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6話「王女と従者と変わり者と…」
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部屋を出てすぐの廊下――そこで、セネトはベアトリーチェが来るのを待っていた。
そして、少し遅れて来たベアトリーチェにセネトが声をかける。
「えーっと…現場へ向かう前に、ベアトリーチェ様は」
「あの、セネト様…私の事は普通にお呼びください。せっかく相棒になれたのですから…」
にっこりと笑うベアトリーチェの言葉に、セネトもそれもそうだなと納得したが…さすがに、王女であるベアトリーチェを呼び捨てていいものなのかが気になった。
そして、ベアトリーチェもセネトの事を様付けで呼んでいるので密かに葛藤する。
彼の葛藤に気づいたらしいベアトリーチェが少し考え込んだ後、ある提案をした。
「…でしたら、私の事は愛称の"ヴィーチェ"でかまいません。えーっと…セネト、でよろしいですか?」
「うん、じゃあ…それで。ヴィーチェ…あの、も少しだけ砕けたしゃべり方はできる?」
頷いたセネトがベアトリーチェに訊ねると、彼女は小さく首をかしげて答える。
「はい、善処して…みるわ?かしら…あ、あの…ところで、先ほど何か私に訊きたい事でも?」
「えっ…あ、あぁ…その、ヴィーチェはどんな剣を使うのかなと思って――」
まだ少しぎこちないセネトの言葉に、首をかしげたベアトリーチェは何かを思い出したように手をたたくと慌てたようにクリストフの部屋へ戻った。
そして、すぐに戻ってきた彼女は背丈くらいの大剣を抱きかかえて頭を下げる。
「すみません…持って出るのを忘れてしまいました」
「…いや、ヴィーチェはそんな大きな剣を使うんだな」
思わずセネトがベアトリーチェの持つ大剣を見つめながら訊ねると、彼女は不思議そうに首をかしげた。
「はい…でも、皆様方は何故か驚かれるんですよ」
「ははは、だろうなー」
華奢な少女が自分の背丈ほどある大剣を振り回せば、誰だって驚くだろうと密かにセネトは考えてしまった。
***
協会本部の建物から出たセネトとベアトリーチェは、クリストフから貰った依頼書に書かれている地図を確認していた。
フローラントに土地勘のないベアトリーチェは、首をかしげて訊ねる。
「ところで、セネト――その、お屋敷はどちらにあるのでしょう?」
「うーん…あっちの、郊外つーか…街外れの、ちょっとした林の向こうらしい」
地図を見ながら東方面を指差したセネトの言葉に、ベアトリーチェが一歩前に出た瞬間――
「近いのでしょうか…っ、きゃ!?」
悲鳴を聞いたセネトがベアトリーチェに視線を向けると、彼女は向かいから走ってきた少年とぶつかり…その拍子に転げそうになっていた。
慌てたセネトはベアトリーチェの腕を引いて支えると、双方怪我がないか確認して少年へと声をかける。
「おい、大丈夫か…というか、急に走ってきたら危ないだろ?」
「いたた…大丈夫、でも道の真ん中で立ち止まってるなよ!まったく、これだから人間の子供は…」
手を差し出したセネトに、少年は文句を言うと彼の手を払いのけた。
――これだから人間の子供は…
この、少年の言葉にセネトは首をかしげた…それは、目の前にいるその少年がどう見ても自分と同じ歳頃に見えるからだ。
(何で同じ歳くらいのやつに…ぁ、もしかしてこいつ――)
ある可能性に気づいたセネトは、少年の姿や気配で確信する。
「な、なんだよ…人の事をじろじろと」
セネトの視線に少年は不愉快そうに言うが、それを無視したセネトは口を開いた。
「お前さ…もしかして、竜族?」
「へ?な、何故それを…」
少し狼狽えた少年にセネトは心の中でガッツポーズをとっていると、ベアトリーチェが不思議そうに首をかしげる。
「あの…どうしてお分かりになったのですか?」
「え、それはな――こいつ、竜の特徴をよく見ると持ってるし…着ている服も、竜族特有のものだからさ。リイムハイム竜帝国へ旅行した人間が買って着ている場合もあるけど、こいつはどう見ても竜族の子供」
ベアトリーチェに説明しながら、セネトは少年の頭――そこにある小さな角二つを指した。
驚いたようにセネトを見た少年は、気を取り直した様子で口を開く。
「っ、だ…だから何だって言うんだ!僕は急いでるんだよ」
