75 / 94
5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」
11
しおりを挟む
セネトが黒髪の青年を睨みつける…が、当の青年は涼しい顔でそれを見返してるだった。
相手が何も答えないので、仕方なくセネトはルフェリスとヴァリスに声をかけようと目を向けて気づく。
そこに2人の姿はなく…いや、セネトから少し離れたところにヴァリスは右肩をおさえながらうずくまっており…ルフェリスは倒れたところを何者かに髪を引っぱられ、苦しげに顔を上げさせられていた。
2人の、その姿を…そして、彼らの傍らに立つ何者かを確かめたセネトは納得したように頷く。
「ちっ、もう一人って…そっちにいたのかよ。つーか、てめーら…何者なんだって、おれは聞いてんだけど?」
苦笑いしたセネトは、ルフェリスの髪を引く人物に目を向けた。
――その人物は紫色の髪をした青年で、無表情に2人を見下ろす。
セネトの言葉を無視した紫色の髪の青年はルフェリスの髪を掴んだまま、反対の手でヴァリスの胸倉を鷲掴んだ。
そして、そのまま黒髪の青年の元まで引きずるとヴァリスだけを黒髪の青年の前に突き飛ばした。
倒れ込んだヴァリスの頭を、黒髪の青年が踏みつけて感情のない声音で声をかける。
「まったく…一族の面汚し共が。せっかく与えられた時を、ずいぶん無駄に使ったようだな…」
「エレディアとアードレアの"血の誓約"を守れぬとは、両家の名を汚したも同じ…万死に値するぞ」
紫色の髪をした青年が、黒髪の青年の言葉に続けて言う――同じく、感情のない声音で。
結界を無理矢理解除され受けたダメージと、存在まるっと無視されたのに腹を立てたセネトは黒髪の青年を押し退けて紫色の髪をした青年の手を払う。
「だーかーらー…お前らは、誰かと聞いてるんだ!それと、こいつらをどうするつもりだ?というか、時を与えたって…どういう意味だ。だいたい、おれの魔法に無理矢理干渉しやがって――」
息を切らせたセネトが一気にまくしたてながら、突如現れた2人の青年を交互に指差した。
この青年2人の正体が、エレディア家とアードレア家の者である事を先ほどの会話で理解できるが…あえて、何者なのかを訊ねたのだ。
しばらく無言でセネトに目を向けていた黒髪の青年は、セネトの…指差す方の腕をとり、一気にセネトの背後へ引くと答える。
「私はヴェンデル・エレディア…この、ヴァリスの親戚にあたる者だ」
「俺はテルエル・アードレア…この男、ルフェリスの親戚にあたる…だよな?」
黒髪の青年・ヴェンデルの次に口を開いたのは、紫色の髪の青年・テルエルだった。
…彼は感情もなく言うと、冷たくルフェリスとヴァリスへ視線を向ける。
その視線の意味に気づいたルフェリスとヴァリスは黙ったまま…決して、ヴェンデルとテルエルの方を見ようとしなかった。
ルフェリスとヴァリスの様子で、彼らの立場を理解したセネトは痛みを堪えながら訊ねた。
「っ…という事は、お前ら2人もフレネ村の人間なんだろ?確かに、赦されない事をしたかもしれないが…元をただせば、お前らにだって責任あるだろうが」
なるべく自分の方へと注意を向けさせながら、セネトはわざと挑発めいた事を言った。
セネトの言葉に…ヴェンデルとテルエルは互いに顔を見合わせると、口元だけに笑みを浮かべて答える。
「フレネ村にあったエレディア、アードレアは…リグゼノに故あって仕えていた分家…その、最後の者がルフェリスとヴァリスの養い親らであった。なので、我々はフレネ村の者ではない」
「我らはフレネ村にあった分家の――最後の血族を殺め、養い子達をも利用するフレネの者の断罪…そして、エレディアとアードレアの名を貶めたこの者達とお前達の救援に来ただけ」
フレネ村の凶行を最初に止めようとしたのが、エレディアとアードレアの分家の者達――つまり、ルフェリスの育ての親とヴァリスの育ての親であったのだとヴェンデルとテルエルは語った。
初めて聞いた真実にルフェリスとヴァリスは、愕然としていた…それもそのはず、育ての親は魔物に殺されたと彼らは思っていたのだから。
