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6話「王女と従者と変わり者と…」
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「…もう、最悪だったな」
早朝の、協会の廊下でセネトはぐったりしながら呟いた。
それもそのはず…説教的な意味と、魔法的な意味で雷を落とされ疲れていたのだ。
――まぁ、一晩中説教していた父親の方が疲労困憊であろうが。
昨日もいたクリストフの部屋の前までやって来たセネトは、大きくため息をついた。
(はぁ…平常心、平常心っと)
ノックをして部屋に入ると、そこには何故か驚いているクリストフとイオンの姿と来客一人の後ろ姿が見える。
来客がいるのなら出直そうとしたセネトを、クリストフが呼び止めて手招いた。
首をかしげたセネトはクリストフの元へ向かう途中で、その来客の正体に気がつく。
「ぇ…もしかして、王女様っ!?」
「おはようございます、セネト様」
驚くセネトに、来客である王女・ベアトリーチェがにっこりと微笑んで頭を下げた。
彼女は昨日と違って長い髪を三つ編みにし、ドレスではなく動きやすそうなワンピースを着ていたのだ。
書類を手に、息をついたクリストフがセネトに空いているソファーへ座るように声をかけると話しはじめる。
「えー…っと、ベアトリーチェ様は社会勉強の為にしばらく当協会の退魔士になられるそうです。それで、その間相棒としてセネト…あなたが指名されました」
「へぇー、ベアトリーチェ様が退魔士に…で、おれの相棒にねぇ――って、うぇ!?」
クリストフの言葉を頷いて聞いていたセネトは素っ頓狂な声をあげ、クリストフと王女の顔を交互に見た。
(あぁ、だから動きやすそうな服を…じゃなくて、おれにもついに相棒が…って、これも違う!つーか、何故だ?)
もはや、わけがわからなくなったセネトがパニック状態に陥っているのを見た王女はクスクスと笑う。
「驚かせてしまい、申し訳ありません…私、こう見えて剣の扱いに長けてますの。セネト様の足は引っぱりません!」
「いやいや…って、クリストフ!」
クリストフのデスクに身を乗り出したセネトは、小声で訊ねた。
「何で止めないんだよ…つーか、ルカリオは?」
「止めるも止めないも、テセリアハイト王の署名付きの手紙を持ってらしたので…しかも『娘を頼む』とあったら、もう僕には止められません」
クリストフが引き出しからだしたのは、テセリアハイト王家の紋の入った封蝋付きの封筒だった。
「フローラントの御三家のひとつであるユースミルス家本流のあなたが相棒になるなら安心だ、とありましたし…」
「それは、私がお父様にお話しいたしました…それにセネト様のご実家であるユースミルス家は、私のお母様のご実家でもありますから」
いつの間にか、セネトの隣に立った王女が理由を説明する。
――そういえば、親戚でテセリアハイト王家に嫁いだ従叔母がいたな…と、思いだしたセネトは納得したように頷いた。
納得してもらえたと思った王女は、満面の笑みで頭を下げる。
「これからよろしくお願いします、セネト様」
「えっ…いや、こちらこそ…?」
思考停止したセネトがぺこりと頭を下げて、「はい」と答えた王女は嬉しそうに微笑んだ。
……こうして、セネトは新しい相棒が決まったわけである。
***
早朝の、協会の廊下でセネトはぐったりしながら呟いた。
それもそのはず…説教的な意味と、魔法的な意味で雷を落とされ疲れていたのだ。
――まぁ、一晩中説教していた父親の方が疲労困憊であろうが。
昨日もいたクリストフの部屋の前までやって来たセネトは、大きくため息をついた。
(はぁ…平常心、平常心っと)
ノックをして部屋に入ると、そこには何故か驚いているクリストフとイオンの姿と来客一人の後ろ姿が見える。
来客がいるのなら出直そうとしたセネトを、クリストフが呼び止めて手招いた。
首をかしげたセネトはクリストフの元へ向かう途中で、その来客の正体に気がつく。
「ぇ…もしかして、王女様っ!?」
「おはようございます、セネト様」
驚くセネトに、来客である王女・ベアトリーチェがにっこりと微笑んで頭を下げた。
彼女は昨日と違って長い髪を三つ編みにし、ドレスではなく動きやすそうなワンピースを着ていたのだ。
書類を手に、息をついたクリストフがセネトに空いているソファーへ座るように声をかけると話しはじめる。
「えー…っと、ベアトリーチェ様は社会勉強の為にしばらく当協会の退魔士になられるそうです。それで、その間相棒としてセネト…あなたが指名されました」
「へぇー、ベアトリーチェ様が退魔士に…で、おれの相棒にねぇ――って、うぇ!?」
クリストフの言葉を頷いて聞いていたセネトは素っ頓狂な声をあげ、クリストフと王女の顔を交互に見た。
(あぁ、だから動きやすそうな服を…じゃなくて、おれにもついに相棒が…って、これも違う!つーか、何故だ?)
もはや、わけがわからなくなったセネトがパニック状態に陥っているのを見た王女はクスクスと笑う。
「驚かせてしまい、申し訳ありません…私、こう見えて剣の扱いに長けてますの。セネト様の足は引っぱりません!」
「いやいや…って、クリストフ!」
クリストフのデスクに身を乗り出したセネトは、小声で訊ねた。
「何で止めないんだよ…つーか、ルカリオは?」
「止めるも止めないも、テセリアハイト王の署名付きの手紙を持ってらしたので…しかも『娘を頼む』とあったら、もう僕には止められません」
クリストフが引き出しからだしたのは、テセリアハイト王家の紋の入った封蝋付きの封筒だった。
「フローラントの御三家のひとつであるユースミルス家本流のあなたが相棒になるなら安心だ、とありましたし…」
「それは、私がお父様にお話しいたしました…それにセネト様のご実家であるユースミルス家は、私のお母様のご実家でもありますから」
いつの間にか、セネトの隣に立った王女が理由を説明する。
――そういえば、親戚でテセリアハイト王家に嫁いだ従叔母がいたな…と、思いだしたセネトは納得したように頷いた。
納得してもらえたと思った王女は、満面の笑みで頭を下げる。
「これからよろしくお願いします、セネト様」
「えっ…いや、こちらこそ…?」
思考停止したセネトがぺこりと頭を下げて、「はい」と答えた王女は嬉しそうに微笑んだ。
……こうして、セネトは新しい相棒が決まったわけである。
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