「まぁ、気づかなくてごめんなさい…どちらへ行かれますの?」
頭を下げて謝るベアトリーチェの問いに、脱力した少年は大きくため息をつくと答えた。
「…なんと言うか、マイペースな人だな。まぁ、いいや…僕はフローラント郊外にある屋敷へ行く途中なんだけど、その前にエトレカとクリストフ達に挨拶しに来ただけ」
「エトレカのばあさんとクリストフの知り合いだったのか、お前…えーっと?」
そういえば、まだ少年の名前を訊いてなかったとセネトは自分とベアトリーチェの名を告げて少年に訊ねる。
少年は頭をかくと、自分の名を告げた。
「僕はユハ、ユハ・ルディエル。見ての通り…いや、お前の言う通り水竜だよ。それよりも、お前――セネトって言ったよな?お前、ここから出てきたって事は退魔士なんだろう?」
「そうだけど…ちなみに、なんだけど。今、何歳?」
見た目は同じくらいの年齢の少年・ユハの言動に、セネトは少々腹をたてつつ訊ねた。
突然、何を訊いてくるのかと不思議に思いながらユハはセネトの問いに答える。
「…70歳、だけど。変な事を訊いてくるやつだな…そんな事より、セネト。エトレカとクリストフはいるのか?」
「クリストフのやつなら部屋にいたけど、エトレカのばあさんは今日いるか知らない」
実年齢だと年上だけど、人の姿をだと自分と年齢はそう変わらないのだな…と独り納得したセネトが協会本部の建物を顎で指した。
セネトの隣で、ベアトリーチェも同意するように頷いている。
「そうか、ありがとう…感謝するよ。それじゃ…」
ユハはセネトとベアトリーチェに軽く頭を下げて礼を述べると、協会本部の建物の中へ入っていった。
残された2人はユハの後ろ姿を見送っていたが、ふとベアトリーチェは思い出したように口を開く。
「そういえば、あの方…郊外にあるお屋敷に行くと、言ってらっしゃいませんでした?もしかして…」
「あぁ…多分、同じところかもな。大体、フローラント郊外にある屋敷と言ったらあの一軒しかないからなー」
フローラント郊外に屋敷が一軒しかない…というわけではないのだが、フローラントでは郊外の屋敷と言ったら廃墟を指すのだ。
ちなみに、他の屋敷を指す時は『持ち主の名か家名』の屋敷と言うのが一般的である。
その事を知るセネトは持っていた紙をヒラヒラと振って、目的地である廃墟の屋敷のある方角に目を向けた。
***
そして、少し遅れて来たベアトリーチェにセネトが声をかける。
「えーっと…現場へ向かう前に、ベアトリーチェ様は」
「あの、セネト様…私の事は普通にお呼びください。せっかく相棒になれたのですから…」
にっこりと笑うベアトリーチェの言葉に、セネトもそれもそうだなと納得したが…さすがに、王女であるベアトリーチェを呼び捨てていいものなのかが気になった。
そして、ベアトリーチェもセネトの事を様付けで呼んでいるので密かに葛藤する。
彼の葛藤に気づいたらしいベアトリーチェが少し考え込んだ後、ある提案をした。
「…でしたら、私の事は愛称の"ヴィーチェ"でかまいません。えーっと…セネト、でよろしいですか?」
「うん、じゃあ…それで。ヴィーチェ…あの、も少しだけ砕けたしゃべり方はできる?」
頷いたセネトがベアトリーチェに訊ねると、彼女は小さく首をかしげて答える。
「はい、善処して…みるわ?かしら…あ、あの…ところで、先ほど何か私に訊きたい事でも?」
「えっ…あ、あぁ…その、ヴィーチェはどんな剣を使うのかなと思って――」
まだ少しぎこちないセネトの言葉に、首をかしげたベアトリーチェは何かを思い出したように手をたたくと慌てたようにクリストフの部屋へ戻った。
そして、すぐに戻ってきた彼女は背丈くらいの大剣を抱きかかえて頭を下げる。
「すみません…持って出るのを忘れてしまいました」
「…いや、ヴィーチェはそんな大きな剣を使うんだな」
思わずセネトがベアトリーチェの持つ大剣を見つめながら訊ねると、彼女は不思議そうに首をかしげた。
「はい…でも、皆様方は何故か驚かれるんですよ」
「ははは、だろうなー」
華奢な少女が自分の背丈ほどある大剣を振り回せば、誰だって驚くだろうと密かにセネトは考えてしまった。
***
協会本部の建物から出たセネトとベアトリーチェは、クリストフから貰った依頼書に書かれている地図を確認していた。
フローラントに土地勘のないベアトリーチェは、首をかしげて訊ねる。
「ところで、セネト――その、お屋敷はどちらにあるのでしょう?」
「うーん…あっちの、郊外つーか…街外れの、ちょっとした林の向こうらしい」
地図を見ながら東方面を指差したセネトの言葉に、ベアトリーチェが一歩前に出た瞬間――
「近いのでしょうか…っ、きゃ!?」
悲鳴を聞いたセネトがベアトリーチェに視線を向けると、彼女は向かいから走ってきた少年とぶつかり…その拍子に転げそうになっていた。
慌てたセネトはベアトリーチェの腕を引いて支えると、双方怪我がないか確認して少年へと声をかける。
「おい、大丈夫か…というか、急に走ってきたら危ないだろ?」
「いたた…大丈夫、でも道の真ん中で立ち止まってるなよ!まったく、これだから人間の子供は…」
手を差し出したセネトに、少年は文句を言うと彼の手を払いのけた。
――これだから人間の子供は…
この、少年の言葉にセネトは首をかしげた…それは、目の前にいるその少年がどう見ても自分と同じ歳頃に見えるからだ。
(何で同じ歳くらいのやつに…ぁ、もしかしてこいつ――)
ある可能性に気づいたセネトは、少年の姿や気配で確信する。
「な、なんだよ…人の事をじろじろと」
セネトの視線に少年は不愉快そうに言うが、それを無視したセネトは口を開いた。
「お前さ…もしかして、竜族?」
「へ?な、何故それを…」
少し狼狽えた少年にセネトは心の中でガッツポーズをとっていると、ベアトリーチェが不思議そうに首をかしげる。
「あの…どうしてお分かりになったのですか?」
「え、それはな――こいつ、竜の特徴をよく見ると持ってるし…着ている服も、竜族特有のものだからさ。リイムハイム竜帝国へ旅行した人間が買って着ている場合もあるけど、こいつはどう見ても竜族の子供」
ベアトリーチェに説明しながら、セネトは少年の頭――そこにある小さな角二つを指した。
驚いたようにセネトを見た少年は、気を取り直した様子で口を開く。
「っ、だ…だから何だって言うんだ!僕は急いでるんだよ」
「まぁ、気づかなくてごめんなさい…どちらへ行かれますの?」
頭を下げて謝るベアトリーチェの問いに、脱力した少年は大きくため息をつくと答えた。
「…なんと言うか、マイペースな人だな。まぁ、いいや…僕はフローラント郊外にある屋敷へ行く途中なんだけど、その前にエトレカとクリストフ達に挨拶しに来ただけ」
「エトレカのばあさんとクリストフの知り合いだったのか、お前…えーっと?」
そういえば、まだ少年の名前を訊いてなかったとセネトは自分とベアトリーチェの名を告げて少年に訊ねる。
少年は頭をかくと、自分の名を告げた。
「僕はユハ、ユハ・ルディエル。見ての通り…いや、お前の言う通り水竜だよ。それよりも、お前――セネトって言ったよな?お前、ここから出てきたって事は退魔士なんだろう?」
「そうだけど…ちなみに、なんだけど。今、何歳?」
見た目は同じくらいの年齢の少年・ユハの言動に、セネトは少々腹をたてつつ訊ねた。
突然、何を訊いてくるのかと不思議に思いながらユハはセネトの問いに答える。
「…70歳、だけど。変な事を訊いてくるやつだな…そんな事より、セネト。エトレカとクリストフはいるのか?」
「クリストフのやつなら部屋にいたけど、エトレカのばあさんは今日いるか知らない」
実年齢だと年上だけど、人の姿をだと自分と年齢はそう変わらないのだな…と独り納得したセネトが協会本部の建物を顎で指した。
セネトの隣で、ベアトリーチェも同意するように頷いている。
「そうか、ありがとう…感謝するよ。それじゃ…」
ユハはセネトとベアトリーチェに軽く頭を下げて礼を述べると、協会本部の建物の中へ入っていった。
残された2人はユハの後ろ姿を見送っていたが、ふとベアトリーチェは思い出したように口を開く。
「そういえば、あの方…郊外にあるお屋敷に行くと、言ってらっしゃいませんでした?もしかして…」
「あぁ…多分、同じところかもな。大体、フローラント郊外にある屋敷と言ったらあの一軒しかないからなー」
フローラント郊外に屋敷が一軒しかない…というわけではないのだが、フローラントでは郊外の屋敷と言ったら廃墟を指すのだ。
ちなみに、他の屋敷を指す時は『持ち主の名か家名』の屋敷と言うのが一般的である。
その事を知るセネトは持っていた紙をヒラヒラと振って、目的地である廃墟の屋敷のある方角に目を向けた。
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