…だが、何かが腑に落ちたらしいルフェリスとヴァリスは俯くと静かに涙を流していた。
「どうやって調べたかは…聞かなくても予想できるが、この2人に"血の誓約"をさせたのは何故だ…?」
ルフェリス達の言葉の端々で、何を意味しているのかわかったイアンはヴェンデルとテルエルに訊ねる。
「何故…イアン殿は知っておられるのでは?あぁ…もしかして、この2人はエレディアとアードレアの血族ではない事が気になられたか?」
それに答えたのは、肩をすくめているテルエルだった。
確かに、ルフェリスとヴァリスはアードレアとエレディアに拾われたと話していたのを思いだしたセネトは首をかしげる。
セネトはわかっていないだろうな、と感じたイアンはヴェンデルとテルエルへ銃を向けて舌打ちをした。
「リグゼノの裏切りに、エレディア家とアードレア家が報復としてお前らを派遣したんだろう…救援というには、少々無理あるだろうが」
「そ、そんなもの…大体、誰も呼んでねーし。そもそも、解決しそうな時にのこのこ出てきやがって…」
我に返ったセネトはヴェンデルの手を払いのけ、もう一度術式を描きだす。
「誰も呼んでいない」というセネトの言葉に、同意するように頷いたクリストフは口を開いた。
「この件は僕とイアンが受けたもの、あなた方の上司であるダンフォースが受けたものではない。引きなさい!」
「解決しそうな時にのこのこ…とは、心外な――確かに、ダンフォース様が受けたものではないが…」
呆れたような様子でヴェンデルが答えると、小さくため息をついたテルエルが言葉を続ける。
「協会一、ニを争う問題児を連れてくる――その、神経はわからない。それを考慮し、ダンフォース様は貴方方だけでは荷が重いと判断され…とても心配されていた」
「おい!その問題児って、おれの事かー!!そーいえば、その変な噂はエレディアが発信源だったよな。ふざけるな!」
どう考えても、それが自分の事だろう…と、怒ったセネトはヴェンデルとテルエルに抗議する。
用意していた術式に、魔力を込めて口早に詠唱したセネトはヴェンデルとテルエルへ向けて魔法を放つと空から雷が降り注いできた。
相手が何も答えないので、仕方なくセネトはルフェリスとヴァリスに声をかけようと目を向けて気づく。
そこに2人の姿はなく…いや、セネトから少し離れたところにヴァリスは右肩をおさえながらうずくまっており…ルフェリスは倒れたところを何者かに髪を引っぱられ、苦しげに顔を上げさせられていた。
2人の、その姿を…そして、彼らの傍らに立つ何者かを確かめたセネトは納得したように頷く。
「ちっ、もう一人って…そっちにいたのかよ。つーか、てめーら…何者なんだって、おれは聞いてんだけど?」
苦笑いしたセネトは、ルフェリスの髪を引く人物に目を向けた。
――その人物は紫色の髪をした青年で、無表情に2人を見下ろす。
セネトの言葉を無視した紫色の髪の青年はルフェリスの髪を掴んだまま、反対の手でヴァリスの胸倉を鷲掴んだ。
そして、そのまま黒髪の青年の元まで引きずるとヴァリスだけを黒髪の青年の前に突き飛ばした。
倒れ込んだヴァリスの頭を、黒髪の青年が踏みつけて感情のない声音で声をかける。
「まったく…一族の面汚し共が。せっかく与えられた時を、ずいぶん無駄に使ったようだな…」
「エレディアとアードレアの"血の誓約"を守れぬとは、両家の名を汚したも同じ…万死に値するぞ」
紫色の髪をした青年が、黒髪の青年の言葉に続けて言う――同じく、感情のない声音で。
結界を無理矢理解除され受けたダメージと、存在まるっと無視されたのに腹を立てたセネトは黒髪の青年を押し退けて紫色の髪をした青年の手を払う。
「だーかーらー…お前らは、誰かと聞いてるんだ!それと、こいつらをどうするつもりだ?というか、時を与えたって…どういう意味だ。だいたい、おれの魔法に無理矢理干渉しやがって――」
息を切らせたセネトが一気にまくしたてながら、突如現れた2人の青年を交互に指差した。
この青年2人の正体が、エレディア家とアードレア家の者である事を先ほどの会話で理解できるが…あえて、何者なのかを訊ねたのだ。
