつけて…ここは、敵だらけだよ。いつも君の隙を狙って、生命を奪おうとしてくるからね」

そう囁くと、俺の肩をポンポンとたたいて彼は医務室を出ていった。

…一体、どういう意味なんだ?
つまり…この船に乗っている者達が、俺の命を狙っているというのか?
一体、どうして……――
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