しばらく無言でセネトに目を向けていた黒髪の青年は、セネトの…指差す方の腕をとり、一気にセネトの背後へ引くと答える。
「私はヴェンデル・エレディア…この、ヴァリスの親戚にあたる者だ」
「俺はテルエル・アードレア…この男、ルフェリスの親戚にあたる…だよな?」
黒髪の青年・ヴェンデルの次に口を開いたのは、紫色の髪の青年・テルエルだった。
…彼は感情もなく言うと、冷たくルフェリスとヴァリスへ視線を向ける。
その視線の意味に気づいたルフェリスとヴァリスは黙ったまま…決して、ヴェンデルとテルエルの方を見ようとしなかった。
ルフェリスとヴァリスの様子で、彼らの立場を理解したセネトは痛みを堪えながら訊ねた。
「っ…という事は、お前ら2人もフレネ村の人間なんだろ?確かに、赦されない事をしたかもしれないが…元をただせば、お前らにだって責任あるだろうが」
なるべく自分の方へと注意を向けさせながら、セネトはわざと挑発めいた事を言った。
セネトの言葉に…ヴェンデルとテルエルは互いに顔を見合わせると、口元だけに笑みを浮かべて答える。
「フレネ村にあったエレディア、アードレアは…リグゼノに故あって仕えていた分家…その、最後の者がルフェリスとヴァリスの養い親らであった。なので、我々はフレネ村の者ではない」
「我らはフレネ村にあった分家の――最後の血族を殺め、養い子達をも利用するフレネの者の断罪…そして、エレディアとアードレアの名を貶めたこの者達とお前達の救援に来ただけ」
フレネ村の凶行を最初に止めようとしたのが、エレディアとアードレアの分家の者達――つまり、ルフェリスの育ての親とヴァリスの育ての親であったのだとヴェンデルとテルエルは語った。
初めて聞いた真実にルフェリスとヴァリスは、愕然としていた…それもそのはず、育ての親は魔物に殺されたと彼らは思っていたのだから。
…だが、何かが腑に落ちたらしいルフェリスとヴァリスは俯くと静かに涙を流していた。
「どうやって調べたかは…聞かなくても予想できるが、この2人に"血の誓約"をさせたのは何故だ…?」
ルフェリス達の言葉の端々で、何を意味しているのかわかったイアンはヴェンデルとテルエルに訊ねる。
「何故…イアン殿は知っておられるのでは?あぁ…もしかして、この2人はエレディアとアードレアの血族ではない事が気になられたか?」
それに答えたのは、肩をすくめているテルエルだった。
確かに、ルフェリスとヴァリスはアードレアとエレディアに拾われたと話していたのを思いだしたセネトは首をかしげる。
セネトはわかっていないだろうな、と感じたイアンはヴェンデルとテルエルへ銃を向けて舌打ちをした。
「リグゼノの裏切りに、エレディア家とアードレア家が報復としてお前らを派遣したんだろう…救援というには、少々無理あるだろうが」
「そ、そんなもの…大体、誰も呼んでねーし。そもそも、解決しそうな時にのこのこ出てきやがって…」
我に返ったセネトはヴェンデルの手を払いのけ、もう一度術式を描きだす。
「誰も呼んでいない」というセネトの言葉に、同意するように頷いたクリストフは口を開いた。
「この件は僕とイアンが受けたもの、あなた方の上司であるダンフォースが受けたものではない。引きなさい!」
「解決しそうな時にのこのこ…とは、心外な――確かに、ダンフォース様が受けたものではないが…」
呆れたような様子でヴェンデルが答えると、小さくため息をついたテルエルが言葉を続ける。
「協会一、ニを争う問題児を連れてくる――その、神経はわからない。それを考慮し、ダンフォース様は貴方方だけでは荷が重いと判断され…とても心配されていた」
「おい!その問題児って、おれの事かー!!そーいえば、その変な噂はエレディアが発信源だったよな。ふざけるな!」
どう考えても、それが自分の事だろう…と、怒ったセネトはヴェンデルとテルエルに抗議する。
用意していた術式に、魔力を込めて口早に詠唱したセネトはヴェンデルとテルエルへ向けて魔法を放つと空から雷が降り注いできた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる